ep.22
ツィナの声は、どこまでも落ち着いていた。
震えも、迷いも、怒りもない。ただ確信だけを帯びた、真っ直ぐな言葉。
……微動だにしない。狙撃姿勢のまま、目すら動かさずに。
そして。
ミサイルポッドが吐き出す。
小型の弾頭が連なって飛び出した瞬間――
爆発。
炸裂音と共に、片方の大型ドローンのポッドが閃光に包まれた。
空中で、火花が散るようにミサイルが破裂し、黒煙が渦巻く。
ルーアか、リネアか。
どちらかが撃ったのだ。
射出“直後”のミサイルに、銃弾を命中させて破壊する。
それは、かつて先輩から教わったテクニックのひとつ。
――「発射前を狙って。飛び出した瞬間が狙い目。でも、やれるかは腕次第。」
誰もが真似できる芸当ではない。
空に浮かぶ敵影、ハッチを見つけ、先読みし、誘爆させる――一瞬の判断と、限界ぎりぎりの反応速度が求められる。
(本当に……やった……)
けれど、大型ドローンは倒れていない。
装甲を半壊させたそれは、わずかに揺れながらも、自動姿勢制御でバランスを取り直し、再び水平を保とうとしていた。
私は息を呑む。
だが、その刹那――通信が入る。
【ハーロー:通信開始】
「只今より4秒後にツィナさんの狙撃地点に到達します! 輸送部隊の皆様!直ちに迎撃銃で空へ向けて!――鉄の壁を展開してください!!」
その声が戦場に突き刺さる。
背筋が、ゾクリとした。
パンッ――。
乾いた音が、腹の底に響いた。
鋭く、地面を弾くようなその音は、直下から鳴った迎撃銃の発砲音。
だが、目前のミサイルはなおも直進を続ける。速度を緩めることはなく、空気を裂いて眼前に迫る。たった1秒、その時間すら永遠に思えるほど、凄まじい勢いだった。
そして、再び――パンッ。
今度はもう一つ、重なるようにして鳴る。
わずかに間隔を置いて、二段構造の迎撃弾が展開された。
空中で“開いた”それは、小さな鉄球を無数に撒き散らす。
まるで、空を埋め尽くす鉄の雨のように。
その鉄の壁に、ミサイルは突っ込んだ。
ドガァン――!
大気が爆ぜる。
小型の炸薬が一斉に誘爆し、まるで火の粉が空を彩るように、空中で次々とミサイルが炸裂した。
視界を包む閃光と爆煙。大気がひるがえり、鉄と火薬の匂いが風に乗る。
(……防いだ)
短く息を吐いた。けれど、終わっていない。
耳に入るシグナル。
ツィナが通信を開く。その声は、場のすべてを支配するように響き渡った。
「残り15秒だ! 今暫く耐えてくれ! ハーロー!時間ギリギリまで引きつけて、射撃に巻き込まれる前に前線を引くように頼む!」
「はい、わかりました。今から、約15秒、計測します! ルーア、リネア共に護衛部隊の方と連携を取り、後退します!では、通信を切ります!」
キィン……と耳の奥で、まだ金属音が残っていた。
だが、戦場は確実に静まりつつある。
次のミサイルは来ない。




