99 魔物討伐見学
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「では、ダンジョンに行きましょう!」
気を取り直した私の言葉にジムニとヴォルフラムが驚きにその目を見開いた。
魔物討伐といえばダンジョンではないだろうか?
ゲームでもレベル上げのためにダンジョンに行っていたが?
「リヒト様、それだと護衛料が跳ね上がります」
「構いませんよ」
「それに今日中に帰ってくることができません」
今日は日帰りのつもりで出てきてしまったからそれは少し困る。
日が沈む前には帰らないと両親も乳母も心配するだろう。
「ここの近くにはダンジョンがないということですね」
「ヴィア王国との境界まで行かなければいけません」
ヴィア王国というのはここ元ティニ公国の領土と隣接する隣国だ。
歴史の授業では元ティニ公国はヴィア王国からの独立だと習った。
「そうなんですか……もしかして、ダンジョンがないから、この辺りには魔物が少ないのでしょうか?」
「確かに、ダンジョンの数と魔物の数は比例しているような気もしますが、そもそもダンジョン自体、それほど多くあるものではないですよ」
「そうなのですか?」
ヴォルフラムの言葉に私は少し拍子抜けした。
ゲームではレベル上げをするためにダンジョンに何度も行っていたし、それも一箇所ではなかった。
だから、学園の側にいくつかあるものだと思っていた。
しかし、ゲームの舞台が帝国全土だとすると、ゲームの中では帝国傘下の様々な国を自由に飛び回っていたのだろうか?
ゲームのリヒトも転移魔法が使えて、ナタリアたちをダンジョンに連れて行ってあげていたのかもしれない……
いや、と私は自身の考えを否定した。
リヒトが参加していないレベル上げでもダンジョンに行っていたのだから、やはりダンジョンは学園の近くにあったのだろう。
それなら、学園をダンジョンの近くに作るべきだろうか?
「ダンジョンはそもそもどうやって発生するものなのですか?」
「それは分かりませんが、急に消えることもあれば、急に現れることもありますね」
元ティニ公国のあたりに学園を作ったとして、ゲームの強制力で近くにダンジョンができたりしないだろうか?
「とにかく、ダンジョンは諦めてもらって、近くの森での魔物討伐に行くということでいいですか? 最近は街の近くまでゴブリンが出てくるそうなので、ゴブリンの討伐に行こうと思いますが、人に近い姿でもリヒト様は平気ですか?」
ヴォルフラムの言葉に私は頷いた。
ダンジョンはまた今度魔塔主に連れて行ってもらうことにしよう。
「しかし、ゴブリンはそれほど強い魔物ではないと記憶しています」
ゲームでも初期魔法で倒せていたはずだ。
「S級パーティーの力の無駄遣いになりませんか?」
私の疑問にヴォルフラムが苦笑した。
「今回の俺たちの主な依頼は、リヒト様の護衛です」
なるほど。
一国の王子の護衛ならば、S級パーティーへの依頼としては妥当だろう。
ジムニが用意した馬車でゴブリンが住まうという森へと向かう。
初めて見るゴブリンは前世のゲームやアニメで見ていたような緑色で小柄な姿だった。
ヴォルフラムが「人に近い姿でも平気か?」と尋ねていたから、ドワーフみたいに私の想定以上に人に近い姿なのかもしれないとちょっと身構えていた。
ヴォルフラムをはじめとしたシュタークの面々とゴブリンでは力量の差がありすぎて、彼らはどんどんゴブリンを倒していき、そのあたり一帯のゴブリンをまとめていたらしいハイゴブリンもあっという間に倒してしまった。
剣も弓も独学で独自の癖などもあり、洗練された動きではなかったが、その代わり、鍛え抜かれた肉体と魔物討伐の豊富な経験が彼らの力量を訓練された騎士団よりも優れたものに高めているようだった。
確かなことは言えないけれど、私の見立てでは、おそらくヴォルフラムと騎士団長の純粋な剣の腕は互角だと思う。
しかし、二人が戦うことがあれば、経験の豊富さからおそらくヴォルフラムに軍配が上がるだろう。
「魔物討伐の見学はどうでしたか?」
ハイゴブリンを大剣で切り捨てたヴォルフラムにそう聞かれ、私は「見事でした」とシュタークの面々を讃えた。
馬車で待つジムニの元に戻れば、ジムニは明らかにホッとした表情を見せた。
S級パーティーだけでなく、グレデン卿もいるし、カルロもいる。
そして、おそらく、この中では私の魔法の威力が一番強いのだが、なぜそんなに心配しているのだろうと思ったが、よく考えたらジムニは私の魔法のレベルを知らないのだ。
転移魔法を使えることは知っているし、転移魔法が珍しい魔法だということを知っていても、魔法書は非常に高価だし、魔法書を扱っている商人もいないため平民には手に入らない。
だから、ジムニは魔法についての知識がほとんどないのだ。
おそらく、ゲーツ・グレデンが子供の頃に公爵家で聞き齧った程度の知識しかないのではないだろうか?
あとは、たまにグレデン卿から聞く程度だろうが、グレデン卿は説明下手だから魔法理論を詳しく解説するとは思えない。
そのため、おそらくジムニは転移魔法が使えるレベルの魔法使いの攻撃魔法の威力を知らないのだ。
「さて」とジムニは私を見た。
「冒険者が魔物とどのように戦うかもわかったことですし、リヒト様の興味は満たされましたね?」
「そうですね」
私は一つ頷き、それから「でも」と言葉を続けた。
「疑問が増えました」
ジムニが嫌な顔をする。
「なんですか?」
「S級パーティーの冒険者はかなり強いと思います。それなのに、どうして魔物の少ないこの一帯に来ていたのですか?」
ここは元ティニ公国ではあるが、エトワール王国と隣接した国で、エトワール王国同様、魔物被害は少ないと聞いている。
駆け出し冒険者ならまだしも、S級パーティーがいるのは不思議だった。
私の疑問に「ああ、それは」とヴォルフラムが答えてくれた。
「エトワール王国の食事は美味しいですし、それだけでなく、回復が早まるのです」
魔塔主もエトワール王国の野菜には魔力が豊富だと言っていたし、オーロ皇帝もそれは認めていた。
先ほど握手した時にヴォルフラムから微量の魔力を感じた。
おそらく、一般の人よりも彼らは魔力量が多く、魔力を豊富に含んだエトワール王国の野菜の効能をそれとなる感じることができているのだろう。
第一補佐官に土壌や水、肥料について調べてもらっていたが、エトワール王国産の野菜には確かに回復効果を認めたものの、特別な肥料を使っているわけでもなく、土壌や水についてはまだ調査が必要だと言っていた。
「この辺りにダンジョンでもあれば長期間滞在することも考えるのですが」
ヴォルフラムがそう笑った。
森にいる魔物よりもダンジョンにいる魔物の方が強いが、その代わり、いい素材が手に入るのだという。
「子供を売る胸糞悪い慣習も無くなったみたいだしな」
シュタークのメンバーの一番大柄な体格の男がそう豪快に笑った。
男としては軽口のつもりだったのだろうが、即、ヴォルフラムの拳が男の頭頂部に入った。
同時に、シュタークの紅一点である女性の回し蹴りも男の腰に入った。
「うちのメンバーがすまない!」
頭を下げてくれたヴォルフラムの謝罪に私は「いえ」と首を横に振った。
「その慣習が胸糞悪いというのは、私も同意見ですから」
顔を上げて、ヴォルフラムが私の顔をじっと見る。
「もしかして、エトワール王国が帝国傘下に入ることができたのはリヒト様の……」
S級冒険者パーティーのリーダーらしく察しのいいヴォルフラムに私は笑顔を崩さずに言った。
「父上の手腕です」
私の言葉にヴォルフラムも笑った。
「また依頼があればいつでも声をかけてくれ」
私はお礼を言って冒険者たちと別れた。
続きはアルファポリスにて先行公開となります。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/135536470/135910722
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