247 テオの事情
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誕生日パーティーを終えた数週間後、しばらくは私の生誕祭ということで王都も賑わっていたが、祭りの賑わいも収まり落ち着いた日常が戻ってきた頃、誕生日パーティーでも言葉を交わしたアニーア王国の女王から信書が届いた。
アニーア王国の女王としてエトワール王国の王である父上宛に届いてはいるが、その内容は私の意向が聞きたいというものだと第一補佐官が説明してくれた。
内容はハンスギア王国の王族が私と面会したいとアニーア王国の女王に中継ぎを依頼してきたというものだった。
アニーア王国の女王としては、私の意向に従った交渉をしてくれるということだ。
ちなみに、私が会ってもいいという意向で、私との中継ぎを引き受ける際にはハンスギア王国からそれなりの対価をもらう予定だと書いてあった。
さすが一国を統べる女王。したたかだ。
私はアニーア王国の女王にハンスギア王国の使者と会う意向があることを伝える手紙をしたためた。
そして、中継ぎの対価はできる限り絞りとってもらうようにお願いした。
ハンスギア王国の者が私に会いたいという原因に、私は心当たりがあった。
彼らはおそらくテオを取り戻したいのだろう。
テオは、ハンスギア王国の王族だ。
テオの美しい水色の髪を見てテオが前世のゲームに登場した攻略対象の一人だと気づいた私は、テオがどうしてゲームのようにハンスギアの姓を名乗っていないのか不思議だった。
もしかすると、前世の記憶を持った私が色々と動き回ったせいで、テオがハンスギア王国からエトワール王国に売られるような事態になってしまったのかとも考えた。
しかし、おそらく私の行動とテオがエトワール王国にいたことは関係がない。
ゲームとは違う私の行動がテオの運命に干渉してしまったのだとしたら、そのタイミングは私の存在が公表された頃だろう。
テオが攻略対象だと気づいてからテオがどうしてエトワール王国に来てしまったのかを情報ギルドに依頼して調べてもらった。
もしかすると誘拐されてエトワール王国にいる変態貴族に売られたのかもしれないと思ったからだ。
そういえば、テオを囲っていたあの変態貴族はどうしたのだろうか? あの後、オーロ皇帝が帝国で処罰すると連れて行ったが……まぁ、今はあの変態貴族のことはどうでもいいか。
調べた結果、テオは誘拐されたのではなく、ハンスギア王国の正妃の指示によってエトワール王国の貴族に売られたことが分かった。
本当は私の祖父である変態に売られる予定だったようなのだが、エトワール王国の国土に入ったところであの変態貴族がテオに一目惚れして、高額で買い取ったそうだ。
元々それほど裕福でもなかった家柄にも関わらず、テオを買うために借金までしたそうで、それにより一層、貴族としての生活は厳しくなったようだ。
ハンスギア王国の正妃としては邪魔な庶子が処分できればよかったのだろうし、商人としては城に入るための面倒な手続きがなくなってよかったのかもしれない。
そうしてテオは変態貴族に買い取られてしまったのだ。
その後、私の存在が公表され、帝国傘下に入り、帝国法が施行された。
変態貴族はオーロ皇帝の言葉通りに一旦はテオを外に出しはしたが、テオが自分のところに帰ってこないことに気を揉んで、自分で保護施設まで迎えに来たところで私とオーロ皇帝に会うことになった。
そして、テオはその後ずっと情報ギルドが運営する保護施設にいた。
もしかすると、ゲームの中では、ハンスギア王国の者は変態貴族の屋敷にテオを迎えに行ったのだろうか?
しかし、私がカルロを守るために行動した結果、この世界ではテオは変態貴族の屋敷から出て、保護施設に入ってしまった。
保護施設は守られていたし、ハンスギア帝国の密偵なりが近づこうとしても情報ギルドの邪魔が入っただろう。
さらに、この保護施設には私とオーロ皇帝の後ろ盾がある。
私はともかくとして、オーロ皇帝の目につくようなことはできなかっただろう。
ゲームでは魔法学園入学前にテオをハンスギア王国に連れ戻して王族の籍に戻すことができたのかもしれないが、それができなかったために今になって声をかけてきたということだろうか。
「ハンスギア王国の人々がどのような要件で私に会いに来るのかはわかっていないけれど、テオを連れ戻すことが目的の可能性があります。実際にそのような提案があった場合にはテオはどうしたいですか?」
私はハンスギア王国の使者に会う前にテオの意思を確認した。
「僕はリヒト様とカルロ様のお役に立ちたくてこれまで頑張ってきたのですから、そんなところには行きません!」
テオはそうはっきりと答えた。
「ちなみにテオはこの国来た頃のことを覚えていますか?」
「はい。何ヶ月もかけて旅をしてきましたから覚えています」
「そうですか……辛かったですね」
たとえ妾の子であっても王族だ。
きっとずっと、城の中で生活していただろうに、テオを守ってくれていたであろう母親が亡くなってひと月もしないうちに正妃によって城から出されたようだ。
それまで生活していた場所、それも母親との思い出がある場所から急に離されて、数ヶ月の旅の末に見知らぬ土地に来て、知らない貴族に売られたのだ。
幼子にとって、ひどく不安で、恐ろしい日々だったのではないだろうか?
しかし、私の慰めの言葉にテオは「いいえ」と首を横に振った。
「今はリヒト様とカルロ様と一緒なので辛くありません!」
私は今のことを言ったわけではない。
しかし、それはきっとテオもわかっていて、過去に囚われることなく強く前に進んでいるのだろう。
「わかった。それじゃ、ハンスギアの人たちにテオを渡せと言われても断るよ」
「はい」とテオが少し緊張した面持ちで言った。
私はそんなテオの頭を撫でた。
「大丈夫。私とカルロがちゃんと守るから安心して」
「ね? カルロ」とカルロを見れば、カルロは闘志を燃やした眼差しをしていた。
「テオは僕の弟子ですから、弟子に手を出す者は消します!」
「カルロは弟子思いだね」
「リヒト様、国際問題になりますよ」
ヘンリックに注意されてしまったが、しかし、私のカルロが消したいと言うのなら仕方ないと思う。
実際、テオに害をなした者も、テオを守ってくれなかった者も、不要だろう。
『魔法書の創り手 〜 落ちこぼれ無属性の僕のまわりが最強すぎる件 〜』
https://ncode.syosetu.com/n0404ki/
「公爵家の恥晒し」と家を追い出された無属性のエノクは魔法が使えない。
エノクは魔法を学ぶ特権を持った貴族以外の人々のために魔法書を作ることにした。
森の小屋でひっそりと魔法書を作っていくつもりだったのだが、暗殺から逃れてきた王子のオスカーと出会ったことにより、エノクの思い描いていた目立たない生活からはかけ離れていく。
孤独な世捨て人だったはずのエノクの周囲は、いつの間にか賑やかになっていて……
アルファポリスにて先行更新しております。
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