270 王立学園ヴァイスハイト 02
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ヴァイスハイトの生徒会からの要請を受けて交流会に参加することにした私とカルロ、護衛騎士のヘンリックのために乳母がヴァイスハイトの制服を用意してくれた。
たった1日のために用意された制服に勿体無いと思ったが、王子だと明かさずに一般生徒のふりをするのだから仕方ない。
私の制服姿に乳母もメイドたちも満足そうにしていたし、カルロもよく似合っていると言ってくれた。
もちろん、カルロは何を着ても可愛い。
しかし、今回注目すべきはヘンリックだろう。
ヘンリックは魔法学園の生徒ではないため、学校の制服姿を見るのはこれが初めてだった。
いつも騎士服のヘンリックの制服姿というのは新鮮だった。
ヘンリックは腕を軽く回して、「ちょっと動き難いですね」と呟いた。
護衛騎士としての意識が高くて非常に優秀だ。
「ヘンリックと同級生になったようでなんだか嬉しいですね」
動きやすい騎士服とは違い慣れない制服だろうけれど、よく似合っているし、いつも大人びたヘンリックを年相応の学生の姿にしてくれる制服は貴重だと思った。
「今度、魔法学園の制服も着て見せてください。私のを貸しますから」
きっと魔法学園の制服もよく似合うはずだ。
「リヒト様の制服をですか……」
ヘンリックの頬がすこし赤くなる。
熱でもあるのだろうか?
「リヒト様の制服よりも僕の制服の方がサイズが合うと思います」
カルロがにこりと微笑んだ。
どうして、少し怒っているのだろう?
「カルロもヘンリックもとても立派な体格に成長しましたからね」
私も剣の稽古をしているのだが、どういうわけか二人の方が筋肉がしっかりついている。
こればかりは体質なのだろうから仕方ないとは思いつつも少し悔しくはある。
「カルロはまた魔法学園の制服を新調しないといけませんね」
「また、ですか?」
乳母の言葉に私は思わず聞き返した。
育ち盛りの年齢のために学園生活の途中で制服を新調することはあるだろうけれど、乳母は「また」と言った。
しかし、私はその現場を目撃したことがないのだ。
魔法学園の制服を作る最初の時は一緒に採寸したが、その後はカルロが採寸する姿は見ていない。
「すでにカルロは何度か制服を新調しているのですか?」
王侯貴族が通う魔法学園では前世の子供たちのように成長を見越して前もって大きめに作るようなことはしない。
いつもきちんと体に合ったサイズのものを身につけ、王侯貴族としての品性を保つように皆気をつけている。
「そうですね。最初に作ってから1年生の途中で2回新調し、2年生に上がる際に再度新調して、2年生の途中で一度新調しましたね」
カルロの成長が早すぎる。
私も学年ごとには新調しているし、一年生の時はやはり身長が伸びたためにズボンは新調しているがブレザーに関しては新学年が始まる時にしか新調していない。
ヘンリックは年上だし騎士だからどんどん体格が良くなっていくことをそれほど気にしたことはなかったけれど……もしや、私は成長が遅いのだろうか?
「リヒト様、どうされましたか?」
カルロが私の顔を覗き込んでくる。
「いや、なんだか、二人に置いて行かれているような気がして」
私がそう苦笑すると乳母が「気にすることはございません」と言った。
「この二人の成長が早すぎるのです」
「そうですわ」とメイドたちも頷いてくれる。
「カルロは従者なのに、リヒト様のことを抱き上げることを目標に訓練していますからね」
「それは秘密だって言っただろ!」
ヘンリックの言葉にカルロが慌てている。
「私を抱き上げることが目標ですか?」
「まだリヒト様がお小さかった頃に魔塔主がリヒト様を抱き上げておられたのが羨ましかったようですよ」
乳母がそう教えてくれた。
子供の私が大人の魔塔主に軽々と抱き上げられていた姿がカルロは羨ましかったそうだが、カルロと私は同い年なので、あのように抱き上げることはかなり難しいはずだ。
「カルロは私を抱き上げるために鍛えていたの?」
「……婚約者は僕ですからね。もうリヒト様を抱き上げる役目を誰かに譲るつもりはありません」
私に秘密で鍛えていたことをバラされて恥ずかしく思っているのか、それとも当時の羨ましく思っていた気持ちを思い出したのか、カルロは少し拗ねたようにそう言った。
その様子が愛らしくて、私は背伸びをしてカルロの頭を撫でた。