64 お披露目 02
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私はカルロを守るために、ここに来ているであろうドレック・ルーヴを探すつもりでいたが、その前にすぐ近く、同じ壇上の上でまとわりつくような視線を感じる方へと視線を向けた。
すると、王族の並びの席に驚くほどの美男子が座っていた。
その男の肌は白く陶器のようで、瞳は空の色のような爽やかなブルー、髪は色の濃い金で、長く伸ばしたそれはゆるくウェーブしていた。
一度見たら決して忘れることが出来なさそうな美しい中年の男性の姿に驚いて見入っていると、彼はその口角を持ち上げた。
美しい微笑みではあったが、なぜだかゾッと寒気を覚えた。
父王とは似ていないが、席の場所からしてこの美男子が親族なのは間違いないのだろう。
それもかなりの上位の立場だ。
一体誰なのだろうかと考えていると、父王がその男に「父上」と呼びかけた。
「この子が息子のリヒトです」
まさかその美男子がこの国の最大の問題点、変態だとは思ってもみなかったので私は驚いた。
父王は私の背にそっと手を添えた。
「リヒト、お祖父様にご挨拶なさい」
この作り物めいた美しい顔の男が噂のど変態……
私は思わずまじまじと男の顔を凝視してしまう。
しかも、男は美男子なためかとても若く見え、孫が一人いる年齢にはとても見えない。
「はじめまして。リヒト・アインス・エトワールでございます」
「ああ」と、男は見た目通りの美声を発した。
「よく健やかに育ってくれた」
穏やかな口調だが、その目は私の全身をくまなく見つめ、まるで満足だとでも言うように細められた。
これまで何度も聞かされてきたように、私はこの男の好みの容姿をしているのだろう。
全身にまとわりついた視線が気持ち悪さをどんどんと増していく中で、急に近くで大きな拍手が響いた。
「本当に。リヒトは利発で健やかに育ち、この日を迎えられたことを喜ばしく思う」
そう大きな声で言ったのは、我々王族よりも高貴な存在を迎えるために今回特別に用意された来賓席にいた人物だった。
その席に座る一人のことは当然把握していたが、その隣に座るもう一人の小さな姿に私は驚いた。
思わず「ナタリア様がどうしてこちらに?」と聞きそうになって、私は慌てて口を継ぐんだ。
今日お披露目をして正式に王族となったばかりの私がオーロ皇帝の孫を親しげに呼ぶわけには行かない。
先ほど助け舟を出してくれたオーロ皇帝とさえ初めて会ったという態度で接する必要があるだろう。
しかし、オーロ皇帝の姿に私はホッとしていた。
オーロ皇帝がいれば、この場で変態に主導権を握られてしまう可能性は低いだろう。
私は父王に促されて、会場に集まっているこの国の貴族たちに向かって初めての演説を行った。
とは言っても、別に偉そうに自分の意見を述べたとかいうのはではなく、ただの式典の決められた文言だ。
暗記した文言を述べながら、会場内を見渡す。
多くの貴族たちを記憶に留めることもなく見渡して、壇上近くの壁際に乳母とカルロの姿を見つけた。
そして、さらに会場に目を走らせてゲーツが教えてくれた特徴の男を探す。
赤茶の波打つような長髪を後ろで一つに束ねている男。
念のためにと確認した男の特徴はゲームで見た姿と一致していた。
だから、私はその男のことを間違えることなく発見できるはずだ。
ゲームではこの日、カルロを攫って王宮の人気のない一室で悍ましい行為に及ぶ男……
カルロの側には乳母もシュライグもいるため、簡単にゲームのように攫われるようなことはないとわかっていても、その男の姿を確認し、この日一日が無事に終わるまでは安心できない。
そして、私は貴族達の後方、壁際の目立たないあたりに立つ男を見つけた。
その姿はゲームの時のままだ。
しかし、その目はゲームで見た時よりも澱みや鋭さがなく、柔和なような気がした。
何より、ドレック・ルーヴはカルロの姿を探している様子もなく、他の子供たちに視線を向ける様子もなく、他の貴族たち同様に壇上の私の方へと視線を向けている。
もしかすると、カルロを早めに王宮に引き取ったために興味を無くしたのかもしれないが、私は警戒を緩めることなく、会場に潜ませたゲーツとジムニに視線を向けて彼らがドレック・ルーヴから視線を外すことなく見張っていることを確認する。
その後はオーロ皇帝からの祝辞をもらい、父王から貴族たちに我が国が帝国傘下に加わることを告げられた。
貴族たちの反応は帝国の大きな経済圏に加われることを喜ぶ声と、帝国法が適用されるために勝手が出来なくなることに対して不満を表した声が半々というところだった。
前王は帝国法のことをよく知らないのか、それとも自分には関係ないと高を括っているのか、特に反応はなかった。
父王とオーロ皇帝による調印式が行われた後はパーティーとなった。
王族は一度引っ込み、衣装替えの時間となる。
私が壇上から引っ込んでグレデン卿と共に会場の外へと出ると、すでに扉の外でカルロと乳母、シュライグが待っていた。
乳母にはカルロから決して目を離さないように、私が着替えのために会場から離れる際には一緒に来てくれるようにと前もって伝えていた。
ドレック・ルーヴの魔の手からカルロを守るためには私の目が届く範囲にいてもらうのが一番だ。
「リヒト様! とてもかっこよかったです!」
会場から出た私にカルロは興奮気味にそう言った。
私はお礼を言い、そしてカルロの手を取って急ぎ足で着替えをするための部屋へと向かう。
私の祖父である変態も王族だ。
きっと変態も着替えるのだろうから、会場を出て一息ついているわけにはいかない。
乳母とグレデン卿もそのことがわかっているのだろう。素早く移動してくれた。
次の衣装に着替える間もカルロはその瞳をキラキラと輝かせて私を見つめていた。
いつもならその可愛さに悶えるところだが、今日に限ってはそんなに可愛いとドレック・ルーヴや祖父、それ以外の変態にも狙われるのではないかと心配になる。
「カルロ、この後は決して私から離れてはいけないよ?」
私の言葉にカルロははにかんで笑い、こくりと頷いた。
可愛すぎて不安だ。
「……乳母、軽食は用意してありますか?」
「はい。お食べになりますか?」
緊張で空腹感はなかったけれど、パーティー会場では主役は食事をしている暇などないから、控え室にいる間に食べられるものが用意されている。
「カルロの可愛さが少し落ち着くまで軽食を食べようと思います」
カルロの頬がますます染まり、可愛さがますます増大したが、それも二十分ほどもすれば落ち着くだろう……
そう信じて軽食を食べながら待つこと三十分。
変わらずにカルロは可愛いままだった。
「リヒト様、そろそろ会場に戻らないと貴族たちに訝しがられてしまいます」
「でも、カルロがまだ可愛いままなんですよ! これじゃ、変態たちが沸いて出るでしょう?」
「沸いて出た変態は即処分できるように万全な警護体制を整えていますのでご安心ください」
安心なんて全然出来ないよ!!
「リヒト様は、カルロを守りきる自信がないのですか?」
乳母にそう問われて私は眉を釣り上げた。
「自信があろうがなかろうが絶対に私がカルロを守り切ります!」
勢いよく言い切ると、カルロはますます可愛くなってしまうし、乳母には「では、参りましょうか」と容赦無く促されてしまった。




