265 適任者 06
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自国での騎士たちの歓声もすごかったのだが、ハンスギア王国の王族直属の騎士団の前で光の聖剣を出したら、さらに大きく熱を帯びた歓声が上がった。
「愚かな王と王妃に仕えるのがほとほと嫌になっていたところに、リヒト様が頭痛の種だった愚者二人を処罰してくださったのです! さらに、権力争いの貴族たちに引き抜きの声をかけられてうんざりしていた騎士たちにとっては光の聖剣を持つリヒト様はまさに救世主、英雄そのものです!!」
そう解説してくれたのはハンスギア王国の騎士団長である。
「そうですか……」
集まるハンスギア王国の騎士たちの視線を感じながら、私はグレデン卿とアイデルに視線を向けた。
「では、騎士団長、二人をよろしくお願いします」
私の光の聖剣を見たアイデルは涙を流さんばかりに感動して、今回のハンスギア王国の軍事制圧に協力したいと言ってきた。
軍事制圧という仕事において自分がどれほど役に立つのかを見てほしいというのだ。
手合わせでグレデン卿に余計な負担をかけるよりはその方がいいだろうと判断して私も了承したのだが、今度はグレデン卿も軍事制圧において自分も私の役に立つことができると主張し出して、結局は二人をここに連れてくることになった。
私としてはグレデン卿がたとえアイデルとの手合わせで負けても私の護衛騎士という役職から外すつもりはなく、軍事制圧においてもアイデルの方が優れていても護衛騎士の役割から解任することはないのだが、それでもグレデン卿は一緒に行くと言って聞かなかった。
一体、何が彼をこんなにもアイデルとの競争に駆り立てるのか……
「騎士の意地です」
私の疑問にそうあっさりと回答をくれたのはヘンリックだった。
ヘンリック曰く、騎士の意地でしかないため、私が二人の競争に対して気に病むことは一切ないのだという。
ヘンリックは大人である。
とにかく、私はハンスギア王国の騎士団長に二人を預けた。
騎士団長には二人を騎士として使うのも、隊を預けて隊長として使うのも自由にして欲しいと伝えてある。
軍事制圧については彼らに任せることにして、私は宰相の様子を見に行くことにした。
城のどこかにいると思っていた宰相の居場所を騎士団長に尋ねたところ、子爵邸の屋敷に軟禁されているという。
ハンスギア王国には公爵家が三つあり、今はその公爵家の中のどの家の当主が王位を継ぐかで争っているそうだ。
彼らは現在、城内の大会議室でそれぞれの派閥の貴族を集めて話し合いという名の舌戦……口喧嘩中だとか。
公爵家はそれぞれの私兵を持ち、その私兵が城内を歩き回っているらしい。
ちなみに、私たちは城の騎士団を圧倒するために魔塔主に騎士団の居場所を確認してもらってから彼らの前に集団で現れ、私の光の聖剣を披露したため、まだ城内には入っていない。
城内の様子を少し確認してから宰相の元へと行くべきかと思ったが、アイデル卿が「ここは私にお任せください」と自身のありそうな様子だったので任せることにした。
級友たち全員で宰相のところへ行くつもりでいたのだが、ザハールハイドは重要な書類が貴族たちや公爵家の私兵によって荒らされていないか確認しに行くと言い、ランツは護衛としてそれに同行、ノアはヴィソンの生態調査の続きを行うという。
ザハールハイドとランツ、ノアについていく生徒たちはすでに班分けされていた。
危険ではないだろうかと思ったが、彼らの魔法の実力は今や王宮に仕える魔法使いかそれ以上のものだ。
それに、彼らは一国の王子であり、本来は私の指示など不要な者たちだ。
そんな彼らに危険だから自分の側にいろと言うのは失礼だろう。
「大丈夫ですか?」
失礼だろうと思いながらも、中身52歳の私はやはり心配でついそのように聞いてしまった。
「ランツもいますし、大丈夫です」
「上級魔法使いレベルの俺たちの方が過剰戦力ですので心配無用です!」
「私たちにお任せください!」
ザハールハイド、ランツ、ノアがそう答えてくれた。
頼もしい級友の姿に私は安心した。
「皆さん、よろしくお願いしますね」
カルロとテオ、ナタリアをはじめとした女性陣は私と一緒に行動することになる。
「リヒトさまぁ〜!」
魔塔主の転移によって宰相の屋敷に転移すれば、宰相に泣かれた。
大の大人に泣かれると、正直なところちょっとうざい。
宰相の後ろで執事長も呆れた顔になっている。
執事長にお茶を淹れてもらい、宰相が落ち着くのを待ってから話を聞いた。
私に言われた通りに宰相はオーロ皇帝に直轄地にして欲しいという嘆願書を送り、その後、再び私への取次をアニーア王国の女王に送った後で、他の貴族たちに取り押さえられて今回の王と王妃が失脚した責任者として軟禁されたそうだ。