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244 誕生日パーティー 01

お読みいただきありがとうございます。


「リヒト様、お誕生日おめでとうございます」


 誕生日当日、魔法学園の多くの生徒たちが誕生日パーティーに来てくれた。


「お体の具合は大丈夫ですか?」


 心配してくれる面々に私はお礼を言った。


 複数国の生徒たちの親が子どもたちと一緒にパーティーに参加することを希望し、エトワール王国はそれを受け入れたわけだが……

 王子王女たちの親、それはつまり、各国の王様やお妃様なわけで……


 まさか、入学式に引き続き、エトワール王国で他国の王族を招いてのパーティーが行われるとは思わなかった。


「ノア様、プルポの討伐が中途半端になってしまい申し訳ございません。その後、プルポによる被害などはありませんか?」


 セールア王国のノアに会ったら聞かねばならないと思っていたことを聞くと、ノアはその目を少し見開いてぱちぱちと目を瞬いた。


「聞いておられないのですか?」

「何をですか?」


 私が首を傾げると、ノアは私の後ろに立つカルロに視線を向けた。


「プルポはカルロが討伐してくれました」

「え?」


 私がカルロに視線を向けると、カルロは少しバツの悪そうな顔をして視線を逸らした。


「カルロが一人で討伐したのですか?」

「ええ、まぁ……」

「どうやって?」

「海の表面には影はありませんでしたが、海の中に影を見つけましたので……」


 つまり、カルロは海の底の暗闇を使ったということだろうか?

 海の底の影まで操れるとなるともはやそれは無敵なのではないだろうか?


「どうしてそんなすごいことを教えてくれなかったのですか?」

「それは、プルポ討伐成功であると同時にリヒト様以外の同級生を全て飲み込むという大事件でもあるからです」


 いつの間にか近くに来ていた魔塔主が囁くように教えてくれた。

 私はその言葉にギョッとした。

 カルロの影の中に二年生の生徒たちを全員取り込んでしまったというのは確かに大事件だ。


「しかも、気を失ったリヒト様に動転して、数時間、生徒たちを出すこともせずにただオロオロしていましたからね」

「どうしてそのようなことがあったと、すぐに報告してくれなかったのですか!?」


 大きな声で話すことのできない内容のため、私は小声で魔塔主に詰め寄った。


「病み上がりのリヒト様に報告をすれば、自身の健康を顧みずに謝罪のために徹夜で手紙をしたためることも厭わなかったでしょう」

「それはそうですよ!」


「だからです」と、魔塔主に微笑まれればもう何も言えない。

 みんな、私のために何も言わずにいてくれたということなのだろう。


 ノアたちも謝罪はカルロ本人からしてもらったし、私が無理をすることは望まないと言ってくれた。


「カルロ、もうそのようなことをしてはダメですよ?」

「はい」


 カルロもしょんぼりしているし、反省をしているのだろう。


「皆さんも、私の婚約者のカルロまでご迷惑をおかけしていてすみません」

「影の中にいた時の記憶はないですし……むしろ、なんだか熟睡した時のようにスッキリしていましたから大丈夫ですよ」


 グアラ王国のアラステアの言葉に他の生徒たちも頷いている。


 カルロが触手で罪人を捕まえて影から取り出した時には彼らはかなりぐったりしていたが、影の中に入れた相手によって違う状況を作り出すことができるということだろうか?


「カルロは優秀ですね」


 思わずそう溢すと、魔塔主とヘンリック、それからナタリアに呆れたような眼差しを向けられた。


「リヒト様はカルロに甘すぎます」


 魔塔主に苦言をもらってしまった。

 確かに、大事件を起こしたカルロに、被害者のみんなの前で言うべき言葉ではなかっただろう。


「すみません」


 私は素直に謝った。


「事件の主犯を褒めるなら、カルロが起こした事件を口外しないようにクラス委員長としてクラスをまとめたわたくしの功績も認めてくださいますか?」


「もちろんです」とナタリアの言葉に私は頷いた。




 その後はみんなと立食パーティーを楽しみながら、他愛もない話をしたり、魔法の話をしたりした。


 一年生も招いていたが、二年生のガードがあるためか挨拶程度で長話をしていく者はいなかった。

 生徒と一緒に挨拶にくる王様やお妃様もいたが、彼らが少しでも長話をしようとすれば魔塔主が睨みを効かせるために、早々に立ち去ってくれた。


 そうした親たちの中にはお礼を言う人々もいた。


「招待状の中でこの子の成長を褒めてくださいましたでしょう? とても嬉しかったみたいで、次の開校の時にはもっとすごい魔法が使えるようになっておきたいって勉強を頑張っているのですよ」


 アニーア王国の女王がそう優美に微笑んだ。

 ルシエンテ帝国傘下の国で女王が治める国はこの国だけだ。


 女王は愛娘のシャナ王女の背中にそっと手を添えて、子供の成長を嬉しそうに、愛おしそうに優しい眼差しを向けている。

 シャナ王女も嬉しそうだ。


「シャナ王女は入学当初よりもずっと魔法が上達しました。それはシャナ王女の勤勉さと努力の成果であり、私は事実を書いただけです」

「リヒト様は二年生ですのに、一年生のこともよく見てくださっていますのね」

「私にとっては可愛い後輩ですから当然です」


 後輩の成長を見るのは楽しいものなのだ。


 ふふふっとアニーア王国の女王は笑った。


「リヒト様がおモテになる理由がわかりましたわ」

「魔塔主とオーロ皇帝にはよくしてもらっていますからね」


 外行き顔でそう微笑んだ。

 実際のところは魔塔主の実験台にされ、オーロ皇帝には揶揄われているだけなのだが。


「鈍いところも魅力のひとつかもしれませんわね」


 アニーア王国の女王には初めて会ったのに、どうして私がカルロとナタリアの気持ちに気づかなかったことを知られているのだろうか?


 どこかから、私が鈍いという風評被害が垂れ流しになっているのだろうか?

 カルロやナタリアはそんなことしないはずだし、クラスメイトたちだって帝国の姫であるナタリアのそんな噂は流したりしないだろう。


 一体、どこから私が鈍いなんていう話が漏れているのだろうか……

 もしや、学園に各国のスパイが入っているのだろうか?

 その可能性はあるが、そうした者たちを魔塔の魔法使いたちが見逃すとも思えないのだが?


 私の誕生日の式典が一通り終わったら、調べてみた方がいいかもしれない。






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