226 怪しい隣国 03(第四補佐官視点)
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「ヴィア王国の対処はオルニス国だけで充分であり、ヴィント公爵領に近いティニ領地にいれば安全だということです」
そう第一補佐官が正解を教えてくれる。
「ヴィア王国が勝利しようが敗北しようが、愚行を行った後にはエラーレ王国同様に帝国の処罰が待っているでしょう。今、ヴィア王国から離れている貴族や商人としては、安全が確保され、帝国の処罰が終わった後に母国に戻ろうと思えば戻れる距離のティニ領地は最適な位置なんですよ」
第一補佐官に続き、第三補佐官が補足説明してくれた。
「それでは」と、第一補佐官は宰相と国王に向き直った。
「この件に関して、オルニスの首長代理をお呼びしてもよろしいですか?」
「ああ、よろしく頼む」
第一補佐官に返答を返したのは書類を見ながら唸っている国王ではなく、宰相だった。
エトワール王はお人好しではあるが、優秀な王ではない。
優秀さで言えば、お妃様や宰相、それに第一補佐官の方が優秀だろう。
リヒト様に出会う以前は、人の良さだけが取り柄のような王の元に仕えていることが馬鹿馬鹿しいような気もしたが、そんな王を優しい眼差しで見つめるリヒト様のお姿に考えが変わった。
エトワール王がお人好しであり、怠惰ではないから、リヒト様はエトワール王を父親としてお認めになっているような気がした。
そして、エトワール王の成長を見守っておられるような気がしたのだ。
幼い頃から年齢にそぐわない不思議な眼差しを父親に向けておられたリヒト様だが、今でも城にいて、王と接する時には、よく頑張っているなとでもいうような微笑みを王に向けておられる。
リヒト様には人の心根を見抜くお力があるのかもしれない。
そう考えると私はゾッとする。
私は優しくもないし、真面目でもない。
それは自分が一番よくわかっている。
いつか、リヒト様に見限られたらどうしよう……
「第四補佐官、リヒト様のことを考えるのは一旦後にして、オルニスに書簡を送ってください」
第一補佐官の言葉に私は顔をあげた。
「どうしてわかったのですか!?」
「第四補佐官の顔色を変えられるのはリヒト様だけですから」
第一補佐官はにこりと微笑んだ。
「リヒト様は努力する人のことは見捨てませんし、自分の悪い点を直そうと努力する人のことはむしろお好きだと思います」
「すぐにオルニスに書簡を送ります!」
数日後、オルニス国の首長代理が王の執務室を訪れた。
首長代理は来るものの、今まで首長本人を見たことがない。
エトワール王国に身を寄せながら首長本人が来ないというのは失礼だとは思うが、どうやらリヒト様は会ったことがあるようなので、よしとしよう。
「確かに、最近はヴィア王国の騎士たちが森に潜んでいますね」
オルニスの首長代理の言葉に、宰相と第一補佐官の眉間に深い皺が寄った。
「そういうことは早めに報告してもらいたい」
一応、王が対応してはいるがその表情は穏やかだ。
「エラーレ王国ほど面倒ではなかったものですから放置しておりましたが、ヴィア王国の騎士たちがエトワール王国に無断で侵入してくる可能性があるのは問題ですね。そこまで考えが及ばず、申し訳ない」
オルニスの首長代理が素直に頭を下げたことにより、宰相と第一補佐官の気持ちも落ち着いたようだ。
「実は、ヴィア王国の騎士たちよりも、その騎士たちに魔法をぶっ放そうとする女性たちを止める方に苦労しておりまして」
首長代理の補佐役のような立場の男が困ったように眉尻を下げて説明した。
「魔法を放つなど、どうしてそのような選択に?」
「すでに攻撃されるなどの被害があったのですか?」
攻撃が始まっていたのなら流石にそのような報告があるはずなのだが。
「攻撃はまだなかったのですが……」
「彼女たちはまだリヒト様を諦めていないのです」
首長代理と補佐役の二人はため息をついた。
「エトワール王国内に身を寄せる我々を狙ってくるということはエトワール王国への宣戦布告も同然で、そんなヴィア王国を瞬殺すれば実力を認めてリヒト様の目に留まることができるのではないかと考えているようです」
「極端ですね」
「むしろ、リヒト様にご迷惑をかけて距離を置かれる未来しかありませんが?」
「我々もそう思い、止めております。我々は絶対にリヒト様に嫌われたくありませんから」
第一補佐官と宰相の言葉にオルニスの首長代理と補佐役は肩を落としている。
「オルニス国とヴィア王国のやり取りで済む問題ならば問題ないのだが、オルニス国が我が国の国土内にある間は、ささやかなことであっても即刻報告をしてもらいたい」
王の言葉にオルニスの首長代理が少しばかり身を乗り出した。
「先ほどからオルニスを一国として扱ってくださっておりますが、我々はリヒト様の家臣も同然ですので、エトワール王国のオルニス領で問題ございません!」
我が国の王が心なしかその身を引き、それを宰相に密かに諌められた。
「それはこちらに問題がありますので、オルニスはオルニスのまま国家を維持してください」
宰相が作り笑いで返した。
「しかし、すでにリヒト様がおられなければ国家としての維持も難しいですから」
首長代理と補佐役の営業スマイルから大袈裟に言っているだけだということはわかるが、リヒト様の影響力が凄すぎる。
やはり、彼らの中ではリヒト様はエルフ並に長寿ということになっているのだろうか?
大魔法使いでも、元が人間ではエルフほど生きることは難しそうだが。
リヒト様が自分たちよりも短命だと知ったら、エルフの総力を注いだ魔導工学によって、リヒト様型のホムンクルスでも作りそうだ……
私が生きている間に完成したらぜひ購入したい!!




