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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

感想という名の殺人予告

作者: 小泉 上沙
掲載日:2025/01/01

 私は、『小泉 上沙』という名前で小説を書いている。といっても趣味のようなもので仕事は別だ。


「上沙ー! 牛乳買っといてって言ってたよな」


 冷蔵庫を漁っていた小泉が、私に向かって文句を言う。コイツは一緒に暮らしている『小泉』。彼女がアイデアを出し、私がそれを小説の形にしている。つまり、『小泉 上沙』の作品は二人での共同作品だ。


「お、珍しく感想きてるじゃん。見てよ小泉」


「ほんとだ。何て書いてあんの?」


 感想を開くと、想像以上に短い文章が目に入った。いや、短いなんてものじゃない、ほんの一言。


『今日、上沙を殺す』


 ――殴られたような衝撃が頭を襲う。


 当たり前だが、今までの人生で殺人予告などされたことがない。有名作家ならともかく、私達の作品など知らない人のほうが多いだろう。


「上沙、お前殺されるらしいぜ」


 小泉は笑っているが、私は笑えなかった。『殺す』というシンプルな殺意。人に向けてはならない言葉が、自分に向けられているという恐怖が普通の思考を放棄させていた。


 何か、とてつもない勘違いをしている気がするのに。


「私、警察行ってくる」


 小泉の制止を振り切り、家を飛び出す。笑ってすませられるほど、私の心は強くなかった。思考を停止させたまま、私は走り続ける。


 十分ほど走っただろうか、スマホの振動を感じ足を止めた。液晶の画面には『小泉』と表示されている。


 嫌な予感が体を襲う。震える手で、スマホを耳に当てるが、小泉は何も言わない。そして、静寂が続いたあと電話は切れた。


 小泉に何かあったのだ。早く家に帰らなければ、警察など行っている場合じゃない。


酸素を求める脳を無視し、私は家に向かって走り出す。


「小泉!」


 いつもならここで、「お帰りぃ」と聞こえるはずなのに、何も聞こえない。さらに、先ほどから悪寒が止まらない。


 どこだ、どこだ、小泉はどこだ。急いで二階に駆け上る。いつもなら自分の部屋にいるはずだ。走る勢いのまま扉を開ける。


 いた、確かに小泉がいた。いつも通り寝転んでいる。本当にいつも通りだ、腹部から血が流れていることを除いて…。


 急いで駆け寄り、肌に触れる。冷たい、氷のような冷たさ。その冷たさは、小泉が完全に死んでいることを告げていた。


 何でなんだ、殺されるのは私じゃなかったのか? 何故、小泉が狙われて……。あ。


 …気づく、勘違いの正体に。犯人は知るはずがないのだ、『()() ()()()()()()()()()()()()。もともと犯人は小泉を殺すつもりだったのだ。


 何らかの方法で、小泉が『小泉 上沙』という名前でネット小説を書いていることを知った犯人は、感想機能を使い殺人予告を書いた。しかし、『上沙』は私の名前だった。


 犯人と私達、両方が勘違いをしてしまったのだ。気づけたはずだった、もっと早く気づいていれば、小泉は死ななかったはずなのに。


 彼女の死体から流れる血液が、窓から注ぎ込んでいる光を受け、怪しい輝きを放っている。


 ――あの日からも私は『小泉 上沙』という名前でネット小説を書いている。もう一度、感想という名の殺人予告が届くことを待ち望んで。


 


 


 

 

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