22 謁見
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金髪白皙碧眼の美幼児であるリヒトには前世の記憶がある。
前世、52歳で亡くなるまでの記憶があるリヒトは中身が”おじさん”であることを隠しながら、前世の推しであるカルロを不憫な未来から守るべく国の改革を目指す!
しばらくBL要素はなく、ブロマンス要素の方が強いと思いますが、徐々にBL要素が強めになる予定です。
豪奢な謁見室の玉座に座っていた皇帝は思っていたよりもずっと若々しく、巨大で、体格が良かった。
オーロ皇帝が周辺国を傘下に収めるために動き出したのは30代、それから50年が経っているのだが、80代にはとても見えない。
渋みのあるグレーヘアに彫りの深い顔には深い皺が刻まれているが、その眼光は鋭く、大賢者のような荘厳な面持ちと同時に、その体はがっしりと屈強で、いまだに現役の老剣士のようでもあると思った。
私はレッドカーペットの上を歩き、皇帝の前まで進み出るとエトワール王国式の礼をした。
「エトワール王国 第一王子 リヒト・アインス・エトワールです。この度は私のような若輩者をルシエンテ帝国にお招きいただき、ありがとうございます」
私の横に魔塔主、後ろには乳母とカルロ、グレデン卿がいる。
それぞれに礼をしているはずだ。
「ふむ……思っていたよりも大きいな。昨日、6歳になったばかりだと聞いていたが?」
「はい。幸い、同年代の者よりも体の成長が早いようです」
「その体に押し込まれているという膨大な魔力のせいか?」
「……それは、私にもわかりません」
私がそう控えめに答えたにも関わらず、私の隣に無作法に立つ魔塔主がまたしても余計なことを言った。
「おそらく魔力の影響でしょう。リヒト王子は魔力量も多いですが、扱える属性も多いですから。魔力を蓄え、膨大な魔力を適切に扱えるように体の成長が早い可能性があります。このように子供の頃から優秀な魔法使いはなかなかお目にかかれませんから、比較対象がいないのが残念ですが」
魔力と人体の不思議について語り続けようとする魔塔主をオーロ皇帝が止める。
「魔塔主、少し黙っていろ」
「もうリヒト王子との顔合わせは済んだでしょうから、リヒト王子は私が連れて行ってもいいですよね?」
オーロ皇帝が止めはしたが、それで止まる魔塔主ではなかったようだ。
「魔塔主、少し黙っていろ」と、オーロ皇帝は再び制止の言葉を繰り返した。
「リヒト、このように魔塔主から其方が非常に優秀な人物だと聞いている。魔塔主とは非常に仲がいいそうだな」
「魔塔主は私の魔法の師匠ではありますが、仲がいいなど恐れ多いことです」
「それでは、其方から自国に魔塔を移すようにと進言したわけではないのか?」
どうやら、オーロ皇帝は恐ろしい勘違いをしていたようだ。
「そのようなこと、あるはずがございません。我が国は小国です。魔塔主に満足いただけるような資金提供もできませんし、魔塔の力を欲する他国から魔塔を守るような武力もありませんので、できれば魔塔の移動は考え直してほしいと思っております」
「でも、ほしいものはないか聞いたら、私に守ってほしいと言ったではないですか?」
私は隣に立つ魔塔主を睨んだ。
本当にこの男は余計なことしか言えないのだろうか?
「そうなのか?」とオーロ皇帝の眼差しが厳しくなる。
「誤解です。誕生日プレゼントに何かほしいものはないかと聞かれましたが、弟子である私が偉大な師匠から何かをもらうなど恐れ多く、断る口実に魔塔主が少し困るお願いをしたのです……必要な時に一度だけ助けてほしいと……もちろん、魔塔と各国の関係性上、無理なお願いであると考え、断られることを前提にしたお願いだったのですが……」
「魔塔主が真に受けてしまったということか?」
「はい……オーロ皇帝には、私の浅はかな言葉によりご迷惑をおかけしたことを心よりお詫び申し上げます」
「いや、其方に咎はなかろう。それに、魔塔が我が国にあるのは私の父の代までのはずだったのだ。それを魔塔主が移動するのを面倒がってずっと我が城の隣に魔塔があっただけのこと」
意外な真実に私は驚いた。
オーロ皇帝が引き留めていたというわけではなかったようだ。
「確かに、魔塔が我が国にあれば脅威は減るが、魔塔がある間に周辺国は傘下に納めて脅威になりそうな部分の対処も終わっている。魔塔が我が国から出ても問題はない」
「そうだったのですね……」
「ただし」とオーロ皇帝の声が少しばかり低くなった。
「エトワール王国が我が国に戦争など仕掛けてこなければの話だ」
「そのようなことは決して行いません。我が国は小国。小国は小国なりの生き方を心得ております。魔塔が移動してきたからと急に国力が変わるわけではございませんから」
オーロ皇帝は玉座から私をじっと見下ろし、髭で覆われた顎を撫でた。
「6歳と話しているとは到底思えんな」
魔塔主といい、オーロ皇帝といい、年齢と経験を重ねてきた者はやけに鋭くて嫌になる。
「魔塔がエトワール王国に移動することはいいが、代わりと言ってはなんだが、其方が我が国に来るというのはどうだ?」
「……どういうことでしょうか?」
「言葉通りの意味だ。理由はなんでもいい。王子として知見を深めるために城に留まっても構わんし、私の養子になっても構わん」
なんて軽々しく養子なんてことを言うのだろうか。この皇帝は。
豪胆というか、なんというか。
「もしくは」と皇帝は面白そうにその目を細めた。
「私の孫娘の婚約者になるのもいいだろう」
思わず、「は!?」と失礼な声をあげそうになったが私はなんとか堪えた。
「どうだ? 私の孫娘は可愛いぞ?」
「失礼を承知で申し上げます」
「なんだ?」
「皇室の義務、国民を守る義務を理解するには幼い姫に政略結婚などという重責を負わせるのはかわいそうだと思います」
「孫娘は其方と同い年だぞ?」
「6歳など、年齢としてはまだ幼いと思います。なんの心配もさせずに笑わせてあげるのが親心……祖父心ではないでしょうか?」
「其方も6歳だが、王族の義務を果たすために単身でここに来たではないか?」
「すでに察しておられるかと思いますが、私は変わり者です。変わり者の私と比較しては姫様がかわいそうだと思います」
クックックッと皇帝が笑った。
「其方のような真面目な者がなぜ魔塔主に気に入られたのか不思議だが、私も其方を気に入った。ここに滞在している間は夕食を共にとろう」
「え……」
自分が招いたとはいえ、複数の国を傘下に収める帝国の皇帝が人質のような立場の子供と食事を共にすることなどあるのだろうか?
「嫌か?」
オーロ皇帝は私の反応を面白がるようにニヤリと笑った。
「いえ、あまりに恐れ多く……」
「便利な言葉を多用していると心を見破られやすくなるぞ」
「……ご助言感謝いたします」
「確かに、其方を一般的な6歳の子供と思っては、他の子供たちがかわいそうだ」
なんと返答するのが正解なのかわからないことを言い、皇帝はクックックと再び楽しそうに笑った。
「では、また夕食の席でな」
「はい」と、私が礼をすると、魔塔主が私の手を掴んだ。
「では、リヒト王子、次は魔塔に行きましょう」
「魔塔主、これから魔塔にリヒトを連れて行くのはやめよ。夕食の時間に帰ってこれまい。明朝にせよ」
皇帝は魔塔主にそう命じたが、魔塔主が言うことを簡単に聞くはずもなく、そのまま皇帝の言葉を無視して私の手を取って引っ張って行こうとする。
すぐに解放してくれるのならば魔塔の中を見てみたい気はするが、皇帝の言う通り、時間がかかるに違いない。
「魔塔主!」
私は謁見室を出たところで魔塔主の手を引っ張った。
「少し疲れましたので一旦休憩したいです!」
「では、魔塔の私の部屋で休ませてあげます。特別に」
そういうことではない!
「リヒト王子、お部屋の準備が整いました」
私と魔塔主の会話が終わるまで控えていた執事がそう声を挟んだ。
空気を読んでくれてありがたい。
「お城のベッドで横になりたいです!!」
「そんなに疲れているのですか?」
「何せまだ6歳ですからね! 休まないと今後の魔塔主の実験にも差し障りが出るかもしれません!!」
魔塔主が不意に私の頭を撫でた。
「何するんですか!?」
「いや、必死に嘘をつく姿が可愛くて。そんなに魔塔に行くのは嫌ですか?」
「魔塔には興味がありますが、皇帝との約束を違えるわけにはいきませんので」
「夕食を一緒に食べようというやつですか?」
「はい」
「それまでに戻ってくればいいのでしょう?」
「魔塔主は時間感覚がないというか、多くの人よりもゆっくりと時が進んでる感覚だと思います。だから、時間が守れないのです」
「そうでしょうか?」
「これまでも講義は大抵遅刻していましたし、終わる時間も予定時間を超過することがしょっちゅうだったではないですか?」
「そう言われてみればそうだったかもしれないですね」
「その記憶までないのですか?」
「魔法以外のことはどうでもいいので」
「それほど打ち込めるものがあるというのはある意味羨ましいですね」
「リヒト王子にもあるじゃないですか」
私は首を傾げた。
「なんのことですか?」
魔塔主がちらりとカルロへと視線を向ける。
確かに、カルロを幸せにすることが私の目標だ。
「しかし、私のものは魔塔主のように途方もない時間をかけて行うものではなく、期限付きのものですから」
ゲームでカルロやヒロインが活躍した年齢は15歳だ。
15歳でヒロインは生涯を共にする相手を選ぶはずだ。
カルロを選んでもらえるように私は精一杯頑張る。
その後は、カルロが暮らす国を暮らしやすい国となるように頑張ろうかな。
執事に部屋まで案内された私は部屋に入り、ソファーに深く腰掛けた。
私の前に魔塔主が座る。
「……なぜ魔塔主までこちらに?」
「せっかくですから、夕食の時間までご一緒しようかと」
魔塔主は夕食の席には招待されていなかったが、この勝手気ままな魔塔主が参加することはきっと皇帝も織り込み済みだろうし、皇帝が指示を出さなくても執事さんがなんとかするはずだ。
「意外に暇ですね」
「今日から数日間はリヒト王子のために予定を開けておきましたから」
特にお願いはしていないが随分と恩着せがましい言い方をしてくる。
「それでは、この国の法律について詳しい者を紹介してくださいませんか?」
こちらが恩を感じるような行動をしてくれなくても恩着せがましいのならば、少しくらい利用してもバチはあたるまい。
「では、魔塔に行きましょう!」
どうして、そんなにも私を魔塔に連れて行きたいのか……
いや、わかっている。
絶対に実験のためだ。
「こちらに呼んでください」
「リヒト王子は頑固ですね」
「私の予定に配慮して行動してくださる方が相手ならば、頑固になる必要もなくラクなのですが?」
私は前世から割と温和な性格だと自負しているが、魔塔主は私を苛立たせる天才のようだ。
次の更新は9月1日 午前8時です。
よろしくお願いします。




