ep.18
顔に叩きつけるような風を受けながら、私は地面を蹴った。
推進装置が火を噴き、世界が一気に遠ざかる。
目指すは、作戦の要となる狙撃地点。
鉄板の床に着地すると、足元からカンッという乾いた高音が鳴った。
熱風に包まれていた体に、ひやりとした金属の冷たさが戻ってくる。
見上げれば、さらに上へと伸びる鉄骨と鉄柱が複雑に絡む構造。
そして、その先――伏せた姿勢で、街全体を双眼鏡越しに見渡している少女がひとり。
ハーロー。
小柄で、私よりも背が低いその少女が、姿勢を崩さず振り返った。
「このような姿勢で失礼します。よくお越しくださいました」
ハーローの傍らには、小さな三脚と狙撃銃。
淡々としたその声音と、手際のよさに、どこか不思議な威圧感がある。
「マキアさん、ご苦労さまでした。ツィナさん、バベルの使用はここで大丈夫ですか?」
私の背から、ツィナがひらりと飛び降りる。
「絶好のポイントだ! 見晴らしも良い。ここなら十分だな。ふむ、では狙撃台座を準備しよう! 見えているすべてが射程範囲だ!」
その言葉を確認と受け取り、ハーローはすぐさま通信を開く。
「こちらハーローです。遊撃隊の二人は区画FとEの近辺にて後退しつつ交戦をお願いします。交戦開始から狙撃の有無に関わらず、3分経過後に撤退。もしくはバベルの狙撃失敗時は直ちに即時撤退を。よろしくお願いします」
「ツィナさん、発射カウントダウン15秒前に各部隊にシグナルを送ってください。頼みました」
そして視線を切り替える。
「ルーアさん、リネアさん、視点をリンクさせてこちらで共有します。HUDで把握しますね。ジェレさんと合流し、直ちに私もそちらに向かいます」
通信が切れた。
風が再び吹き抜ける中で、ハーローは私の腰の銃に目を向けた。
「それを――貸していただけませんか?」
「えっ?」
私の声が上ずるより早く、ハーローはすでに別の銃を持ち出していた。
長く、ずっしりとしたバレルのSR-4《オウル》。
淡く光るエネルギーラインが銃身を這い、チャージ式の照準スコープが備わっている。
「ジェレさんは今、空輸隊の子が一人同伴していますよね? 代わりにこのSR-4《オウル》をお使いください」
「……私が、撃つの…!?」
「はい。連射性からしても掃討用ではありません。大型を狙っていただけたら幸いです。エネルギーマガジンはここに二つ。チャージ量によって発射数は変わりますが、2~5発撃てます」
信じられない。
私は輸送隊だ。射撃訓練は受けているが、これは狙撃だ。しかも、対大型。
私がコリオを差し出すと、ハーローはそれを受け取り、あっさりと背を向ける。
「助かります。あとは、お願いしますね」
そう言い残すと、少女は鉄骨の影へと滑るように消え、次の瞬間には、音もなく身を沈めて――飛び降りていった。