【番外編】エイプリルフール(カルロ視点)
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「今日は嘘をついてもいい日らしいですよ」
ヘンリックがそんなことを言った。
「嘘をついてもいい日?」
テオが小首を傾げている。
「そんな日があるわけがないでしょう?」
みんなが嘘をつく日なんてややこしいし、誰かを操るためには本当なのか嘘なのかと考える隙は与えない方がいいため、そんな日はない方がいい。
「リヒト様が話していたと魔塔主が言っていました」
「リヒト様が?」
前回のチョコレートを配る日もそうだが、おそらくリヒト様が魔塔主に話しているのは、リヒト様の前世の世界の話なのだろう。
「……」
僕にも話してくれればいいのに、僕にはなんだか遠慮しているのか、前の世界のことは全然話してくれない。
魔塔主には話すのに、どうして僕には話してくれないのだろう?
婚約者は僕なのに。
生徒会室の扉が開いてリヒト様がライオスとザハールハイドと一緒に部屋に入ってきた。
「リヒト様、僕……」
テオが子犬みたいにぷるぷる震えながら言った。
「僕、もうリヒト様に魔法を教わりたくありません!」
いつものテオなら絶対に言わない言葉にライオスとザハールハイドが困惑した表情になる。
リヒト様は眉尻を下げて寂しそうだ。
「私はテオに嫌われるようなことをしてしまったのだろうか?」
「違います! 今日は嘘をついてもいい日だと聞きました!」
「嘘……魔塔主に聞いたのですか?」
「私が魔塔主から聞いて、テオに教えたのです」
「そうですか。他の生徒たちには教えてはいけませんよ?」
「申し訳ございません」
本当にリヒト様の前の世界には嘘をついてもいい日があったみたいだ。
でも、リヒト様はそんな日でも嘘をつくことなく清廉潔白だったような気がする。
僕とは違って。
「テオ。今度、一緒に魔法の練習をしましょうね」
「はい!」
テオが嬉しそうに返事をした。
そうか、嘘をついてもいい日には、普段伝え辛い気持ちを反対の言葉で伝えることもできるのか……
「リヒト様。僕、リヒト様が……」
「カルロ。カルロは嘘を言ってはダメだよ」
その夜、リヒト様の寝室で嘘をついてみようとした僕にリヒト様が言った。
「どうしてですか?」
「嘘でも、カルロから嫌いなんて言われたら悲しいから」
「そんなこと言いません!」
僕だって、嘘でもリヒト様に嫌いなんて言うことはできない。
「では、何を言おうとしたのですか?」
リヒト様が不思議そうに首を傾げる。
僕は思い切って言えない願いをリヒト様に言った。
「僕はリヒト様がエトワール王国の太陽になることを願っています」
この嘘をリヒト様は見破ってしまうだろうか?
それとも、嘘を禁じられた後に言った言葉は、真実として受け止められてしまうのだろうか?
私の言葉にリヒト様は微笑む。
「ありがとう」
清廉潔白なリヒト様に僕の狭量を知られなくてよかったような、本心を知ってほしかったような複雑な思いになる。
そんな気持ちを隠して微笑むと、リヒト様が僕の手を握った。
「私の弟か妹ができたら、その子が王位を継げるように教育しよう。そうしたら、私がカルロの元に嫁げばいいものね」
僕は胸が熱くなって、リヒト様の手を握り返した。
「リヒト様が僕だけの星ならいいのにと願う狭量な僕を許してくれるのですか?」
「許すも何も、私もそう願っているから」
思いが高まってリヒト様にキスをしようとすると、リヒト様の両手が僕の口を塞いだ。
二人同じ思いでいるのにどうしてなのか、間近でじっと美しいリヒト様の顔を見つめると、その頬が赤く染まる。
「カルロ、人がいるところではちょっと……」
「護衛のことを気にしていては何もできないではないですか?」
「私はカルロからリヒト様を守るための護衛でもあるからね?」
ヘンリックが僕を羽交い締めにしてリヒト様から引き離した。
そのまま従者の部屋に放り込まれてしまったのは不満だが、それでも今夜はいい夢が見れそうだ。