ep.23
小型ドローンが何機か、滑るように飛来してくるが――その背後に控える護衛部隊の4人が正確に射線を合わせ、撃ち落としていく。
火花が散り、装甲の破片が軌跡を描きながら落ちる。
ドローンの残骸が地面に叩きつけられるたびに、まるで敵意そのものが削がれていくようだった。
(ここまで来た……)
強く握っていたグリップから、わずかに力が抜ける。
射線上には、もはや遮るものはない。
ツィナの声が、あの轟音の中を突き破るように届く。
「射撃の衝撃波は凄まじい! 周囲に及ぼす振動は心の臓が震えだし、気を失う! ここから離れよ!!」
その声に、私は即座に応えた。
「……わかりました!」
手元が震える。慣れない動作で三脚を畳み、腰部装置に引っ掛ける。
《オウル》は熱を帯び、腕に抱えるだけで焼けつくようだった。だが、構っていられない。
マガジン――エネルギーカートリッジを片手に握る。
足元の鉄板を蹴り、腰部とレッグギアの推進装置を点火。
白煙と熱を残して空へ舞い上がる。
ツィナとの距離をとる。
だが、なおも聞こえる。あの兵装が発する不穏な響き。
銃身の唸りが、空気を揺らし、体の芯にまで届く。
遠くにあっても、視界の端に残る巨大な《バベル》の影。その圧倒的な存在感。
私は呼吸を整える。
吸って、吐いて――銃の熱も、喉の乾きも、今は忘れる。
風に乗りながら、ただ、そこに留まる。
(ここで、見届ける……)
そう思った、そのとき――通信が入る。
「本作戦の撃破対象の後方、大型ドローンよりエネルギーの収束を確認! 収束ビームが放たれます! 目標はG地区、まさにツィナさんのいる方向へ差し向けられています! 現状、遊撃隊には見向きもいたしません!」
ハーローの早口。切迫しているのが伝わってくる。
だが、それに応えるツィナの声は――どこまでも、強かった。
「構わん! 奴より早く撃てばいいだけ! ここまで来ればこっちのもの!」
……なんという自信。
通信が切り替わる。
「マキアさん、狙えますか? 一撃でもいいです。その《オウル》であれば、着弾すれば対空制動を乱せることができ、射線にブレが生じます!」
「……やってみます」
静かに、私は応えた。
当たるはずがない。
滞空状態での狙撃――それも、精密射撃。
だが、高所を取る時間はない。ここで、やるしかない。
スコープを覗く。指が、引き金にかかる。チャージ開始。
(見える……けど、揺れる。視点が安定しない……)
大型ドローンの光――収束する兵装の閃きが目を射る。
それは一瞬。
目には見えぬほどの速度で放たれる、強力なビーム。
軌道すら残さぬそれは、まるで私の手に持つ《オウル》と同じ。
3秒……銃身にエネルギーは充填された。
私は引き金を――握る。
ピィイイインッ!
高音が耳を裂く。
軽く跳ねた銃の反動を制御し、足を伸ばして姿勢を整える。
スコープ越しに、放たれた弾丸が空気を裂く。
だが――
(また……外れた……!)
私は、もう手もかけず、銃身から使い終えたカートリッジを抜いて、空に落とす。
次弾――新たなエネルギーカートリッジを装填。
カチリ。
確かな音がした。
だが、朱く染まる銃口は――明らかに限界を超えていた。
ブレた軌道は、標的から逸れてどこかの壁を穿つ。
呼吸を止めていたことに、ようやく気づいた。
一気に吐き出した息。胸が痛い。




