250 ハンスギア王国の使者 03
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「しかし、テオドロス様は我が国の正式な王位継承権をお持ちの方ですから、このままエトワール王国においておくわけにはまいりません!」
「先ほど、無理強いはしないと約束していただいたはずですが?」
「それはそうですが、これほどまでに美しい水色の髪を見たのは初めてです。たとえ、私が罰を受けてもテオドロス様には我が国の王になって頂かなければなりません」
彼らはなんとしてもテオをハンスギア王国に連れて帰りたいらしい。
さて、想定以上にしつこい二人をどう納得させるかと考えていると、応接室の扉が開いた。
王城でこのように勝手に扉を開ける不躾な文官や騎士、使用人はいない。
一体誰が扉を開けたのかとそちらを見れば、意外な人物がいた。
「リヒト、誕生日パーティー以来だな。息災だったか?」
「オーロ皇帝……どうして、こちらに?」
突然のオーロ皇帝の登場にハンスギア王国の宰相と補佐官長は固まっている。
「アーニアの女王から少し面倒な者たちをリヒトに会わせることになったと相談を受けていたのだ。リヒトならば問題ないとは答えたものの、其方のことを子供だと侮った馬鹿者たちのせいで、国が一つ滅ぶかもしれないと思ってな」
「私はそのようなことはしませんよ」
「其方、それは一緒に座る者たちを見てから言え」
「え?」
カルロを見れば、影からウニョウニョ触手が出ている。
テオを見れば、顔を真っ赤にして怒っている。
「ちなみに、其方の護衛はずっと剣の柄を握っているぞ」
どおりで、さっきからハンスギア王国の宰相と補佐官長の顔が青いわけだ。
それでも、テオに国に来てほしいと言っていた根性はある意味すごいな。
「ハンスギア王国は今、バカな国王と王妃のせいで財政難だ。豊作だったのにも関わらず、王と王妃のせいで国民が食うに困る生活をしている。だから、新しい政治勢力を作り、どうにか王と王妃を権力の場から引きずり下ろしたいというのが宰相と補佐官長がここにきた理由だ……というのは、リヒト、其方も知っているだろう?」
「私のために情報を集めてくれる者たちは優秀ですからね」
エトワール王国の情報ギルドは今や帝国の各国に人を派遣して情報を集めてくれている。
「しかし、ハンスギア王国の自業自得のお国事情など、テオの幸せにはなんの関係もありません」
「そうとも限らんだろ?」
「オーロ皇帝は子供は親のところにいるものだという浅はかな考えをお持ちでしたか?」
「いや、そんなことは全く思わん」
「ただ」とオーロ皇帝がテオに視線を向けた。
「テオよ。ハンスギア王国の王になれば、ハンスギア王国は其方のものになるのだぞ?」
「いらないです」
そんな話は今散々宰相と補佐官長がしたところだ。
「其方のものは、誰にやろうと問題ないはずだ」
その言葉を聞いた瞬間、私はゾッと寒気を覚えた。
ハンスギア王国の宰相と補佐官長も嫌なものを感じたのか青かった顔に変な汗をかき始めた。
そして、女王は楽しそうに笑っている。
「其方がこれまで世話になったリヒトにプレゼントしてやるというのはどうだ?」
「国を、リヒト様にプレゼント……」
テオが無邪気な声で呟く。
「いや、いらないよ? 私はもう国は欲しくないよ?」
何せもう元ティニ公国とオルニス国を押し付けられているのだ。
もういらないし、隣国だった元ティニ公国と移動してきたオルニス国とは違い、ハンスギア王国はルシエンテ帝国の皇都を挟んで反対側にある国だ。
そんなところをもらってもどうしていいかわからない。
「いらないとは言えど、エトワール王国は其方には小さいだろう? ハンスギア王国はエトワール王国よりでかいぞ」
「リヒト様に大きな国をプレゼント……」
テオの瞳がキラキラして頬がピンクに染まり、気持ちが高揚しているのがわかる。
「テオ? しっかりして! 本当にいらないから! ちょっと、宰相と補佐官長もボーとしてないでなんか言ってくださいよ! ハンスギア王族の直径の血が途絶えますよ!」
「自国の改革をされ、魔塔主とオーロ皇帝のお気に入りのリヒト様が王になってくださるのならば、多くの国民の命も救われましょう……」
「もうあのような者たちに仕えるのはうんざりですし、いっそのこと、国民を苦しめた罰として現在の王族は排除した方が国民たちは納得するかもしれません」
なんなの? クーデターでも起きそうだったのだろうか? むしろ、宰相たちがクーデターを起こしたかったということだろうか?
王妃が追い出したテオを探しに来たのだから、そういう気持ちはあったのかもしれない。
「テオ、リヒト様には大きな国が似合います!」
「カルロ様、僕もそう思います!!」
「リヒト様が治める国ならば穢らわしいものは一掃しなければいけませんね」
カルロもテオも何言ってるの!?
ヘンリック、剣を抜こうとしないで!
「リヒト」と、オーロ皇帝が耳打ちしてくる。
「ハンスギア王国には比較的大人しい魔獣がいてな、王妃はその毛皮を好んでおる」
「魔獣の保護と、王妃を潰しに行きます!!」
大人しい魔獣ということは国民に何らかの被害を与えているわけでもないのだろう。
そんな魔獣を毛皮欲しさに狩っているのかと思ったら、ものすごく腹が立った。
「あ、国は本当にいらないから!!!」
大事なことはちゃんと伝えておいた。
『無属性落ちこぼれの僕が魔法書を創ったら、なぜか最強たちの中心にいた件』
(旧タイトル『魔法書の創り手 ~落ちこぼれ無属性の僕のまわりが最強すぎる件~』)
https://www.alphapolis.co.jp/novel/135536470/928951442
公爵家から「無属性の落ちこぼれ」として追放された少年 エノク。
魔法が使えないはずの彼が手にした能力は、精霊の言葉で記す”魔法書”を創る力だった。
静かに一人、森の小屋で魔法書を作って暮らすはずが……暗殺から逃げる王子 オスカー、最強の冒険者たち、魔法研究第一人者のエルフと、なぜか周囲にとんでもない奴らが集まってきて……
エノク「僕はただ、静かに暮らしたかっただけなんだけど……」
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こちらの作品はBL作品ではありませんが、主人公が性別種族関係なく愛される(恋愛友愛)作品となっております。