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223 交渉失敗

お読みいただきありがとうございます。


「魔塔主もその人物に会ったのであろう? 信用できそうな人物か?」


「いえ」と魔塔主は首を横に振った。


「魔王が現れる可能性は否定しませんが、前世のリヒト様が死亡した時期を知っているなど奇妙な点もある人物です」

「どういうことだ?」


 オーロ皇帝の目が厳しく細められる。


「前世のリヒト様は彼と直接会ったことがなく魔導具だけでのやり取りだったそうなのですが、それにも関わらず、彼は前世のリヒト様が死亡した時期を知っているような発言をしていました」

「随分と怪しい人物だな」


 私が思うよりも随分と飽き人くんは魔塔主に危険視されていたようだ。


 私は、前世で自分が死んだ時のことを何も覚えていない。

 だから、私の記憶にないだけで、死ぬ直前に飽き人くんに会っていたのかもしれない程度の認識だったのだが、それもよく考えればおかしな話ではある。

 前世の私は、オフ会になど絶対に行かなかったのだから。


 ふむと、オーロ皇帝は何やら考えていたが、しばらくすると再び口を開いた。


「そういえば、リヒト、今年の魔物討伐の計画はどうなっておる?」


 唐突に話題が変わったことに違和感があったが、私に伝えないということは私にはおそらく関係のないことなのだろう。


「魔法の実践訓練は必要かと思いますが、帝国の魔物討伐の計画に魔法学園の実践訓練を含まないでくださいよ?」

「秋の魔虫の討伐は見事なものであった。帝国の騎士たちを派遣する必要もなく、非常に助かったからな」


 騎士たちを遠くまで派遣すれば帝国の中心部の守りが弱くなるため、あまり騎士たちを派遣したくないのだろうが、魔法学園に通う生徒たちの多くは一国の王子や王女なのだから、魔法学園の学びの一環としてはともかく、あからさまに帝国の騎士の代わりに魔物討伐をさせるというわけにはいかないだろう。


 しかし、オーロ皇帝の様子はすでに魔物討伐の計画に魔法学園の生徒たちを組み込んでいるように見える。

 どうにかして、オーロ皇帝の考えを変えさせなければいけない。


「魔法学園にいるのは優秀な王子や王女たちですから、報酬は高額になりますよ」


 まだ学生なのだからと無報酬のボランティアというのは論外だし、帝国にいる魔法使いたちを集めて魔物討伐に向かわせるような一般的な報酬では彼らの実力と身分を考えればあり得ないだろう。


 オーロ皇帝から見れば帝国内の王国の王子や王女など、自分の部下のさらに下にいるような存在かもしれないが、安く見積もられては困る。


 高額な報酬を支払ってまで学生たちに魔物討伐をさせるメリットはかなり低くなるのではないだろうか?


 そう考えての発言だったのだが、オーロ皇帝はニヤリと笑った。

 

「構わん。あとで財務担当の文官から連絡させよう」


 どうやら、私は交渉を間違えたようだ。


「昨年のリヒト様が指揮した魔物への対応が各国で話題になっております」


 そう教えてくれたのはオーロ皇帝の後ろに控えていたネグロだ。


「王侯貴族だけでなく、国民たちにも高評なようだ」


 そうオーロ皇帝は満足げだ。

 魔塔主が補足説明をしてくれる。


「単純に討伐すると森林への被害もありますが、リヒト様は討伐だけではなく共存する方法を考えて環境も維持していましたからね」

「私は指揮をした覚えもなければ、各国のために環境に配慮した覚えもないのですが……」


 もふもふな魔獣のためになら多少環境のことも考えたが、その国の国民のために環境維持を考えたことは正直なかった。

 一国の王子としては失格だろう。


「リヒト様ご自身がどのように考えていようと、結果としてはそのように受け止められたのです」

「その結果のオーロ皇帝の無茶振りなら、私の行動は失敗していますね」

「それは否定しません」


 もうちょっと魔獣重視の行動をして、私には魔物討伐を任せられないと思ってもらった方が良かったかもしれない。

 計算の甘かった自分にがっかりしてため息をつく私を見て、オーロ皇帝は満足そうに笑った。


 それから、オーロ皇帝は「ああ、そういえば」と次の話題に移った。


「リヒト。其方、ナタリアを振ったそうだな?」

「魔法学園内部に出来たダンジョンの報告も終わったため、御前を失礼します!」


 私は慌てて魔法学園の生徒会室に転移した。


 オーロ皇帝がナタリアを心配している様子だったのならば私も真剣に向き合わなければいけないかと思ったが、オーロ皇帝の表情はどことなくにまついていた。

 あれは、私を揶揄うつもりだったに違いない。


 私がナタリアを振ったというのは語弊があるが、それもきっとオーロ皇帝はわかっていてわざとあのような表現をしたのだろう。

 私が慌てて弁解する姿を見たかったのかもしれないが、孫娘の恋愛をネタにしてまで私を揶揄おうとする人物に丁寧に説明をする必要はないだろう。


 普通なら、どんな話題であれ帝国の皇帝が話を振ったのにそれに答えることもなく、それも目の前から転移で消えるなど失礼だと怒られるところだろうが、魔塔主には「さすがリヒト様! 素晴らしい機転です!」と褒められた。


 ……それもどうなんだろう。







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