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220 恋する勇者

お読みいただきありがとうございます。


 魔塔主に怯えて私の後ろに集まっていた精霊たちにお願いしてダンジョンを消してもらうと、ヴェアトブラウの花畑は消えてなくなり、どこまでも続く魔法学園の廊下が現れた。

 さらに精霊たちは魔法学園の校舎の廊下の形をしたダンジョンも消していく。


 そして、私はダンジョンから抜け出すことができた。


「リヒト様!」


 光の粒子となってダンジョンが消えていくと、カルロの姿を見つけることができた。

 

「カルロ!」


 私がカルロに手を伸ばすと、カルロは私の手をしっかりと握って引き寄せてくれた。

 そして、その勢いのままに抱きしめてくれる。


「カルロ、心配させてごめん」


 私はカルロの腕の中、温かな心臓の音とさわやかな香りに包まれて、カルロの元に戻ってきたことを実感した。




 気持ちが落ち着いて周囲を見ると、ヘンリックとラズリ、それからハバルもダンジョンの前で待ってくれていたようだ。

 彼らに注目されて、私は恥ずかしくなって慌ててカルロの腕の中から離れたが、カルロの手はしっかりと私の手を握ったままだった。


 私が寮に戻ると目の下を黒くした生徒たちが食堂で待っていた。

 どうやら、眠れなかった者たちが多数いたようだ。

 心配させてしまって申し訳ない。


「私の不手際でナタリア様を危険な目に遭わせてしまい、申し訳ございませんでした」


 私はナタリアにまず謝った。

 ナタリアがダンジョンに取り込まれてしまったのは、そもそも私が精霊たちに気を回すことができなかったためだ。


「精霊が悪いのにリヒト様が謝ることではないと思います」

「そうは言っても、精霊たちに謝らせるわけにもいかないだろう?」


 精霊たちが謝ったところで誰も見ることができないのだから。


 不満を表すカルロの頭を私は撫でた。

 ふと精霊たちが見せていたカルロの幼少期の幻影を思い出す。


 幼少期のカルロの髪型は今よりも長めで、サラサラの髪を堪能することができた。

 今はすっきりとした髪型だが、それでもサラつやな髪質は変わらない。


「しかし、反省はしているような気がします」


 私以外に唯一精霊が見えるラズリが言った。


「元気がないように見えます」


 私も精霊を見るが、確かに、いつもよりも光が弱いような、飛び方も勢いがないような気がする。

 しかし、精霊は小さな光にしか見えず、表情があるわけでもない。

 ただ、こちらの思い込みでそのように感じるだけのような気がする。


 私が精霊を見ていた視線を食堂に集まった生徒たちに向けると、生徒たちがものすごくじっとこちらを見ていた。

 その目には心配以外に驚きの色が見える。


 一体どうしたのだろうかと首を傾げると、ナタリアが口を開いた。


「もしかして、リヒト様は精霊が見えるのですか?」


 あ、やばい。これも秘密だった。


 本来、精霊は精霊を祖先にする妖精族にしか見えないはずなのだ。

 それ以外に精霊を見ることができるのは、肉体を持たない存在と考えられている。

 それは全ての人が知っている常識というわけではないが、図書室にあるラズリの研究書なんかを読んでいればわかることだ。


 私が精霊を見ることができることがわかっても、イコール転生者だと思う者はいないだろうが、人間ではないなどとあらぬ誤解をされるのは面倒だ。


 私は驚いた表情を作って首を横に振った。


「そんなまさか! 私にそのような能力はありません! ただ、ラズリ先生の視線を追っただけですよ」


 自分としてはなかなか上手い演技だったと思うのだが、ナタリアは疑わしそうに私を見てくる。

 しかし、他の生徒たちは「そ、そうですよね」とぎこちなく笑っていたので、きっと大丈夫に違いない。


 ちなみに、何やら余計なことを言いそうになったラズリは前もって魔塔主に叩かれていた。


「……そうですよね。精霊が見える人間などいるはずがありません。しかし、誤解を与えないようにこれからは気をつけてくださいまし」


 ナタリアはそれ以上追求しないでいてくれるようだ。


「ダンジョンの件も、精霊のイタズラということで一年生には伝えた方がいいでしょう。下手にリヒト様が責任を感じては、精霊とリヒト様に特別な関係があると勘繰られかねませんから」


 確かに、私が精霊に気に入られているとか、そんな情報は余計だろう。


「ありがとうございます」


 私がナタリアにお礼を言うと、ナタリアはなんとも言えない表情で苦笑した。


 いつの間に二日も経ってしまったようだが、ナタリアはつい先日、私に告白をし、私の返事を予想して身を引いてくれたのだ。

 これまでは意味を読み取れなかった表情に少し胸が痛んだ。


「リヒト様! お部屋に戻って休みましょう!」


 カルロが私の肩を引き寄せた。


 カルロはナタリアの前では幼少期から少し過敏に反応していた。

 それは、カルロがナタリアを好きだからだと思っていたのだが、そうではないと知ってから見れば、カルロの姿は全く違うものに見える。


 カルロはずっと、私を帝国の姫に取られまいと必死だったのだ。

 そう考えると、非常に恥ずかしく、そして、胸の中が甘く疼いた。


 ナタリアもカルロもすごいと思う。


 人を好きになって、それを相手に伝える勇気があるのだ。

 私はそれだけで彼らを尊敬できた。

 中身52歳の私にはなかなか難しいことだった。


 いや、私は彼らと同じ年頃の時にもこんなに情熱的ではなかった。

 むしろ、自分の恋愛対象が同性であることを隠すことに一生懸命で、誰かを好きになることなんて怖くてできなかった。






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