70 君が君だから
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ライオスを見送って振り返ると、後ろに控えていたカルロがなぜか落ち込んでいた。
「カルロ? どうした?」
今朝はいつもと変わらずにご機嫌だったのに、私がライオスと話している間に一体何があったというのだろうか?
「リヒト様は、あの者を従者にするおつもりなのですか?」
「あの者というのはライオスのこと?」
ライオスを城に引き留めて勉強するように勧めたからそのような勘違いをしたのだろうか?
「違うよ。彼は今後エトワール王国のためになると思ったから少し手を貸してあげるだけだよ」
「僕もエトワール王国のためになりますか?」
「もちろん! カルロだってすごい才能がたくさんあるだろう?」
可愛い性格とか可愛い外見とか可愛い仕草とか可愛い声とか可愛い話し方とか可愛いとか可愛いとか可愛いとか。
でも、私がカルロをそばに置いているのはその才能があるからじゃない。
「カルロは頭もいいし、魔法のセンスだってある。だけど、カルロの場合はそれで側にいてもらっているわけじゃないんだよ」
君は、存在そのものが尊いのだ。
「カルロはカルロだから、私の側にいてほしいんだ」
私は本当に何度も何度もゲームをプレイした。
カルロとヒロインに結ばれて欲しくて。
カルロを救いたくて。
カルロに幸せになって欲しくて。
ゲームをしていた時は、複数の分岐点でカルロを助ける正しい選択肢は多分一つずつしかなくて、残念ながら私はその正しい選択肢を選び続けることができなかったのだろう。
そのためにゲームの中ではカルロを助けることができなかった。
だけど、今なら直接身を呈して庇ってあげることもできるし、転移魔法で逃がしてあげることもできるし、権力を使って守ってあげることもできるし、他の国に逃してあげるとか、身分を詐称して隠れてもらうとか、必要ならばドレック・ルーヴを殺すという選択肢だって選べる。
ドレック・ルーヴがいなくなったらゲームの強制力で新たなドレック・ルーヴが生まれてしまうのを恐れて簡単に殺すという選択肢を選んでいないだけだ。
誰が危険人物なのかわからないよりはわかっていた方がいいから。
生身のこの身でカルロの側にいる今ならば、私は全力でカルロを守ってあげることができる。
「僕が、僕だから?」
カルロが小首を傾げた。
そんな仕草もとても可愛い。
「そう」と、私は深く頷いた。
「カルロがカルロだから、とても大切なんだよ」
私の言わんとすることがよくわからないのか、カルロは眉尻を下げている。
それでも、カルロは頑張って理解しようとしているようで、私の胸の辺りのシャツを握り、首筋に顔を埋めるように華奢な体を寄せてきた。
「僕は僕のままでリヒト様の側にいてもいいのでしょうか?」
「もちろんだよ」
そう私はカルロの体を抱きしめた。
不安になる必要などないのに、カルロの繊細さが愛おしくて、私はカルロの不安がなくなるようにカルロをしっかりと抱きしめてあげた。
すると、こほんっと咳払いが聞こえた。
「リヒト様、昨日は式典やパーティーでお疲れでしょうからゆっくりとお休みいただきたいところですが、またすぐに忙しくなるでしょうから、今日は魔塔主にご挨拶に行かれてはいかがでしょうか?」
乳母のそのような提案に私の表情は曇った。
面倒臭いという気持ちが思わず顔に出てしまった。
「そのようなお顔をされても、後日挨拶に行くとおっしゃったのはリヒト様ですよ」
その通りだ。
とりあえず、早々に魔塔主をパーティー会場から追い出そうとテキトーなことを言ってしまったのだ。
私は仕方なく魔塔へと向かうために部屋の扉へと向かう。
すると、カルロが私の手を握ってきた。
まだどことなく不安なのか、眉尻を下げた表情のカルロの頭を握られている方の手とは逆の手で撫でて、カルロの手をしっかりと握り返した。
メイドが開けてくれた扉から廊下へと足を踏み出すと、次の瞬間、聞き慣れた声で名前を呼ばれた。
今回は文字数が少ないですが、カルロとの大切なシーンだったため、分けさせていただきました。




