272 王立学園ヴァイスハイト 04
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おかしい。どうしてこうなったのか……
私はヴァイスハイトの全校生徒とヴィア王国の貴族院の生徒たちが集まる大講堂の黒板に魔法陣を描いている。
魔法学園の生徒たちとは違い、ヴァイスハイトの生徒たちは自身の属性を極めるところまでは学んでいない。
ほとんどの生徒が初級魔法が使えるようになったところで魔法の学習はやめてしまうのだ。
魔法に興味があるごく一部の者が中級魔法、上級魔法を学ぶそうだ。
しかし、近年では生徒たちの魔法への学習意欲が高まっているそうだ。
ということで、私は初級魔法の学習を終えた生徒向けの講義を行なっている。
おかしい。
私はヴァイスハイトの生徒とヴィア王国貴族院の生徒の交流会に参加して、魔法学園の級友たちが王族としての誇りと威厳を取り戻し、魔法学園卒業後に私に仕えたいという意味のわからない発想を転換させる講義の参考にしたいと思っていたのだが?
ヴィア王国貴族院の生徒を迎えた時点で私のことがバレてしまい、その後のお茶会で貴族院の生徒会長であるレイモンドに魔法の講義をしてほしいと言われた。
もちろん、最初は断ったし、ヴァイスハイトの生徒会メンバーも私を庇ってくれた。
しかし、レイモンドの立場を聞き、さらに魔塔の魔法使いたちに家庭教師を断られたという話を聞くとなんとも断りづらくなってしまった。
レイモンドは我が国にヴィア王国の動きが怪しいことを教えてくれたレイアント現国王のかつての部下の孫であり、子供のいないレイアントの養子になって、次期国王としての教育を受けているのだという。
つまり、ヴィア王国の王子という立場なのだ。
それならそうと最初からそのように教えて欲しかったのだが、彼が養子になったのは極々最近のことであり、その事実を学友は知っているものの国内外に公表するのは彼が貴族院を卒業してからのことになるという。
そんな彼が王子として魔法の学習を深めようと魔塔に家庭教師を申し込んだところ、魔法学園の教師業で研究費は足りており、わざわざ家庭教師などする必要がないと断られたということだった。
そんな話を聞いた上で、再度、私に特別講義をしてほしいと言われれば大変断りにくい。
そして、私が講義をするとなると、せっかくだから全校生徒に聞かせてあげたいと教師陣が言い出して、今の状態となってしまったのだ……
これもある意味、身から出た錆というやつだろうか?
一番前の席でレイモンドとアルド、そして、他の生徒会メンバーの面々が熱心に私の講義を聞いている。
私は一体、この場に何しに来たのだろうか?
これでは、私の目的は全く達成できそうにない。
「魔法学園では二属性の魔力を組み合わせて使う魔法も学ぶことができるのですよね?」
レイモンドの質問に私は頷く。
「そうですね。しかし、一つの属性を極めることも重要です」
私が最前列の席の端にいたカルロに視線を送れば、カルロは自分の影に潜り、そして、私の影から出てきた。
次の瞬間、ヴィア王国貴族院の生徒たちはワッと歓声をあげたが、我が国のヴァイスハイトの生徒たちの顔色が一斉に青くなった。
私が出席したパーティーなどで何かしらのトラブルがあるとカルロが一掃してくれていたので、エトワール王国の貴族たちにとっては闇属性の魔法はとても怖いものに感じているのかもしれない。
しかし、愚行を行わなければカルロだって無闇に触手を出したりしないのだ。
「私の婚約者のカルロは闇属性が得意です」
「闇属性は魔法の無効化や空間魔法が使える属性だと思っていましたが、転移魔法のようなこともできるのですね」
レイモンドが感心したように言う。
「レイモンド様はよく勉強されていますね。カルロは空間魔法の応用で、私とどれだけ離れていても私の元へ来ることができます」
「それは素晴らしいですね!」
「皆さんは魔法学園の生徒たちのように一日中魔法の講義を受けることはできませんから、複数属性の習得を目指すよりも得意な属性を極める方がいいかもしれませんね」
「魔法学園に通うのは主に王族と公爵家などの上級貴族だと聞いています。そのような立場の方々だからこそ、魔法学園の試験に合格できるだけの学習ができているのでしょうね」
ヴァイスハイトの生徒会長のアルドがそう穏やかに微笑んだ。
「我々では自国の地理や歴史、算学などの基礎学習だけで手一杯ですから」
「王族の皆様は優秀な家庭教師をつけることが可能ですしね」
うんうんと他の生徒会メンバーも頷いている。
いや、待ってくれ。もしや、魔法学園の級友たちが私に仕えたいとおかしなことを言い出してしまうのは、自国の歴史や国土、産業への理解が浅いからではないのか?
各国についての学習を深め、自国の良さを知り、王族としての誇りを高めれば、私の臣下になりたいなどとは言わなくなるのではないだろうか!?
「今日はとてもいい気づきを得ることができました!」
特別講義を終えた私はアルドにお礼を言って帰路に着いた。
アルドや他の生徒たち、そして先生たちからはまたぜひ講義をしてほしいと言われたが、もうすぐ魔法学園の新年度が始まるからそれは難しいだろう。