63 お披露目 01
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午後からはデザイナーたちが衣装に合わせる装飾品を選ぶ日だ。
そう。これまた、私が自分の好みで好きに選ぶわけにはいかない。
衣装をデザインした職人が中心となって、私が着る衣装を引き立て、衣装がより一層魅力的に見える装飾品を選ぶのである。
中身の私はただのマネキンに過ぎない。
乳母とデザイナーや裁縫をする者たち、そこに数名のメイドが混じってあれこれと話している間、私はテーブルに広げられたアクセサリーを見ていた。
そして、目に止まったあるものを手に取り、手早く注文票を書いた。
それから数日後、私は式典の会場へと呼ばれていた。
料理長に助言をしたのならこちらにもお願いしますと言われたが、料理長に助言していたのは私ではなく、シュヴァイグと執事長だ。
ということで、私は乳母とシュライグにこの場での助言者を任せた。
乳母は侯爵家なのでパーティーの主催者としての意見を、シュライグはノアールについて帝国のあらゆるマナーを学んでいたがその際に何度か城のパーティーでの手伝いもしていたからその点から意見を言えるだろう。
助言がほしいと頼まれたのは私だが、私よりも適任者がいるのだから私が助言する必要などない。
私は子供の視線の高さからテーブルの角が尖っているものは変えるように、会場を飾る装飾品で子供の顔の高さに突起物があるようなものは排除するように、それから割れて子供が怪我をしそうな花瓶などは置かないようにといくつかお願いをして、あとは乳母とシュライグに任せて勉強部屋へと戻った。
乳母を会場に置いて、代わりに数名のメイドを連れて部屋へと戻ったのでしばらくはゆっくりと読書ができるかと思ったが、さすが乳母が選んだ私専属のメイド達だけあって、しっかりと予定通りに仕事を進めてくれた。
本日はパーティー用の衣装の本縫い前の確認だ。
そう。まさかの衣装は一着だけではなかったのだ。
どうりで、最初の見本数が多かったわけである。
衣装は式典用の衣装が一着、パーティー用が三着だ。
結婚式のお色直しでもないのに、三回も着替えると言われて私は拒否したが、王家の威信に関わるため、最低でも式典用の衣装から一回、その後、もう一回着替える必要があると言われた……国民の血税を使って作った衣装で威信も何もあったものではないと思うのだが、衣装の豪華さやその数でしか理解できないバカな貴族がいるのも確かなのだと宰相に嘆かれては絶対に着ないとは言えなかった。
正直、そんなバカな貴族は爵位を取り上げるべきだと思ったが、バカなだけで爵位を取り上げるのは横暴だと言われるだろうから我慢した。
いや、国民の手本となるべき貴族がバカとか致命的な欠陥なような気もするな……
「リヒト様、ただいま戻りました」
乳母が言い、乳母の後ろに立つシュライグも軽く会釈した。
「難しいお顔をされてどうされたのですか?」
「いえ。衣装の豪華さで王族の経済力と権力を見せつけないと王族の権威を理解できないというバカなら爵位を取り上げても問題ないのではないかと考えていました」
「そんなことをしたら半数以上の貴族がいなくなり、貴族がするべき仕事に人員不足が起こり、有能な貴族が過労で倒れ、王族も弱体化しかねません」
「……バカな貴族とはそんなに多いものなのですか?」
「貴族だけではなく、平民も立派な身なりに権威を感じるものですよ」
言われてみればそうかもしれない。
「大人数の貴族の爵位を取り上げるのはやめたほうが良さそうですね」
「はい」と乳母は頷いた。
それから日々は流れ、準備は進み、エトワール王国第一王子のお披露目の当日となった。
その日は日も昇らぬうちから起こされて、カルロとシュライグに全身をくまなく洗われて……あ、もちろん、腰から下は自分で洗うと言い張った……いつもよりも香りの強い香油をつけられて、髪の毛を整えられて、そのあたりで私の準備を最後までやりたいと言ったカルロが自身の準備のために連れて行かれるのを見送って、衣装を着替えさせられて、装飾品を色々とくっつけられて、正装ってやつが完全に整ったあたりで手早く準備をしたカルロが戻ってきて、私の姿を一目見てその頬を紅潮させて「やっぱり神様は何よりもきらきらして綺麗です」なんてものすごく可愛い殺し文句を言った。
「カルロの方こそとても綺麗で可愛いね」
王宮専属のデザイナーがカルロのために考え、お針子たちが一生懸命に作成してくれた衣装はとてもカルロに似合っていた。
私はカルロを手招いて、あの日注文した商品を乳母から受け取り、カルロに手渡した。
「カルロ、お誕生日おめでとう」
カルロは自分も誕生日プレゼントを持ってくると言ったけれど、私は「開けてみて」とカルロを促した。
リボンを解いて、シックな箱の蓋を開け、その中に入っていた物にカルロはそっと触れた。
「これ……」
箱の中には小型の懐中時計。
私は微笑んで、自分のブレザーの胸ポケットに入れていた懐中時計を見せた。
お揃いの懐中時計を私が持っていることを知り、カルロの瞳は大きく見開かれてきらきらと輝いた。
そして、カルロは懐中時計を両手で包み込んでから自分のブレザーの胸ポケットに入れて、ポケットの上から再び懐中時計を握った。
「リヒト様、ありがとうございます!」
嬉しそうにはにかむカルロの様子は本当に可愛かった。
本当に、この世界にはどうしてカメラがないのだろうか……いや、正確には映写の魔導具があるので、カメラの機能を持つ魔導具はある。
ただ、前世の世界のようにその場でぱっと気軽に撮れるカメラはないのだ。
映写の魔導具は、魔導具の前でしばらくじっとしていなければいけないし、いつでも持ち歩いて気軽に写真が撮れるものではなかった。
カルロからのプレゼントは乳母によって式典後のパーティーが終わってから渡すことにすると決められた。
今渡すのは少し都合が悪いということだった。
「リヒト、お誕生日おめでとう」
会場へ入場する王族専用の扉の前で母上が祝ってくれた。
父上も「おめでとう。リヒト」と微笑む。
そして、扉が開かれて、王族しか立つことを許されない壇上へと進み出る。
私の存在は正式には公表されていなかったが、貴族たちの間では噂が流れていたため、大きな動揺はなかった。
「皆の者、今日はよく来てくれた」
父王が会場を見渡して言う。
そして、父王に招かれて私が隣に立つと、会場は少しだけざわついた。
「紹介しょう。エトワール王国 第一王子のリヒトだ」
父王が私の紹介をすると礼儀としての拍手喝采が起こった。
私は壇上から貴族たちを見渡す。
前世の癖で「よろしくお願いします」とか言いそうになるが、それは前もって第一補佐官や宰相から止められている。
相手に敬意を払って接することは大切だが、それは相手を見極めてすることであって、幼い王子を利用しようと考えている者たちがいる可能性がある公の場ですることではないという。




