第八話 光る未来
# 八
赤いLEDの光が、暗がりで瞬く。
「まだ遊んでるの?」母の声が階段から聞こえる。布団に潜り込んだ少年の神田は、LEDゲームの画面を必死で隠した。
1978年の夜。それは、光る未来への入り口だった。
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「このゲーム、覚えてます?」神田は、古いLEDゲームを美咲に見せた。「点と線だけの世界です」
「シンプルすぎますね」美咲は不思議そうに機器を手に取った。「これで、ゲームが成り立つんですか?」
「成り立つどころか」神田は微笑んだ。「夢中になれた」
研究室の棚には、年代順に並べられたポータブルゲーム機がある。LEDゲーム、ゲーム&ウォッチ、そしてファミコン。
「技術の進化が、そのまま見えますね」美咲は展示を眺めながら言った。
「ええ。でも、それ以上に大切なものが見えるんです」
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1980年、クリスマス。
「ゲーム&ウォッチだ!」神田は箱を開けながら叫んだ。液晶画面には、ドンキーコングの世界が広がっている。
「LEDより綺麗でしょ」父は誇らしげに言った。「液晶技術の進歩ってすごいよ」
神田は、画面に見入った。それは確かに進歩だった。しかし、彼の心を捉えたのは、別のものだった。
「お父さん、これ、キャラクターが動くんだね」
「そう。任天堂って会社が考えたんだ。技術も大事だけど、それを使って何を表現するかも大事なんだよ」
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「そうか」美咲が突然言った。「技術の進化と、表現の進化」
「その通り」神田は古いゲーム機を大切そうに扱いながら答えた。「LEDの時代、私たちは『光る点』で満足していた。でも任天堂は、その先を見ていた」
「キャラクターという概念ですか?」
「そう。技術の制約の中で、いかに物語を語るか。それが、ゲームの本質なんです」
1983年、神田の家にファミコンがやってきた時、彼は既に知っていた。これは単なる新しい機械ではない。新しい物語の扉なのだと。
「面白いですね」美咲は言った。「現代のゲーム機は、どんどん高性能になってます。でも...」
「でも?」
「本質は変わってないのかもしれない。技術の制約の中で、いかに面白い物語を語るか」
「その通り」神田は頷いた。「私たちが研究すべきは、単なる技術の進化じゃない。それを使って、人々が何を表現しようとしたのか。その歴史なんです」
研究室の窓から、春の陽が差し込む。古いLEDの光は消えていたが、それが語ろうとした物語は、今も確かに生きていた。