274 新たな取り組み
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級友や後輩たちに各国の王侯貴族としての誇りを思い出してもらうために、自国の学園に通っていたならば本来は学ぶことができていたはずの各国の文化や産業などのカリキュラムを加えることにした。
それに伴い、講師たちの代表的立場になるハバルに相談することにしたわけだが……
「無駄じゃないですか?」
ハバルが爽やかな作り笑いで言った。
「リヒト様に失礼なことを言わないでください」
カルロが眉間に深い皺を寄せる。
「だって、考えてみてください。貴族はともかくとして、王子や王女たちは幼少期から王族としての教育を受けているはずです。自国の文化についてなんて今更ではないでしょうか?」
「そ、それは確かに……」
「とりあえず、一度、学生同士で自国の特色や魅力を紹介する機会を設けてはどうでしょうか?」
ハバルは否定するだけに留まらず、アイデアも出してくれた。
「学年合同で国ごとに取り組ませるといいでしょう。そうすれば、彼らがどれくらい自国のことを把握しているのか確認もできますし、さらに足りない部分は自分たちで各国の詳しい者に聞いたりと各自学習も進めるでしょう」
なるほど。それならば各国の学者などを呼んで魔法学園で授業をする必要はなく、各自で学習を進めることができるわけだ。
「ハバル、とても素晴らしいアイデアだと思います。それで、魔法使いとしての本音は?」
「我々魔塔が全く興味のない各国の文化や産業や特色なんかを知るための授業で魔法の講義時間を減らされるのも、興味のない講義に付き合わされるのもちょっと面倒くさいなぁ〜と思いました」
「忌憚の無いご意見ありがとうございます」
ハバルは比較的学生思いというか、学生たちに親切で魔塔の魔法使いたちの中では一番講師向きな魔法使いなのだが、そんな彼でも魔法以外の授業に時間を割くのは避けるということは他の魔法使いたちにこの手の授業に付き合ってもらうのは無理ということだろう。
元々、講師自体は各国から呼ぶ予定だったのだが、私が卒業した後もこうした授業を続けるためには講師陣の誰かにこの授業を管理してほしかったのだが、魔塔の魔法使いたちがダメならば、魔塔の魔法使い以外にも魔法学園の講師として雇うべきだろうか?
しかし、半年しか開校しない学園の講師として雇われてくれる人間などいるだろうか?
同僚が魔塔の魔法使いというだけでも嫌厭されそうだが、雇用期間も微妙だ。
それならば、ハバルの言うとおり、企画として立ち上げて、生徒会が毎年の企画として管理した方がいいのかもしれない。
「リヒト様?」と、カルロが眉尻を下げて私の顔を覗き込んできた。
少し一人で考え込んでしまっていたようだ。
カルロの頭を撫でれば、カルロの美しい顔が柔らかく微笑む。
十四歳にして、カルロは素晴らしい美形に成長していた。
ゲームの姿も攻略対象として十分に美形ではあったが、それよりもさらに美しいと思う。
ただ、ゲームでの姿のように線の細い繊細な美しさというよりは、しっかりとした体躯の前世で見た有名な彫刻のような美しさだった。
護衛として私の後ろに控えてくれているヘンリックもゲームでの姿よりも随分と逞しく成長しているような気がする。
カルロはゲームでは不憫な環境から人を避けて引きこもるような生活をしていたのが、この世界では全く違う生活をしているために心身ともに健やかに成長したのだろう。
そして、ヘンリックに関してはゲームでは魔法学園に通っていたのが、この世界では私の護衛となるために剣の稽古を頑張ってくれたために逞しくなったのかもしれない。
「ハバルの意見を参考に、授業ではなく企画として、生徒たちの愛国心を取り戻せるようにやってみたいと思います」
そう告げた私にハバルは微妙な顔で微笑んだ。
「まぁ、どんなにやってもリヒト様に仕えたいという気持ちを変えるのは無理だと思いますけどね」
何やらハバルがつぶやいたが、私はそれは聞こえなかったことにして、ハバルにお礼を述べて部屋の扉へと向かった。
ちなみに、この学園には今の所、職員室や教員室という部屋はない。
なぜなら、魔塔の魔法使いたちは魔法学園の講師を引き受けてくれてはいるが、魔法学園専属の講師ではないため、講師一人一人にデスクなどを与える必要はないのだ。
今後、魔塔の魔法使い以外の専属講師が増えるならば職員室を用意する必要があるだろうが、今のところはない。
その代わり、空いている部屋や応接室、お茶会室、図書室の勉強部屋など、好きな部屋を自由に控え室にしてもらっている。
あまり自由に使わせていると講義に全く関係のない私物が溜まっていくパターンもあるので、その場合は私が交渉して持ち帰ってもらうか、回収することになるのだが。
その傾向が強いのがラズリだ。油断するとすぐに自分の巣を作っているので、私やハバルで定期的に私物を回収している。
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呪いで猫になってしまう公爵子息と実母からの虐待により表情を無くしてしまった令嬢のお話です。
恋愛メインというよりは、脱虐待メインのお話となります。
少しでも楽しんでいただけますと幸いです。
よろしくお願いします。