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237 皇帝の判断(ネグロ視点)

お読みいただきありがとうございます。


 前世のリヒト様と会ったことがないにも関わらず、リヒト様の亡くなった時期を知っている様子だという男を怪しんだオーロ様は私に男を調べるように命じられました。

 私は情報収集部隊の部下たちに命じてドレック・ルーヴについての調査を行いました。


 現在のことだけではなく、生家や幼少期について、親族について、周囲の男への印象、実際の男の行動や商会について。


 あらゆることを調べた結果、13年ほど前まではドレック・ルーヴは兄同様に碌に仕事もせずにただ家の財産を貪るだけの人間だったようです。

 さらに、幼児性愛者で、元ルーヴ領の者たちから領主へと送られた子供たちの中から見目のいい子供はドレック・ルーヴが側においていたということです。


 そんなドレック・ルーヴは13年ほど前に唐突に変わった。

 それこそ、別人になったように仕事をし始め、子供たちへの興味をなくし、商会を立ち上げて貴族の子供向けの商品を開発して売り出したのだそうです。


 それまで側においていた子供たちはおもちゃを作る工場で働かせて生活できるだけの賃金を支払うようになったということでした。

 それは子供たちへの慈悲ではなく、おそらく労働者として安く使うことができるからでしょう。


 その証拠に、ドレック・ルーヴは子供たちに商品を作る以外の教育はしていません。

 読み書きや計算を教えてしまうと、情報を得ることができますし、他の職を手にすることも容易ですから。


 そうしたドレック・ルーヴの人柄や事業展開の仕方などを含めてオーロ様に報告すると、非常に不愉快そうに報告を聞いておられました。


 オーロ様にとっては国を支える国民を蔑ろにする貴族はゴミも同然です。

 いくら商売をする才能を持っていても、労働者に十分に還元して国民を豊かにし、国を豊かにしないのであればそのような商会は不要だと考えるのがオーロ様です。


「ドレック・ルーヴがいなくとも帝国は問題あるまい」


 そして、オーロ様が男の処遇を決めた頃、リヒト様が海に落ちて意識不明という連絡が入りました。

 オーロ様は珍しく動揺したお姿をお見せになりましたが、それも一瞬で収められ、私に次の命令をされました。


「今のうちにドレック・ルーヴを処分する」


 調査報告の結果、オーロ様はドレック・ルーヴをこれ以上リヒト様のお側には置かないということを決められました。


 私は外には漏れないようにドレック・ルーヴを捕獲するように部下に命じました。

 リヒト様の直属の部下であるエトワール王国の情報ギルドにドレック・ルーヴを呼び出してもらえば問題はないでしょう。


 情報ギルドのことを周囲に言いふらすようなことがあればその後一切情報ギルドを利用することはできなくなるということは知っているはずですから、ドレック・ルーヴは適当な言い訳をして外出するはずです。


 おそらくリヒト様にご迷惑をおかけすることもないでしょう。


 そうして呼び寄せたドレック・ルーヴを回収して、ルシエンテ帝国の地下牢へと収監します。

 きつけ薬で起こした男は周囲を見渡し、自分の置かれた状況に薄く笑いました。


「お前がドレック・ルーヴか」

「……まさか、商談相手が皇帝だとは思いませんでした」


 オーロ様の姿絵は広く出回っていますから、男がオーロ様の姿を知っていても不思議はありません。


「それで、どのような品をお求めですか? ナタリア様へのプレゼントでしょうか?」


 地下牢で拘束されている状態にも関わらず、男は飄々とした態度でそう言いました。


「地下牢に入れられているにも関わらずそのような態度が取れるとは、豪胆だな」

「私の長所ですから」


 オーロ様への過ぎた態度は豪胆というよりも傲慢さの表れのような気がします。


「お求めになっているのは前世のリヒト様の情報でしょうか?」


 オーロ様の眉尻がぴくりと動きました。


「随分と高そうだな」

「皇帝にでしたらお安くしておきますよ」


 オーロ様がクックックッと笑い声を漏らされました。


「商売は上手くとも人を見る目はなさそうだ」

「お得意様になってくださる方を見つけるのは上手いと自負しております」

「私がお前を呼んだのは何かを欲してのことではなく、与えてやるためだ」

「何か褒美をいただけるのでしょうか?」


「ああ」と、オーロ様は腰の剣を引き抜き、横一線に薙ぎました。


 想定していた展開とは違ったために、私は思わず余計な言葉を発してしまいました。


「リヒト様の前世について男が知っている情報を確認するものと思っておりました」


 なぜ、男が前世のリヒト様が亡くなった頃合いを知っていたのかなど、怪しい点を尋問するものと思っていたのですが、男に待っていたのは少しの猶予も許されない死でした。


「それを聞いてどうする? 結末は決まっておったのに」


 ドワーフ製の一級品の剣には一滴の血もついていません。


 前世で男が何をしていようとも、現在はルシエンテ帝国のためにならず、さらにリヒト様の邪魔になるという判断は変わりません。

 それならば、尋問するだけ時間の無駄ということでしょう。

 オーロ様は合理的な方です。







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― 新着の感想 ―
えっえっ拝読いたしました、え、 ドレックしんだ…びっくり。 でも傲慢さの表れって言葉は的確だなぁ…
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