表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

今日も星を見ていた

作者: 加賀

彗星が地球に接近していた。本来、その知らせに拓郎は胸を弾ませるはずだった。




「……私、がんなの。それも末期の」




昨日のことである。痩せていく彼女の姿に気が付いた拓郎は、声をかけた。


彼女の重い口から発せられた言葉は受け入れがたいものだった。


研究には身が入らず、家に帰ってもSNSを眺めるばかりで何もやる気が起きない。


なんとも外で光る街明かりは無機質に沈んで見える。

暗い部屋の中、鬱屈とした時が流れた。






彼女の紬と過ごせる時間は残り少ない。


「いつまでも一緒に居たい」


そんな気持ちから、拓郎は紬を看病する時間が多くなった。


それは研究時間を削ってのことである。


「最近、研究室には行っているの?」



「まあ、ほどほどにな……」



「ごまかさないで、本当は全然行ってないんでしょ」



紬には見透かされていた。拓郎の本心も何もかも。



「お願い、私からは離れて。研究熱心のあなたはどこへ行ったの」



拓郎は目を上げた。紬の潤んだ目と合った。


彼女の眼には、まるでどこかに消えてしまいそうな美しさがあった。






翌日、研究室には拓郎の姿があった。


今の彼には、子供の頃のような探求心が宿っている。

天文学に魅了された少年が一人、空には彗星が煌めいている。



しかし、時の流れは残酷だった。



ある日の夕暮れ、電話が鳴った。

電話を取り、拓郎は慌てて外に飛び出した。



「紬さんが……」



彼は一目散に紬のいる病院向けて、駆け出した。外の街は騒然としている。


走りながら拓郎は、前に紬と彗星を見た夜のことを思った。




彼女のやせ細った、かよわい手は、燦然と輝く彗星を示した。



「……綺麗だね」



彗星が見えなくなる時、紬はいないことを彼は知っていた。






彼の膝には傷が数か所ついている。

その傷は道中で転んでついたものであった。



彼は息を呑んで、ゆっくりと病室の扉を開けた。



そこには薄暗い部屋に白いベッド、風にカーテンが揺れている。



空に彗星はもういない。




その後、拓郎の研究は世界的に評価され、多くの人から称賛された。


紬のいなくなった時を境に、

空に映る星々はいつにもまして美しく、燦然と輝いて見えるのだった。



望遠鏡を担ぎ、今でも彼は彼女との日々を思い返す。



これからもこの先も、この空が続く限り、未来永劫

いつまでも、彼女の行方を探していた。……



最後までありがとうございました。

ブックマーク、評価などお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ