ep.14
「自己紹介がまだだったな!」
不意に声を張り上げたのは、例の大型兵装を抱えた彼女――。
「私はツィナ!さっき通信でも言っていたが、これがその大型レールガン、バベルだ!」
誇らしげに身長ほどもある兵器を掲げて見せ、人差し指をピンと立てた。
「狙撃展開とチャージに時間がかかる! その間、私は一切動けない!さらに、再装填と冷却も合わせて一発勝負ってわけだ!」
ひどく無茶な運用条件だが、それをツィナはまるで自慢話のように語っている。
だが同時に、その一発の責任を負う覚悟も、感じられた。
その隣で、ふわりとした声が続く。
「ま、そんな感じで〜。私はルーア。で、こっちはリネア。ほら、自己紹介〜?」
「え、あ……リネアです。よろしくお願いします」
小さな声ながらもしっかりと礼をするリネアに、私は自然と頷き返していた。
それに対してルーアは、にこやかに手を振って続けた。
「私たちは〜、戦闘部隊なの。何かあったときは任せてね〜?」
おどけたような、余裕ある口ぶり。
周囲の緊張を和らげるような雰囲気。
その様子に、護衛隊長のイルザがふっと笑う。
「私たちだけだと、小型ドローン1機でも手をこまねいていたよ。」
「まぁ…それは……ふふ、私たちに任せて。」
ルーアがさらりと応える。
「心強いよ…。時間も多くはない、早く移動しよう。」
と、そこで――わざとらしく一つ、咳払いが響く。
「……コホン。」
視線が集まる。
ツィナが、堂々とした面持ちで一歩前に出た。
「ワタシを運んでくれないか。」
沈黙が流れる。
――ああ、そうだった。
彼女が人員輸送車でここまで来た理由。
それは、あの巨大兵装を持って長距離移動ができないという、ただ一つの現実だった。
イルザはわずかに視線を上げ、思案に沈む。
腕を組み、静かに目を細めたあと、何かを納得したように小さく頷いた。
「……なるほど。シュナの言っていたことは、こういうことか。」
その口ぶりには、驚きと感心が入り混じっていた。
「輸送部隊――空輸隊の君たちがこの作戦に参加する意図。あの一瞬で、彼女はこれを見抜いたというのか。…かなり、キレてるな。頭が。」
誰に言うでもなく呟いた言葉に、妙な重みがあった。
一方で、その発言の意味を測りかねたように、レリリがおずおずと手を挙げた。
「あの〜……すみません。えっと、そのことなんですけど……運搬用のロープもカゴもないんです。どうしたら……?」
その問いに、ルーアがひょいと顔を上げ、ゆるい調子で返した。
「あ〜、あれ、そういうやつなの? ふふ〜ん……」
そして、くるりと振り返って、私に何かを差し出す。
「輸送ちゃん、ガンバ〜。」
渡されたのは、折り畳み式の背負い型担架だった。
見れば、簡易的ながらも機能性は高そうで、展開すれば背中に座る形で搭乗者を運べる設計だ。
――要するに、私が運ぶのだ。
(……やっぱり、そうなるか)
それを展開して地面に置き、ベルトを通しながら腕を通して装着していく。
担ぐ、というより「背負う」という感覚に近い。
装着時のフィット感は悪くないが、腰部装置の上に乗る設計のため、ノズルの熱や、レールガンのコードの接触が気がかりだった。
(もしも誤作動でも起きたら……いや、考えるな。今は使える手段を使うしかない)
屈み込み、固定ベルトを締める。
装置が体にぴたりと密着し、背中に担架の板が伸びる。
いわば――即席の座席だ。
すると、すぐにツィナが軽やかに乗り込んできた。
「ワタシの命、そして、この作戦は君の背に託された!さぁ、みんな行くぞ!突き進むは我々の勝利のみだ! ハッハッハッ!」
陽気な声が響くが、その瞬間――ズシリ。
まるで背中に鉄塊を括り付けたような衝撃。
(……重い)
銃と装備を含めて、明らかに常人が運ぶには過剰な重さ。
身体が沈み、反射的に膝がぐらついた。
「ワタシは重くない!重いのはコイツだ!ワタシは決して重くはないぞ!」
ツィナが叫ぶ。
だが、背に感じるこの質量――たぶん、この銃だけで100kgはある。
それでも、担ぐと決めた以上は、もう覚悟するしかない。
口を閉ざし、呼吸を整える。
緊張に喉が渇き、手のひらにはすでにじっとりと汗がにじんでいた。
(――背負うと決めたんだ。なら、やるしかない)
私は、しっかりと声を出した。
「……準備、できました。」
短く、確かな言葉。