253 ハンスギア王国 01
お読みいただきありがとうございます。
感想にて、魔塔主の行動がバレバレでどきりといたしました笑
「行きますよ。愚かしき王国、ハンスギアへ」
全員を転移させてくれたのは魔塔主だった。
相変わらず、研究対象の私を定期的に観察しているようで、全員が一斉に転移するためにはやはり魔塔主にお願いする必要があるだろうと話し合っていたらやってきた。
「リヒト様がオーロ皇帝のみならず、魔塔主のお気に入りでもあるという噂は聞いていましたが、本当だったのですね」
ハンスギア王国の宰相と補佐官長はひどく驚いていた。
ついでに、ハンスギア王国内にいる間の私の護衛もしてくれるそうだ。
相変わらず魔塔主は私を随分と貴重な研究対象のように思っているようだ。
いつか研究対象としての価値がなくなればこのように全員を転移してくれることもなくなり、護衛をしてくれることもなくなるだろう。
魔塔主の全員を一斉に転移してくれる能力は非常に便利なため、少なくとも私たちが魔法学園を卒業するあと二年くらいは魔塔主の興味を引く研究対象でいたいものである。
あ、別に、研究されたいというわけではないのだが。
転移した場所はハンスギア王国宰相であるグルートニス子爵の屋敷の広間だった。
その広間を見渡して、思ったより質素だなと私は思った。
子爵という爵位で宰相にまで登り詰めたのだから、爵位以上に経済力があるものだと思っていたが、それほど広くもなく豪華でもない広間を見る限り、一般的な子爵の屋敷にある広間と同等だった。
子爵という爵位のそれ以上でもそれ以下でもない印象だ。
「グルートニス宰相は領地運営に成功したり、事業に成功して経済的に余裕があり、それゆえに権力を持った貴族だと思っていたのですが、随分と質素なようですね」
広間を見たザハールハイドも私と同様の感想を抱いたようだ。
「私が宰相をしているのは他の者たちに押し付けられたからにすぎません」
グルートニスは深くため息をついた。
「まともな貴族は王の側で働くことは望まず、そうではない貴族は自身が賄賂を受け取ったりと甘い汁を吸うことしか考えていないために国を回すための宰相の仕事はできず……」
王が仕事をしないために、本来は王が行うべき仕事まで宰相の肩にのしかかっているそうだ。
この国に仕事もうまく回しつつ、王を傀儡のように使い、甘い汁もしっかり吸うような上級貴族でもいれば子爵のグルートニスのところまで宰相という役目が降りてくることはなかったのだろうが、そのような才能あふれる悪人はどうやらいなかったようだ。
それがこの国にとって救いだったのか、たとえ悪人でも国をうまく回してくれるならその方が良かったのかはわからない。
「それでは、まず、テオドロス様を連れて、王城へ参りましょう。リヒト様とカルロ様、それからランロット様はテオドロス様の護衛騎士ということで王城についてきていただき、それから他の皆様にはしばらく我が家に滞在いただいて……」
「いえ、まずはみんなでヴィソンの生息地域へと行きます」
ハンスギア王国の王妃が毛皮として好んでいる魔獣はヴィソンという小型の魔獣だという。
魔獣事典で確認したところ、その姿は前世のイタチのような姿だった。
「ヴィソンの生態調査が終わってから、それぞれ役割分担をしましょう」
「しかし、我が国の正式な後継者であられるテオドロス様にそのようなことをさせるわけには……」
私はグルートニスににこりと微笑んだ。
「宰相、お忘れですか? ここにいる者たちの多くが王子王女です」
ランツ以外は第二王子、第三王子や第二王女、第三王女という身分ではあるが、みんな、王位を継いでもおかしくない身分だし、才能の持ち主なのだ。
そんな彼らは非常に勤勉な上、働き者で、文句の一つも言わずに魔法学園で修練を積み、課題をこなし、どういうわけかよく私の手伝いもしてくれている。
「ハンスギア王族の皆さんには彼らの勤勉さを見習ってほしいものです」
私の言葉に何も言えなくなってしまったらしいグルートニスは、やる気に満ちた王子王女たちの姿に複雑そうな表情を浮かべた。
完結済『無属性落ちこぼれの僕が魔法書を創ったら、なぜか最強たちの中心にいた件』
(旧タイトル『魔法書の創り手 ~落ちこぼれ無属性の僕のまわりが最強すぎる件~』)
https://www.alphapolis.co.jp/novel/135536470/928951442
公爵家から「無属性の落ちこぼれ」として追放された少年 エノク。
魔法が使えないはずの彼が手にした能力は、精霊の言葉で記す”魔法書”を創る力だった。
静かに一人、森の小屋で魔法書を作って暮らすはずが……暗殺から逃げる王子 オスカー、最強の冒険者たち、魔法研究第一人者のエルフと、なぜか周囲にとんでもない奴らが集まってきて……
エノク「僕はただ、静かに暮らしたかっただけなんだけど……」
オスカー「世界を変えるほどのものを作っておいて静かにとか無理でしょ?」
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こちらの作品はBL作品ではありませんが、主人公が性別種族関係なく愛される(恋愛友愛)作品となっております。