271 王立学園ヴァイスハイト 03
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更新が遅くなりすみません。
忙しさが続いておりますが、落ち着いたらまた定期的に更新していけると思います。
次回の更新はお盆休み中になると思います。
「リヒト様! ようこそお越しくださいました!」
王立学園ヴァイスハイトの生徒会メンバーに出迎えられて、私はかなり戸惑っていた。
私が王子であることは内密に隣国ヴィア王国との交流会に参加させてもらうことは伝えていたのだが、生徒会長をはじめとした生徒会メンバーの後ろには他の生徒達も集まっていた。
学園の正面玄関の前に来ていない生徒たちも窓から身を乗り出したりしてこちらを注目している。
隣国の生徒が来るのは今日の午後ということだったので、まだ来てはいないのだろうが、ヴァイスハイトの在校生達がこの状態では私はとても内密にというわけにはいかないのではないだろうか?
「この学校に通うのはエトワール王国の令息令嬢ですから、当然、リヒト様のお姿は存じております。そのため、リヒト様がお越しになるのを黙っていると却って混乱が起きるため、数日前に朝礼にて本日リヒト様がお忍びでお越しになることは伝えておいたのですが、このような騒動となり、申し訳ございません。ですが、皆、貴族の令息令嬢ですから、本番には問題なく落ち着いた姿を見せてくれるでしょう」
生徒会長のアルドはにこやかにそう話していたが、本当だろうか?
生徒達が落ち着かず、どうしても私に注目するようだったら内密に見学することは諦めて私が王子としてヴィア王国の生徒達を歓迎したほうがいいだろう。
しかし、私の心配は無用だったようで、午後にヴィア王国の貴族の令息令嬢が通うヴィア貴族院から学生達が来るとヴァイスハイトの生徒達は別人のように落ち着き払って訪問者を迎えた。
さすが、貴族の令息令嬢である。
今回は生徒会と三年生同士の交流ということで、私とカルロとヘンリックは生徒会の後ろに並ぶ三年生達の中に混ざっていた。
「ヴィア貴族院の皆様、エトワール王国王立学園ヴァイスハイトへようこそ」
「出迎えていただきありがとうございます。こちらに来る前にヴェアトブラウの花畑を見てきたのですが、本当に美しい場所でした。生徒会の皆様におすすめいただいてよかったです」
両校の生徒会長がにこやかに挨拶を交わしている。
「では、交流会を行う会場へとご案内します」
そうアルドが生徒会長の後ろにいるヴィア貴族院の生徒達に視線を向けた時、同じく、ヴァイスハイトの生徒達を見回したヴィア貴族院の生徒会長 レイモンドと目が合った。
「……」
レイモンドはその目を少しばかり見開き、じっと私の顔を見る。
そして、ヴィア貴族院の他の生徒会役員もレイモンドの視線を追って私を見て、驚きの表情となった。
あれ? これはもしや……
私が嫌な予感を抱いたのと、レイモンドが行動するのは同時だった。
レイモンドはまっすぐに私の前まで歩いてくると、丁寧に一礼した。
「まさか、リヒト王子がこちらの学園にも在籍しているとは思っておりませんでした! 今回の訪問ではリヒト王子にお会いすることはできないと思っておりましたので感激です!」
貴族としてよく教育されているために手を握られたりはしなかったものの、そんなことをされそうな勢いがある。
「ヴィア貴族院の皆さんを歓迎します」
私はなんとか作り笑いをしたが、心の中では大混乱だ。
なぜ、隣国の学生が私の顔を知っているのだ?
「あ、あの、どうして、ヴィア貴族院の方がリヒト様のお顔をご存知なのでしょうか?」
慌てて私とレイモンドとの間に入ってくれたアルドが私の疑問を聞いてくれた。
レイモンドは爽やかに微笑んだ。
「それは、姿絵が広まっておりますから」
……は? 姿絵???
「そちらの国にまで広まっているのですか?」
「はい。我が国でリヒト王子のお姿を知らない貴族はいないのではないでしょうか?」
「そちらの国にまで」ということは、エトワール王国国内にも私の姿絵が広まっているということだろうか?
そんなことは初耳なのだが?
「魔法学園を設立して、他国の王子たちを束ねるリヒト王子のファンは我が国にも多いのです! ヴィア国王もリヒト王子の活躍に注目しておりますし」
レイモンドにキラッキラッの眼差しを向けられた。
ヴィア国王とは、第四補佐官にヴィア前国王の怪しい動きを教えてくれた人物だ。
感謝はしているものの、なぜ私の動向に注目しているのかは謎だ。
「他国の王子を束ねるなど畏れ多いです。彼らは私の学友ではありますが、私が束ねているわけではありませんよ」
「ああ、そうですよね」
レイモンドはにこやかに微笑んているが、なんだろう? 私の言葉はさらりと流されたような気がする。
内密にこっそりと生徒達の交流の様子を見るつもりだったのに、まさかこんなにすぐバレるとは……
「それにしても、姿絵よりも実物は数倍美しいですね」
……今、美しいと言っただろうか?
それは随分とおかしな評価だ。
「美しいというのは、カルロのような者のことだと思いますが?」
私の言葉にレイモンドは私の隣に立つカルロを見る。
「リヒト王子のご婚約者のカルロ様でしたか? お目にかかれて光栄です。確かに、カルロ様も大変な美形ですね。しかし、線が細くて、美しいという表現が当てはまるのはリヒト王子でしょう」
レイモンドの言葉にカルロがにこりと微笑んだ。
「僕もその意見には賛成しますが、リヒト様を独り占めするのは良くないと思いますよ? 他の生徒達が待っています」
「交流会の会場にご案内します!」という再度のアルドの声を合図に、ヴァイスハイトの生徒達が動き始め、ヴィア貴族院の学生達もそれに続いて動き出した。