ep.1
黒く艶のある兵装が、くぐもった曇天の赤い空陽の下でわずかな光を返していた。
少女――マキアは、その重量ある兵装を身に纏いながら、レッグギアと腰部の推進ノズルを同時に稼働させ、ふわりと地面を離れる。
背負うのはただの装備ではない。仲間たちと分け持つ、物資を詰めた重いコンテナ。
それを吊るす縄をグローブ越しに強く握りしめる。三人でバランスを取りながら、空中でゆっくりと移動する。
もう一人は、小型のコンテナを持って後方から続いていた。
アームギアのサーボ加圧が、その重量を押し上げてくれている。意外と持ち上がる。
でも、重さが消えたわけじゃない。
指に食い込む感覚がある。皮膚を通して骨が軋む。
痛い。けれど、痛みは生きている証だ。
部隊は5人構成。
けれど、今ここにいるのは4人だけ。
クロアがいない。
「輸送任務中にはぐれて、そのまま――」
何度も脳裏で繰り返した言葉は、いつもそこで止まる。
見つかっていない。それはつまり、生きているということだ。
そう信じなければ、前を向けない。
護衛部隊と合わせて、今この空に浮いているのは9人。
皆が同じように兵装を纏い、護衛の自動小銃を抱えて空中でゆっくりと進んでいた。
このルートは安全区域のはずだった。制圧済み、脅威レベルは「低」。
「問題なんて、あるはずがない」
その言葉を、誰が口に出したわけでもない。けれど皆が心のどこかで、同じように思っていた。
だからこそ、吐息はやや緩み、警戒は僅かにほどける。
小さな会話が始まり、護衛の少女たちも視線を交わして笑っていた。
マキアは、それを見ながら思った。
――こういう時間が、もっとあればいいのに。
小さな会話が始まり、護衛の少女たちも視線を交わして笑っていた。
マキアは、それを見ながら思った。
――こういう時間が、もっとあればいいのに。
前線の記憶は、まだ新しすぎる。
焦げた空気、血の匂い。
あまり考えたくない。今は、せめて。
風の音と、仲間の笑い声だけに包まれていたい。
その時、ふと風向きが変わったように感じた。
音のない違和感。
マキアは眉をひそめる。
すぐに判断はしない。けれど、油断もしない。
「平和」は、いつも突然、終わるものだから――。
周囲を見渡す。
風景は静かだった。低く垂れ込めた雲が、鈍く光を遮っているだけ。異常は――ない。
だが、次の瞬間。
突風が吹き抜けた。コンテナがわずかに揺れ、身体が引きずられる。反射的にロープを握り直し、3人が無言でタイミングを合わせる。
何事も起きなかった。
ほんの僅かな揺らぎだけが残り、風はまた静けさに戻る。
そして、ランデブーポイントが視界に入る。
既に別の空輸隊がそこに着いていた。兵装の装甲が青味がかった光を返しながら、こちらに視線を向けている。
浮遊姿勢を整え、体勢を安定させた。
私たちはゆっくりと降下し、定められた地点へ向かった。
彼女たちが運んできた物資と、私たちの持ち込んだ資源物資を交換する。