43 ナタリアの街歩き 03
お読みいただきありがとうございます。
いいねやブックマーク、ポイントや感想などいただけますと励みになります!
皆様の応援で元気をもらっています。
ありがとうございます!
少しでも楽しんでいただけますと幸いです。
空腹だった私たちはウェイトレスによって運ばれてきたスープとサンドイッチをあっという間に食べてしまった。
そして、全員がケーキを注文することにした。
カルロとナタリアはショートケーキかチョコレートケーキの二種類で悩んでいた。
二人とも同じケーキで悩んでいたので、一つずつ注文して半分こしたらどうかと提案したら何故か二人とも拗ねてしまい、最終的に私と同じティラミスを注文した。
「二人とも、ティラミスはコーヒーの風味がするし、お店によっては少し苦いと思うけど、大丈夫?」
私の言葉に二人とも仲良く声を揃えて「「大丈夫!」」と答えたけれど、いざ食べてみるとティラミスはやはり少し苦かった。
私は子供ゆえに飲むことが許されなかった久しぶりのコーヒーの風味に非常に満足したけれど、カルロもナタリアも見るからにしょんぼりしていた。
「少し待ってて」
私は席を立つと、ケーキのショーケースまで行き、ウェイターに声をかけて先ほど二人が迷っていた二つのケーキを注文した。
「はい。どうぞ」
私は自ら二人にケーキを運び、カルロとナタリアの前に迷っていたケーキがどちらも乗っているお皿をそれぞれおいた。
ケーキはそれぞれ半分にしてもらい、さらにジェラートをトッピングしてもらって、デザートの盛り合わせにしてもらったのだ。
「二人が食べ切れるように小さくしてもらったからね」
先ほど、半分こにしてはどうかと提案した時は拗ねていた二人だったが、最初から半分のサイズでおしゃれに盛り付けられたデザートには不満がないようでその目を輝かせていた。
「食べ過ぎはダメだよ? 残したら包んで貰えばいいから、二人ともちゃんとお腹と相談して食べてね」
二人とも一口で止まっていたティラミスはハンザスとハバルに食べてもらうことにした。
ハンザスもハバルもまだお腹に余裕があったようで、喜んで引き受けてくれた。
ハンザスは甘いものがそれほど得意ではなさそうだったが、このティラミスはコーヒーの風味の方が強いから美味しそうに食べている。
カルロもナタリアもジェラートを一番最初にスプーンで掬い、口に含むとそれはそれは幸せそうな表情になった。
頬にかかるサラサラの髪にジェラートがついてしまわないように耳にかけてあげるとカルロの頬が少し染まった。
「美味しいかい?」
そう聞けば、カルロが満面の笑顔で頷いた。
美味しそうに食べているカルロを見ていると、「味見する?」とカルロが聞いてきた。
「そういう意味で見ていたんじゃないから大丈夫だよ」
そう断ったけれど、カルロが「美味しいよ?」と私の口元にジェラートを載せたスプーンを差し出してくる。
私はカルロの優しい気遣いを受け取るつもりで「ありがとう」とジェラートを口にした。
柑橘系の風味がしてとても美味しかった。
「うん。美味しいね」
「リト! 私も一口あげるわ!」
ナタリアはショートケーキを乗せたフォークを差し出してきた。
私は慌てて首を横に振る。
オーロ皇帝の孫娘から直々にケーキを食べさせてもらうなど不敬罪で罰せられてしまう!
「ナタリア、淑女はそんなことしないよ?」
庶民の女の子でも淑女に憧れるものだから、これくらいの言葉ならば違和感はないだろう。
問題は私が6歳の子供という点なのだが、不敬罪を避けるためには仕方ない。
幸いにも店員も他のお客さんもカルロとナタリアの可愛さに見惚れて、私の言葉は気にしていないようだった。
どうやらナタリアは拗ねたようだったが、何故か私ではなく、私を通り越してカルロに拗ねたような目を向けていた。
もしや、私に食べさせたかったわけではなく、カルロに食べさせる、もしくはカルロから食べさせて欲しかったのだろうか?
そうか。きっとそうに違いない!
でも、まだ二人は恋人未満だし、恋人になったとしても二人だけの場所でなければそのような行動は控えてもらわないと困る。
カルロを不敬罪にするわけにはいかないのだから!
二人がもう少し大人になって、お互いの立場を理解して、隠れてうまいこと恋愛を楽しめるようになるまで、あーんイベント的な不敬罪に引っかかりそうなものは待ってほしい。
カルロは時々私に分けてくれながらデザートを完食した。
そして、ナタリアは途中から何故か膨れっ面になりながら黙々とデザートを食べ、一人で食べ切った。
お腹いっぱいになった二人は馬車の揺れの中眠った。
眠っている二人の手首に私は今日の記念に途中で買ったリボンを結んだ。
「今日は二人も一緒だったのに二人へのお土産を買ったのですか?」
ハンザスの言葉遣いが先生らしいものに戻った。
「はい。今日の記念に買ったのです」
私も口調を元に戻す。
「リヒト様はいつも二人にお揃いのものをあげますね」
口調を元に戻したハバルが笑った。
「二人は仲がいいですからね」
私の言葉にハンザスとハバルが「「え?」」と声を合わせた。
しばらく親子のふりをしているせいか二人も息が合ってきたのかもしれない。
「リヒト様はナタリア様とカルロに仲良くなってほしくてお揃いのものをプレゼントしているのではないのですか?」
ハバルの言葉に私は首を傾げた。
「何を言っているのですか? 二人は私が何かするまでもなく仲がいいじゃないですか」
「「それ、本気で言ってますか?」」
二人は本当に息が合っている。
セリフだけではなく、疲れ切っているようで顔を両手で覆うところまで一緒だ。
「今日はトラブルも多かったですから、二人もお疲れのようですね」
「ハバル、私は少し頭が痛くなってきました」
「私もです」
二人は痛みに耐えるようにこめかみに触れた。
本当に、仕草までそっくりになるなんて、二人とも役にのめり込むタイプだったのだろうか?
「風邪ですか? 気をつけてくださいね」
「そう言いながらカルロの口元をガードするのは何故ですか?」
「風邪が移ってはいけないと思って」
この世界にはマスクがないので私の行動が理解できないようだ。
「風邪が移ったらポーションを飲めばいいじゃないですか」
「まぁ、そうなのですが、移されないのが一番ですからね」
なんでも魔法やポーションで対処できるのは便利だが、そもそも感染させないという予防医療がもうちょっと浸透してほしいものである。
風邪の症状が少しでも出るなど、カルロがかわいそうではないか。
馬車が城についてもカルロもナタリアも起きなかったため、ナタリアのことは出迎えに来た彼女の乳母に任せて、カルロのことはシュライグにお願いして部屋まで運んでもらった。
本当は私が抱っこしてあげたいところだけれど、寝室ではないので人目が多いことを考えてやめておいた。
私の方が少しばかり背が高いとは言っても、私がカルロを抱っこするにはやはり魔法の力を借りる必要があり、帝国でも魔法が使える幼児などは稀だろう。
小国から来た王子というだけでも目立つのだ。
警戒されるようなことはするべきではない。
しかし、これから一緒に成長するのだから成長するに連れてどんどん抱っこなどできなくなるだろう。
チャレンジするなら子供の今のうちしかない……
前世の最推しキャラを抱っことか、機会があるのならばやっておくべきだ!
今度、抱っこさせてもらおう。




