278 癖の強い新入生 03
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「世継ぎの問題ならば他にも解決策はあります」
私はすでにその術を用意しているかのように余裕の笑顔を作ってみせた。
「それはどのような解決策ですか?」
「それはミカエル様にはお伝えする必要がないことです」
「僕の研究については聞いたのにですか?」
「生徒が行う研究については、学園側が把握しておく必要がありますから」
生徒会室の扉が開いて、テオがノアと一緒に入ってきた。
テオはヘンリックの指示を受けて生徒会室を出て行ったようだったが、ノアを呼びに行っていたらしい。
「リヒト様、ミカエルがご迷惑をおかけしたようですみません」
「いえ。ミカエル様がとても優秀なことはわかりました。ただ、私やカルロを性転換させようという考えは改めて欲しいです」
「ミカエルがそのようなことを言ったのですか!?」
ミカエルは兄の姿にも怯むことなく笑顔で兄の登場を歓迎している。
本当にどこまでも肝が据わっている。
「これだから、ミカエルの魔法学園入学は反対したのですが……」
ノアは苦痛に耐えるような表情になる。
おそらく、ミカエルにいつも面倒をかけられているのだろう。
少しの間話しただけだが、ミカエルは非常に口が達者だ。
迷惑ではあるものの、斬新な魔法のアイデアを出すことができるのも利発さゆえだろう。
しかし、それに巻き込まれる側は大変だ。
「あまり勝手な研究をされる場合には、申し訳ないですが、退学してもらうことになります」
私の言葉にノアがハッとしたように顔を上げた。
やはり、兄としては退学は可哀想に思うのだろう。
ノアが責任を持ってミカエルの手綱を握ってくれているというなら、それでもいいのだが……
「ぜひ! 退学でお願いします!!!」
ノアのまさかの回答に私は驚いた。
「ちょっと! 兄上! ひどいですよ!!」
「お前がいたら、一年生全員が少なくとも一回ずつは迷惑を被るだろう! さらに、他の学年にまで迷惑をかけかねない!」
ミカエルの威力は私が想定した以上のようだ。
しかし今のところ、魔塔の魔法使いの講師たちからは強制送還されていないわけだから、授業は問題なく受けているはずだ。
「問題を起こしそうなら、魔塔の魔法使いたちが強制送還させるはずですが?」
「それを知っているから、先生たちの前では優等生を演じているはずです」
ものすごく厄介なタイプだった。
しかし、だからこそハバルは私にヒントをくれたのかもしれない。
魔塔の魔法使いたちの前では真面目な生徒を演じているけれど、魔法学園全体に迷惑をかけるような研究をしていることを。
自分たちで責任が取れる……というか、クレームが来た場合に返り討ちにできる魔塔の魔法使いたちの研究とは違い、ミカエルが行おうとしているのは非常に危険なものだ。
性転換の魔法などそう簡単にできるものではない。
というか、おそらく不可能だ。
しかし、魔塔主が幻影魔法を使ったように、その応用で性転換に近い現象は起こせてしまうかもしれない。
それを魔法学園の生徒や卒業生という立場で行使されては困るのだ。
「あ!」とノアが慌てて言葉を付け足した。
「ただ、ミカエルは優等生を演じるのが上手いだけで、頭は良くないので、思いついたことが成功したことはありません!! だからこそ、父上も母上もささやかな悪戯程度にしかとってくれなくて、兄弟が迷惑を被るのですが……」
ノアが深く深くため息をついた。
「失敗続きだとしても、私はミカエル様を警戒してしまいます。新しいひらめきをするということは、それが成功した時に大きな影響を与えることになりますから」
前世でも「天才は1パーセントのひらめきと99パーセントの努力である」という偉人の言葉があった。
そして、私の身近にもフェリックスという天才がいる。
フェリックスは自分が興味のないことに関してはからっきしだが、興味のあることに関しては非常に優秀だ。
ミカエルがそういうタイプならば、その才能は魔法学園以外で芽生えさせてほしい。
魔法学園が私が作り管理している学園だからこのように言っているわけではない。
魔法学園には帝国内の多くの王族が通っている。
迷惑を被るのが私だけではないのだ。
魔法学園に不名誉な印象がつけば、それは魔法学園に通う生徒、魔法学園を卒業した生徒にもついて回るかもしれない。
かといって、正式な手続きで入学してきた者を問題を起こす前に退学にしてもいいものなのかどうか……悩ましい問題だ。
「……リヒト様は、僕の研究が成功すると思っているのですか?」
ミカエルが小さな声でつぶやいた。
その顔はなぜか心底驚いているような表情で、その瞳は何か期待をもって私を見つめてくる。




