ep.15
「…マキア? 大丈夫? アームギア、故障してるって……」
レリリが心配そうに声をかけてくる。彼女の瞳には、どこか戸惑いと気遣いが滲んでいた。
「よかったら、私が変わってあげようか?」
その言葉に、私は小さく首を振った。
「――クロアのを借りたから、大丈夫。平気だよ。心配しないで。」
右腕に目をやる。
微かに金属のきしむ音がして、クロアのアームギアが動く。
問題はない。
痛みはある。けれど、動かせる限り、それは戦力に数えられるということだ。
(……この程度、問題ない)
ぎゅっと拳を握る。
その動きにわずかに鈍い痛みが走ったが顔色ひとつ変えずに呑み込んだ。
そのとき、護衛の一人が近づいてきた。
「これ、返し損ねてた。ごめんね。返すタイミング、今しかないと思って……ちゃんと返したからね?」
彼女の手の中には見慣れた自分のグローブ。
私は小さく笑い、頷いてそれを受け取る
「ありがとう。」
左手に嵌め、右手にはまだクロアのグローブを残す。
わずかにサイズが違い、フィット感も異なる。だが、何故かそれが今の自分にぴったりだと感じた。
肩からかけたベルトをしっかり握りしめ、背に座るツィナの重さを再認識する。
そして、一歩、また一歩と前に出る準備を整える。
その空気をやわらげるように、ルーアが弾む声で問いかけた。
「陣形組む? どうするの? ルートは〜? 護衛ちゃん、道案内頼めるかな〜? 私たちはあんまり詳しくないの」
軽快な口調。けれど、その裏には場の緊張を和らげようとする意図がはっきりと伝わる。
イルザがその声に応える。すでに戦闘の指揮に頭を切り替えていた。
「護衛部隊の私を含めて3人を前方に出す。後方にも2人。ルーアとリネアはそれぞれ前後に1人ずつ。中心に輸送部隊、そしてツィナ。これで行く。」
「りょ〜かい」
ルーアが手を挙げるように応えた。
護衛部隊の子たちも、短く静かに返事を重ねていく。
私たちは、声を出さずに頷いた。
行くべき道が決まる。
イルザが地図を指でなぞりながら続けた。
「大回りして行こう。区画Dから裏通りを抜けて、外周を進む。正面突破はリスクが高すぎる。安全を見て、必要に応じて低空飛行を交えながら急行する。」
その言葉に、全員がわずかに背筋を正した。




