243 リハビリ期間 03
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「ラルスがいて役に立っただろう?」
オーロ皇帝に夕食に誘われて食堂へ行けば、そのように言われた。
「其方を一人だけリハビリさせていては体の限界を超えても、精神の限界を超えても続けそうだったからな」
「「オーロ皇帝のお気遣いに感謝します」」
カルロとヘンリックがお礼を言った。
「二人から礼を言われるとは思わなかった。リヒト、其方、余程無理をしているようだな」
「私としては別段無理をしているつもりはないのですが……」
「其方の従者二人の顔を見ているととてもそうとは思えんが?」
体力作りといえばジョギングだよねと思ってリハビリの初日に走ろうとしたり、腕立て伏せや腹筋運動を100回しようとしたり、騎士団長に訓練はまだ早いと断られたにも関わらず素振りをしようとしたり……そういうところだろうか?
「リヒト様のことですから、早急に体力も筋力も戻そうと思われたのでしょうけれど、無理をすれば周囲の者は心配しますからその点も考慮してくださいませ」
ナタリアにも注意されてしまった。
「大丈夫だ。リヒト王子のリハビリには私が同行するからな!」
なぜかラルスがキリッとして言う。
「叔父様はもうちょっと鍛えたほうがいいと思いますわ」
「ラルスが根を上げた頃にリヒトのリハビリを止める必要はあるが、ラルスは別メニューで訓練時間を延ばした方がよかろう」
ナタリアとオーロ皇帝の言葉にラルスが震えている。
「ラルス様も筋力はそれほどついていませんから、急に訓練時間を長くするのは無理ではないでしょうか?」
ラルスの体力では暗殺者を撃退するどころか逃げるのさえも危ういため、私もラルスはもうちょっと鍛えておいた方がいいとは思うものの、無理やりやらせても身につかないだろう。
私はラルスににこりと微笑む。
「ラルス様、私と一緒に頑張りましょう」
「リヒト王子!」
それに、ラルスを鍛える目的に合わせて、私の訓練時間も増やしてもらえるよな? という私の密やかな目的を知らずにラルスは感激している。
それから私は毎日ルシエンテ帝国に通って騎士団のリハビリを受けるようになった。
「もう、無理〜!」
まだ木剣を持つことを許されない私と違って木剣を持って素振りをしていたラルスが早くも根を上げた。
私はルシエンテ帝国の剣技の動きを覚えて自然に動けるようになってきたところのため、もう3時間くらいはやりたいのだが……
「ラルス様、あと30分、一緒に頑張りましょうか」
ラルスの顔は青くなり、カルロとヘンリックの表情が険しくなった。
「「リヒト様!」」
「私も少しずつ筋力が戻ってきただろう?」
筋力の落ちた私の体を支えて毎日入浴の手伝いをしてくれる二人が一番知っているはずだ。
「「それはそうですが……」」
私たちの様子に騎士団長が苦笑し、「失礼します」と私の腕や腿に触れて筋力量を確認した。
「あと30分というわけにはいきませんが、10分程度ならいいでしょう」
10分だけ伸ばすと5分とかに縮められそうだと思って最初に大きな数字を言うことにしていたのだが正解だった。
騎士団長から許可を得たので、貴重な10分を先ほどよりも集中してリハビリに使った。
ゆっくりと流れるように、剣舞を舞うように、教えられた型を丁寧に辿る。
「リヒト、リハビリは順調か?」
リハビリの後にオーロ皇帝と一緒に夕食を摂るところまでがルシエンテ帝国でのスケジュールのようだ。
「はい。おかげさまで着実に体力も筋肉も戻ってきています」
体を動かした後の食事は美味しい。
「……心なしか、ラルスもしっかりとした体格になってきているような気がするのだが?」
「ラルス様も頑張っておられますから」
「騎士団長からリヒトがなかなかのスパルタだと聞いているが?」
「そんなまさか。私はただ、ラルス様と一緒に騎士団長から与えられるノルマをこなしているだけですよ」
ラルスが少し怯えた目で私を見る。
どうしてそんな目で私を見るのだろうか?
ラルスが根を上げた後にほんの少しだけ訓練時間を延ばした方が、ラルスはしっかりと体を鍛えることができ、私は十分なリハビリができるのだ。
win-winな素晴らしい関係性だと思うのだが?