227 怪しい隣国 04(第四補佐官視点)
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「それでは、オルニスを消しましょう」
久しぶりにリヒト様に城にお戻りいただいて、オルニスの首長代理を含めて話し合いを行った結果、リヒト様は穏やかに微笑んでそうおっしゃられた。
ちなみに、王はまだ執務が残っているからと執務室に軟禁状態である。
久しぶりのリヒト様との対面が一瞬だったため、今頃はきっと泣きながら執務をこなしていることだろう。
王の代わりに王妃が会合に出席しているが、リヒト様のお姿を見つめて満足そうにされている。
我が国の実際の権力図は、王妃、宰相、第一補佐官、王の順だと思う。
リヒト様を加えるとさらに王の順位は下がる。
リヒト様の言葉にオルニスの首長代理と補佐役は固まり、第一補佐官と私は困惑に目を瞬く。
相変わらず当然の顔をしてリヒト様の後ろに護衛騎士と共に控えているカルロは澄ました顔だ。
いつ見ても気に入らない。
「オーロ皇帝からもオルニス国をヴィア王国との国境に置くのは危険ではないかと指摘されていたのですが、わす……忙しくて、連絡が遅くなってしまいました」
今、「忘れていた」と言いかけましたよね?
オーロ皇帝からの指摘を忘れていたのか、オルニス国そのものを忘れていたのかはわかりませんが、どちらにせよ、リヒト様が大物だということでいいでしょうか?
さすがです!!
「リヒト様、オルニス国をどのように消す予定なのでしょうか?」
第一補佐官が我々の疑問を解消するために質問してくれた。
「オルニス国の姿が見えなくなっただけでヴィア王国が諦めるとは思えません。ヴィア王国が動き出した今となっては、オルニス国に対応してもらう方がいいと思います。オルニス国をどこかに追いやったり、抹消したところで問題は解決とはいかないでしょう」
あれ? 私が抱えていた疑問と第一補佐官の疑問にはズレがあったようだ。
というか、第一補佐官、実は結構お腹の中黒いな。
「万が一、オルニス国を追ってティニ領地の内側まで入ってこられた場合には、エトワール王国で対応しなければいけなくなってしまいます」
「しかし、今は盗賊の前に金貨を晒しているような状態ですよね?」
リヒト様がおっしゃられた。
「盗賊じゃなくても、金貨が手に届くところにあったら、純粋な子供でも手を伸ばしてしまうかもしれないですし、貧しい人ならば自分や家族の命を守ために手を出すでしょう。しかし、そこに金貨がなければ罪を犯さなくてもよかったのかもしれません」
「つまり、現状のままでは、我々がヴィア王国の罪を誘発したことになると?」
リヒト様がゆるりと首を横に振られた。
「第一補佐官、これは私の判断ミスですから、第一補佐官やこの国の他の者たちが気に掛けることはありません」
「リヒト、あなたはこの国の王子なのですから、そういうわけにはいきませんよ?」
王妃の指摘にリヒト様は素直に「申し訳ございません」と謝られた。
「私のミスで皆にいらぬ面倒を増やしてしまって申し訳ない」
そうリヒト様は我々にも頭を下げられ、我々は慌てる。
「リヒト様は悪くありません。全てはオルニス国がリヒト様の迷惑も考えずに押しかけてきたのが問題なのですから」
第一補佐官は優しい顔をしているが、やっぱりお腹の中が真っ黒なようだ。
オブラートとか、その真っ黒なブラックホールに捨てているに違いない。
「あの……それで、我々を消すというのは、どういうことなのでしょうか?」
そして、第一補佐官の嫌味を全てスルーするオルニスの首長代理。
エルフは長寿のためか我々人間とは感覚が違うというが、スルースキルが高いのも長寿ゆえなのだろうか?
いや、今は第一補佐官の嫌味よりも、リヒト様の発言が怖すぎたのかもしれない。
恐る恐るとリヒト様に言葉の真意を尋ねた首長代理の顔は少し青い。
「オルニスの人工クリスタルと光属性の魔法で光を全反射させることにより天空都市を消します」
私も第一補佐官もリヒト様が何を仰っているのかわからなかったが、オルニス側の二人は即座に「なるほど!」と何やら納得していた。
「オルニスの魔導工学と魔法の知識を使えばできるはずだと魔塔主もおっしゃっていました。一週間くらいでできるといいのですが、できますか?」
「二、三日中にもできるように頑張ります!!」
オルニス側がすごくやる気を出している。