ep.26
倒壊し、崩れ落ちた鉄塔の残響が静かに響き渡り、辺りは一瞬、音を失ったかのように静まりかえる。
ツィナを抱えたまま、私は推進装置のノズルを絞り、降下。
舞い上がる土煙に滑り込むように、瓦礫の上へと着地する。
空気圧で払われた塵がわずかに舞い、レッグギアの足底部が瓦礫に沈み込むと、ガチャンと乾いた音が鳴った。
ツィナはその拍子に私の腕から軽やかに飛び降りる。
少しだけバベルを引きずりながらも、すぐに持ち直し、腰部装置に再接続。
そしてこちらを見上げて――言う。
「そこにあるものでいい、なるべく大きめの石でも瓦礫でも重ねてくれないか?狙撃台座が欲しい! コイツを我が身一つで支えて撃つのは、流石にワタシでも無理だ!」
揺るぎのない声。
そして、少し楽しそうに笑うような、まったく不安の色を見せない表情。
私は急ぎ、周囲から手近な瓦礫をかき集める。
砕けたコンクリート片、鉄くず、木材の断片――重ね合わせて即席の狙撃台座を作り上げた。
ツィナはその出来に満足したように頷き、バベルを手に取ると射撃姿勢へと入り、機構を確かめる。
「……悪くないな。ヨシ」
ツィナは通信機に手を添え、ハーローに呼びかける。
「どうだ、ハーロー! 私の位置からヤツの座標は算出できたか!」
すぐに、通信越しのハーローの声が返る。
「いけます……!ツィナさんの現在地から見て、北北東の22.5度方向、距離は1100メートル、高さは地上から16メートルほどです!……いけますか?」
「問題ない!」
ツィナは即答した。
「ヤツは動いていないのか? ならば次の射撃はさっきの四割だ! 十五秒あれば撃てる! いいな!」
そう言いながら、腰部装置から新たな弾頭を取り出し、
ガンッと勢いよく、バベルの射撃機構にねじ込むように装填する。
そして――一呼吸置いて、こちらを向いた。
すでに、勝利を確信しているかのような瞳だった。
すべてを受け入れ、すべてを覚悟しきった、まっすぐで力強い視線。
「二度目になるが、あまり近くにいると巻き添えを食らうことになる!世話になった、マキア! そして、ワタシはもう一人で十分だ!あと、最後に――射撃を終えるまで守ってくれ!」
ツィナが、笑った。
まるで別れの挨拶のような、それでいて悲しみも不安も一切含まれない笑顔だった。
自信と、覚悟と、腹に据えた決意だけを抱えて、彼女はそこにいた。
その姿に、私は思う。
彼女は、私の中でまだ飲み込めない“何か”を、とっくに飲み込んでいる。
私は静かに応える。
「……わかりました」
そして、彼女から距離を取った。
その背中から――
確かに、勇気と自信をもらった気がした。
私は、自分の手にある銃を、ギュッと握りしめる。




