ep.20
トリガーを引くと、銃は軽やかな音を立てて一射を放った。エネルギー弾が空を裂くようにまっすぐ飛び、目にも留まらぬ速さで大型ドローンの肩部に命中する。
直後。
バシン、と音は響かず、静かに黒煙が立ち上がった。
(やった……?)
だが、それはまだ終わりではなかった。
ドン――という爆発音が響いたのは、次の瞬間だった。
スコープ越しに、肩部の装甲が内部から破裂し、ハッチのような蓋が吹き飛んだのが見えた。火薬か何かが誘爆したのだろう。炎が瞬くように噴き出し、内部の機関がむき出しになる。
続いて機体はバランスを崩したようにふらつき、ふわりと揺れると、周囲の建造物にぶつかって傾きながら墜落していく。そのまま見えない死角に落ち、やや間を置いてから、再び爆音が轟いた。
「ミサイルハッチを狙ったのか!考えたな!大手柄だ!」
ツィナの声が飛んできた。だが私は、返答に詰まる。
決して、狙ったわけではなかった。コアを狙ったつもりが、装甲の縫い目に逸れ、たまたまハッチに命中しただけだ。
「……はい、当たっちゃった……」
呟いた声は、少し震えていた。
でも、誰もそれを責めない。責められるはずもない。倒したのは事実で――私は、今、敵を撃ち落とした。
心臓がまだバクバクと鳴っている。
高所の風が、ぬるくも鋭く肌を撫で、汗ばんだ背中を冷やしていく。だが顔は熱い。身体の芯から火照るような熱と、冷たい現実がせめぎ合って、私はその狭間にいた。
スコープを覗くと、もう一機の大型が視界に入りつつある。
引き金に指をかけようとするが――カチャ、と軽い空振り音。
……弾切れだ。
慌てず、素早くカートリッジを引き抜く。熱が指先を焼くようだが、構っていられない。
すぐ傍に置いてある予備のマガジンを手に取り、差し込む。カチャリ、と乾いた音が鳴り、再び銃は息を吹き返した。
声に出してみると、少しだけ不安が薄らいだ気がした。
私は再び、銃を構える。まだ終わっていない。
死角の影から――現れる。
それは潮のように、淀みなく、連続して。
一度の襲来に終わるはずもなく、次から次へと。
視界の端から、また現れた。
無数の小型ドローンの群れが、空を覆うように飛来する。
それを押し出すように、2機の大型ドローン。
その後ろには、さらに一回り大きな、強化装甲の異様な存在――まるで“指揮官”のような風格を備えた個体が悠然と浮かんでいる。
さらにその背後から、影のように付き従う1機の大型。威圧の層が、空を幾重にも覆っていく。
思わず、生唾を飲み込む。
喉の奥がきしりと音を立てるような感覚だった。
冷たいものが背中を這う。これまでとは明らかに“格”が違う。数だけではない。質も、意思も、攻撃そのものが暴力的に進化している。
「……っ!」
ルーアとリネアの姿が、一閃のように走る。
2人は、その圧倒的な物量に抗うように、空を裂く。
目に留まらぬ動き――いや、本当に見失うほどの速度だ。
小型の機銃の雨が降る。榴弾が破裂し、爆風が吹き荒れる。大型ドローンからは咆哮のような銃撃音が鳴り響き、音と衝撃が空気を切り裂く。
だが、2人は怯まない。
腰部装置から放たれる無数のフレアが、追尾ミサイルの視界を狂わせる。爆発の閃光を背に、翻るように空を舞い、体を転がすようにして攻撃をかわしていく。
空中を滑る軌道が、流れる刃のようで、思わず見惚れてしまう。
「――来たな……!」
ツィナが口を開いた。
その声には、張り詰めた力と、芯から燃える決意が宿っていた。
彼女の身体がギリ、と音を立てるように力む。
腰部装置とレッグギア、そして彼女の手にする銃――『バベル』が、けたたましい音を立てて唸り出す。




