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245 誕生日パーティー 02

お読みいただきありがとうございます。


「魔法学園の閉校後もしばらくリヒト王子のお姿を城で見ることはできませんでしたが、体調を崩されていたのでしょうか?」


 パーティー終盤にそう声をかけてきた者がいた。

 どうやら、我が国の貴族のようだ。

 声をかけてきた男の衣服を目で探り、貴族の家紋を探す


 私はエトワール王国の全ての貴族の名前と家紋を覚えている。

 幼い頃より授業で各家紋の家柄の特徴含めて教えられてきたからだ。

 

 カフスに家紋を見つけて、頭の中で検索する。


 高齢の当主が寝込んでいたためにしばらくパーティーに参加していなかった中級貴族の家紋だ。

 跡取りがいる貴族は自身が高齢になり体調を崩す前に後継者に当主の座を譲るものだが、長男は賭け事が好きで、次男は女好き、三男は気弱な引きこもりで当主の座を誰に譲るか決めあぐねていたはず。


 ちなみに、この情報は情報ギルドが持ってきてくれた。

 そんな家の長男に近づき、私についての情報を得ようとしている人物がいるという情報だった。


「エトワール王国の貴族一同、心配していたのですよ」


 中級貴族の男がまるで貴族代表みたいな言葉をヘラヘラとしながら言う。

 それに対して周囲の貴族たちは不満を表し、男を睨みつけているが、すでに極度の緊張状態にある男が気づくことはないようだ。


 ヘンリックが眉尻を吊り上げて私の前に出ようとしたのを私は手を上げて制す。


「まずは名乗るのが礼儀ではないですか? フォート伯爵のご嫡男」


 元々顔色の良くなかった男だが、私に家紋を言い当てられてさらにその顔を青くした。


「も、申し訳ございません。リヒト様……」

「ご当主はどうされましたか?」

「父は伏せっております。私は父の代理で……」

「代理は、当主であるお父様に任じられて来られたのですか?」


「それとも」と私は作り笑顔のまま声量を下げた。


「お金を融通してくれるという者にでも、王族をたばかれと指示されましたか?」

「あ……」


 男の顔はますます青くなり、その体は震え出す。


「まぁ、それはさしたる問題ではありません」


 私は一転、明るい声を出した。


「あなたは私が健康かどうかを心配してくださったのでしょう? それならば閉校後にしばらく私がルシエンテ帝国にいた成果を見せてさしあげましょう」


 私がヘンリックに手のひらを向ければ、ヘンリックは自分の腰にあった剣を渡してくれた。

 パーティーの間は会場に配備された騎士たちしか剣や武器の類は所持できないため、私は剣を持っていない。


「それならば、私が相手をしよう」


 男とのやり取りを見ていたらしいラルスがそう名乗り出てくれた。

 ラルスは私たちを囲んでいた来賓客に聞こえる声で言った。


「魔法学園が閉校した後は私がリヒト王子を独占していたのだ。エトワール王国の貴族たちに心配をかけてしまったようで、すまなかったな。私は剣術が得意ではなくてな。剣も得意だというリヒト王子に剣の稽古の相手をしてもらっていたのだ」


 ルシエンテ帝国の皇太子の言葉に、エトワール王国の貴族たちは満足そうだ。

 目の前で震えている男以外は。


 ラルスが相手では真剣を使うわけにはいかないため、私はヘンリックに剣を返した。

 気の利く第一補佐官がすぐに模造剣を用意してくれ、私とラルスは来賓客の前で剣舞を披露することになった。


 私としてはちょっと男を脅すだけのつもりだったのだが、会場の真ん中で来賓客に囲まれて剣舞を行うことになってしまった。


 一見、余裕のある微笑みを見せているラルスだが、その内面ではおそらく滝のような汗を流しているのではないだろうか?


 ラルスがルシエンテ帝国の剣技を一通りできるようになったのは最近だ。

 しかも、騎士団長からは合格をもらっていない。


「ラルス様、基本の型は覚えていますね?」


 私はラルスに小声で聞いた。

「ああ」となんとか微笑みを保っているラルスが小声で答える。


「では、最初は私がリハビリをしていた速度でゆっくりと始めましょう。基本の型の繰り返しを、徐々に速度を上げて行いますからついてきてください」

「わかった」


 私とラルスは向かい合い、対となるように基本の型を使った剣舞を披露した。


 武芸を嗜む貴族や騎士たちにはラルスの「剣術が得意でない」という言葉が真実だとわかってしまったかもしれないが、一般的な貴族たちにはラルスの言葉は偽りのように思えただろう。


 しばらく剣舞を披露していた私だったが、フォート伯爵の嫡男が私の背後になるような立ち位置になった時にわざとラルスの剣に剣を合わせて、剣が弾き飛ばされたように見えるように演出した。


 そして、弾き飛ばされた剣が男の顔の横を通るように、風魔法で調整する。


「ヒィッ!!」


 男は短い悲鳴をあげて尻餅をついた。


「ラルス皇太子殿下、私の鍛錬が足りず、申し訳ございません」


 私は男に視線を向けることもなくラルスに謝罪した。

 ラルスには型通りに動くことだけに集中してもらうために、剣を弾き飛ばして欲しいとは伝えていなかったが、さすがは皇太子、動揺を見せることなく瞬時に爽やかな笑顔を作ってくれた。


 周囲は皇太子を讃えて拍手を送る。

 ラルスは彼らに軽く手を上げて応え、それからフォート伯爵の嫡男に爽やかな微笑みのまま視線を向けた。


「其方もリヒト王子に剣の相手をしてもらってはどうだ? 己の愚かさがよく理解できると思うぞ?」


 ルシエンテ帝国の皇太子に声をかけられた男だったが、無礼にも立ち上がることもせずに尻餅をついたまま青い顔で震えていた。


 そんな無様な状態の男が何か言う前に、一際大きな拍手が響いた。


「二人とも見事だった!」


 そう大きな声で讃えてくれたのはオーロ皇帝だ。

 皇帝は来賓客を見渡してニヤリと笑った。


「この小物に駄賃をくれてやった者は模造剣ではすまないだろう」


 意味深な言葉で、来賓客の全てを怯えさせるのはやめてほしい。






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