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240 禁止令

お読みいただきありがとうございます。


「……え?」


 ふたつき? ふた月???


「全く、どうして誰も大切なことをお伝えしていないのですか?」

「リヒトがショックを受けるかと思って……」


 宰相に睨まれた父上が溢すように言った。


「ショックを受けたとしてもお伝えする必要があることではないですか!」


 乳母も父上を叱るような口調で言った。

 母上も一緒にしょんぼりとはしているものの、乳母が母上を注意しているところはこれまで見たことはない。

 乳母は母上の親友だったようだから、おそらく贔屓してしまっているのだろうが、それよりも父上のやらかしが目立つので仕方のないような気もする。


 そんな宰相や乳母の言葉をなんとなく聞きながら、私はこのふた月ですべきだった事柄を考えていく。

 ふた月も寝ていたということは、ひと月前には魔法学園は閉校しているはずだ。


 そもそも、私以外に海に落ちたり、怪我をした者はいなかったのだろうか?


 魔法学園の生徒たちのフォローはどうなっているのだろうか?

 学習や訓練の進捗に遅れが出ている生徒はいなかっただろうか?

 二年生はともかく、一年生はまだまだそうした細かいフォローが必要だっただろうが、そのあたりは誰か気にかけてくれていたのだろうか?


 魔塔主は絶対にしないし、ハバルがしてくれていたらいいのだが……

 生徒の代表である私がふた月も倒れてしまったことを各国に詫びなければいけないだろう。


 閉校するまでの事務処理はきちんと正常につつがなく行われたのだろうか?

 魔塔の教師たちへの支払いは?

 オーロ皇帝から依頼のあった魔物討伐はどうなったのだろうか?


 意識のなかったふた月の間にすべきことが頭の中に押し寄せてくる。

 こんなベッドの上で考えていても何も解決しない。


「すぐに仕事を!」

「リヒト様のお仕事は健康を取り戻すことです!」


 魔塔主により腰に装着されていた筋力強化の魔導具に魔力を流し込んでベッドから出ようとしたのだが、カルロに抱きつかれて止められ、第一補佐官にも止められた。


「しかし、ふた月も寝ていては仕事が滞っているのではないですか?」

「リヒト様は我々が無能だと思いますか?」

「いえ、そのようなことは決して思いません」

「しなければいけない業務はきちんとしています。リヒト様はまずはご自身が健康を取り戻すことを考えてください」


 第一補佐官の諭すような言葉に「しかし……」と言い淀めば、乳母がそばに来て視線を合わせた。


「いまの弱っているお体のままリヒト様がすぐにでもお仕事をされると仰るのならば、心配をするような情報を与えてしまったわたくしと宰相の責任ですから、わたくしたちは辞職しますわ」


 乳母の言葉に私は慌てた。

 宰相がいなければこの国は正常に機能しないだろうし、乳母がいなければ城内の仕事が滞るだろう。


「どうしてそのようなことになるのですか!?」

「リヒト様には事実をしっかりとお伝えすべきだと考えていた我々が間違っていたからです」

「わかりました! 働きません! 一切の仕事をしません!」


 勢いで仕事をしない宣言をしてしまったが、この時の私はやはり疲れていたのかもしれない。

 魔法学園のことを含めて、気になることが多すぎる。

 まったく仕事をしないというのは難しすぎるのではないだろうか?




 仕事ではなく、まずは衰えてしまった筋力を取り戻すためにリハビリをすることから始めたわけだが、その間にフェリックスとライオス、そしてザハールハイドが見舞いに来てくれた。


 フェリックスの勉強を見てくれたライオスとザハールハイドは、その後も飛行魔導具に必要な魔法や魔法陣を教えたり、素材を提案したりしているそうだ。

 なんとも面倒見のいい二人に私からもお礼を伝えた。


「リヒト様がお目覚めになられて本当によかったです」


 よほど心配してくれていたようで、ザハールハイドが涙目で言った。


「リヒト様に何かあったら魔法学園の存続が怪しいですから、気をつけてください」


 ライオスは相変わらずで安心した。


 しかし、どういうわけかいつも元気なフェリックスには元気がなく、どうしたのかと声を掛ければその目に涙が溜まった。


「俺が作った飛行魔導具のせいでリヒトが海に落ちたって……」


 誰がそんな誤解をするような説明をしたのかとライオスとザハールハイドを見たが、二人はブンブンと首を横に振っている。

 どうやら、誰もそんな言い方はしていないが、勝手に責任を重く受け止めて落ち込んでいるらしい。


「だから、飛行魔導具から高魔力砲を打てるようにしようと思って今研究してるから、今後はこんなことがないように……」

「いや待って! それは兵器だから!」


 フェリックスの言葉に私は驚いて、慌ててフェリックスの言葉を止める。

「へい、き?」と、フェリックスは首を傾げた。


 元々非常に純粋なフェリックスは自分が何を作ろうとしているのか理解していないようだ。

 飛行魔導具の防御力を高めようとしてるくらいの発想なのだろう。


「フェリックスは鳥のように飛ぶことを目標に飛行魔導具を作っていただろう?」


 フェリックスはこくりと頷いた。


「でも、その飛行魔導具に高性能な攻撃ができるような機能をつけてしまったら、それはもう生物を殺すための兵器になってしまうからダメだ!!」

「生物を殺す……でも、魔物は殺さないと、またリヒトが危険な目に遭うだろう?」

「いいか、フェリックス? もしも、前のエラーレ王みたいな人が、その飛行魔導具を手に入れたらどうすると思う?」

「……オルニスを攻撃する」

「だろう? フェリックスはそんなことは望んでいないだろう?」


 フェリックスはこくりと再び頷いた。


「そうだな……もしも、飛行魔導具が空中で故障した場合には、ゆっくりと地上に降りられるような装置をつけたらどうかな?」


 私はパラシュートの絵を描いたものをフェリックスに渡した。

 代替案を出しておかないと、またおかしな方向に走りそうだから。


 パラシュートの絵を見たフェリックスはやる気を取り戻したようで、元気にティニ領地に戻って行った。

 そういえば、フェリックスはいつまでこの国にいるのだろうか?


「リヒト様、お仕事はダメですよ?」


 フェリックスたち3人が帰ると、カルロが少し怒っているような表情で見てきた。


「仕事はしてないよ? ちょっと考え事をしていただけだよ」

「難しいことを考えるのもダメです」

「難しいことは考えてないよ」


 ちょっとフェリックスを本来の居場所に戻す計画を考えていただけだ。

 カルロがグイッと身を乗り出してきて顔を近づけてきた。


「僕のことだけを考えてください」

「カルロのことならいつも考えてるよ」


 にこりと微笑めば、カルロがその顔を赤くして、「うぅ……」と呻いた。

 すっかり格好いい姿に成長してしまったが、こういうところは可愛い。

 格好いいのに可愛いとか、私の婚約者は最高だと思う。


「カルロ、そこであなたが照れてどうするのですか?」


 ヘンリックが呆れたようにため息をついた。






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