214 学年対抗模擬戦 02
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ノアとヨスクの対戦に続いて、ランツとフリッドの対戦があった。
ランツもフリッドも得意な属性が火属性だったが、ランツは一年生に配慮して魔法陣が形成されるのを待つようなことはしないため、フリッドはランツから飛んでくる火魔法を防御するのに手一杯になっていた。
ランツは初級魔法から初めて徐々に火力を上げ、フリッドの防御魔法が耐えられなくなってフリッドが吹き飛ばされたところで試合は終了になった。
模擬戦に不参加の水属性の生徒たちがフリッドに治癒魔法をかけている。
しかし、一年生の治癒魔法は発動がやはり遅く、さらに初級の治癒魔法のために治りが悪そうだ。
私が席を立ってフリッドの治療に向かおうとするとオーロ皇帝に止められた。
「リヒトが治療してしまっては水属性の生徒たちの見せ場がなくなるだろう」
確かに、試合に参加しなかった者たちもどこかしらで見せ場があるというのは大事かもしれない。
フリッドも意識はしっかりとしていて、危険な状態というわけではない。
私はライオスに声をかけて、一年生の近くで治癒魔法のアドバイスをしてほしいとお願いした。
魔力の少ないライオスも試合には不参加で、生徒会のメンバーとして私の側で待機してくれていたのだ。
人一倍魔法への情熱があるライオスは魔力量は少ないものの、省エネな魔法陣や効率的な魔法陣を作成するのが上手い。
一年生にも適切なアドバイスができるはずだ。
その後もハバルが生徒一人一人の名前を呼ぶと、模擬戦を行う一年生の生徒の親は少し緊張した様子を見せた。
ノアとランツの活躍で二年生の実力は十分に伝わったためか、二年生の親はそれほど不安そうな様子を見せることはない。
結果から言えば、一年生はさしたる見せ場もなく完全敗北となった。
二年生は当然のように圧勝した。
リリアネットは他の一年生よりは善戦するかと思ったのだが、対戦相手が悪かった。
対戦相手はカルロで、カルロの触手に杖を取り上げられ、魔法陣を形成できないまま触手に襟首を掴まれて場外に出されてしまった。
一年生の逃げ場として、場外に出たら負けというルールにしておいたので、リリアネットは場外に出された時点で負けだ。
いつものように容赦無く触手でぐるぐる巻きにしなかったのはカルロの優しさだったのだろう。
一国の王女がぐるぐる巻きというのはあまり絵面的によろしくないだろうから。
最後の試合はナタリアとクリスティアンだった。
最初こそ、水属性のナタリアに攻撃魔法は使えないと思っていたクリスティアンは余裕そうな様子を見せていたが、足元から氷が登ってきて動きを封じられて焦り出した。
そもそも、リリアネットがランロットを水球に閉じ込めたところも見ているはずなのだから、どうして水属性の魔法使いだから安全だなどと油断していたのか不思議だ。
ナタリアはクリスティアンを氷でしっかり固定してから、魔虫を退治した時のように水球を出現させた。
その水球は魔虫を閉じ込めた時ほどは大きくなく、ちょうど人の頭ほどの大きさだ。
クリスティアンの頭の高さに浮いたそれが徐々にクリスティアンに近づいていく。
風属性のクリスティアンは強風で水球とナタリアを吹き飛ばそうとしたようだったが、ナタリアは防御魔法でそれを防いだ。
ナタリアの魔法の方が強固で、クリスティアンに向かっていた水球も揺らいだりはしない。
自身の頭の高さにある水球に恐怖を感じたクリスティアンは防御魔法を張ったのだが、ナタリアの作り出したそれほど大きくはない水球は豊富な魔力が含まれた高度な魔法だったようで、クリスティアンの防御魔法を侵食するように進んだ。
激しい戦闘は行われていないにも関わらず、じわじわと迫りくる確実な死の気配にクリスティアンは蒼白となった。
「まいりました!! 私の負けです!!」
水球が鼻に触れた瞬間、恐怖心に負けてクリスティアンは叫んだ。
相手の動きを封じ、水球がゆっくりと迫り来ることで未来の自分の姿を想像させて恐怖を煽り、勝利を勝ち取るという方法は他の生徒たちでは思い付かないようなものだった。
圧倒的な武力や資金、知力を見せつけて周囲の国を制圧していったオーロ皇帝の孫娘らしい勝ち方だと、私もちょっと引いた。
ちなみに、水を生み出したのは水属性の魔法だが、それを宙に浮かせるのも水球の形を維持するのも風属性の魔法であり、さらにそれをゆっくりと移動させるのは高度な魔力操作が必要だ。
魔法に詳しいものならば、ナタリアがどれほどすごいことをしたのか理解できるが、観客席の王侯貴族にはおそらく理解できないだろう。
ただ、彼らにもクリスティアンの恐怖は伝わったのか、 青い顔を緊張に強張らせていた。
しかし、勝利者は皇帝の溺愛する孫娘であり、オーロ皇帝が機嫌よく拍手しているので、皆、なんとか笑顔を作って拍手を送った。
「観客の皆様……いえ、一年生の保護者の皆様にお伝えいたします」
予定の試合が全て終わり、二年生の全勝を受けてナタリアは拡声の魔導具で観客席にいる生徒の保護者である王侯貴族に話しかけた。
「あなた方のお子様はあなた方の指令を一生懸命守ろうとした結果、リヒト様の気を引くことに集中するあまりに碌に魔法の習得もできておりません」
にこりと微笑んだナタリアの笑顔が怖い。
一見、華やかな笑顔にも関わらず、恐怖を感じさせる。
「わたくしたち二年生が一年生だった頃と比較しても、彼らの成長速度は著しく遅く、魔法学園の生徒として非常に情けない成果です。しかし、これは彼らのせいだけとは言えません。先ほども申した通り、彼らは学習よりも保護者の皆様の指示を全うすることに重きを置いた結果ですから」
観客席の保護者たちは皇帝の孫娘の機嫌を自分たちが損ねてしまったのだと気づき、その顔を青くし、目を泳がせている。
笑顔一つで大人をあれだけ青ざめさせることができるのだから、さすが皇帝の孫娘である。
「魔法学園に来て魔法の成果が上がらないようでは意味がありませんから、今後、彼らに成長が見られないようでしたらわたくしがお祖父様の後ろ盾を使って彼らを退学といたしますわ」
それは横暴なのではないか? とも思ったが、同時にそれはこの学園を創設し、生徒会長をしている私が言うべき言葉だったとも思った。
それをナタリアが公言してしまった。
もしかすると、私はナタリアに庇われたのではないだろうか?
ナタリアは私に敵意が向かないように、皇帝の孫娘として横暴に振る舞って見せたのかもしれない。




