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213 学年対抗模擬戦 01

お読みいただきありがとうございます。


 大会当日はあっという間に訪れた。

 司会進行役は教師たちの中で一番常識のあるハバルだ。


 一年生大量強制送還で少し常識を疑ったものの、他の魔塔の魔法使いたちよりはだいぶマシなのは変わらない。


「模擬戦とは言えど、実力差がありすぎる生徒同士では危険ですので、対戦相手は抽選ではなく教師たちによる話し合いによって決められています」


 ハバルは開催宣言を行った後に、対戦相手の決め方や勝敗のルール説明などを行った。

 声を拡張する魔導具が使われている。


「リヒト様は今すぐに魔塔に入れるほどの実力ですから、大会には出場いたしません。その代わり、会場に結界を張っていただくことで皆様に実力を披露しましょう」


 ハバルの言葉に従い私は会場の中央に進み出ると、場外へと出てしまった魔法が観客を傷つけないように、観客席を守ための結界を張った。


 会場を包み込む結界はそれなりのサイズの魔法陣となる。


 私が魔法陣を形成していく最中、会場がざわめく。

 この場にいるのはテオ以外は王侯貴族のため、魔法陣の形成を見たことがある者たちばかりだろうに。

 まるで感嘆を漏らすような声が聞こえてきた。


「リヒト様、魔鳥の襲来などあると困りますので、結界は観客席を挟むように二重の結界にしてください」


 魔塔主が途中から指示を出してくる。

 そういうことは最初に言って欲しい。


 ラルスが頑張ったので、魔塔主やオーロ皇帝がいる観客席は非常に豪華だった。


「それから、雨が降っても嫌なので、雨風を防げるようにもお願いします」


 だから、そういうことは最初に……

 私は組み上げていた魔法陣を魔塔主の指示があるたびに少しずつ変更を加えながら結界を形成していった。


 魔塔がエトワール王国に移ってきてからというもの、私は空き時間があるたびに魔塔に行き、少しずつ結界について学んできた。

 現在では、エトワール王国の城や王都、魔法学園の敷地の結界も私が張っている。


「さすがリヒト様ですね。私でも面倒な魔法陣形成途中からの変更を難なく行うとは」


 魔塔主の機嫌のいい声が会場中に響く。


 私も別に難なく行っているわけではないのだが?

 魔塔主の指示に渋々従っているにすぎない。


 観客たちはおそらく、私がいるこのエトワール王国の結界が高性能のものだと考えただろう。

 そして、親としてはそうした結界で守られている国にある学園に子供たちを通わせていることに少なからず安心感を覚えたのではないだろうか?


 子供たちの安全性が確保されていることは学園を信頼してもらうという意味ではいいのだが、魔塔主の目的はおそらくそこではないだろう。


「それでは、魔法学園学年対抗の模擬戦を行います。まず、最初の生徒は一年生のヨスクと二年生のノアです」


 魔法学園の中では国も身分も関係なく平等のため、紹介は学年と名前のみとしている。


 名前を呼ばれたヨスクとノアは少し高くなったリングへと上がる。

 元々の屋外訓練場にはこのような石造りの円形リングもなかったのだが……どうやら、土属性の魔法使いたちは随分と張り切ったようだ。


 ヨスクは風属性で、ノアは風属性と土属性が使える。

 ノアは観客席やリングを作る時にもラルスの指示の元、よく働いていた。


 二人とも好戦的な性格はしてないため、落ち着いた様子でリングの上に上がり、ハバルの「はじめ!」という言葉と同時にヨスクは詠唱を始めた。

 ノアは詠唱ではなく杖を魔法陣形成の補助に使っている。


 空気が読めるタイプの王子であるノアは、どうやらヨスクの魔法陣形成に自身の魔法を合わせているようだった。

 最初から圧倒的力で一年生の魔法を潰していては、観客としても見応えがないと考えての配慮かもしれない。


 ヨスクは小型の竜巻のようなものを生み出して、ノアへと放ったが、ノアは土壁でそれを防いだ。

 ヨスクの竜巻により土壁は瞬時に壊れたように見えたが、それもノアの狙いだ。

 砕かれた土壁は風魔法により宙に浮き、ノアの杖の動きに合わせてヨスクへと向かった。

 目前に迫った礫にヨスクは目を瞑った。


「……?」


 しかし、一向に自分にぶつかってくる様子がないために、ヨスクはゆっくりと瞼を開く。

 そして、自身を囲むように無数の礫が宙に浮いていることに気づいて青ざめる。


「ヨスク様、降参されますか?」

「ま、まいりました……」


 ノアの問いかけに素直に負けを認めたヨスクを囲んでいた礫は、次の瞬間、ヨスクの足元に落ちた。


 元々、ヨスクはこの大会に乗り気ではなかったし、クリスティアンとナタリアの間で突発的に決まった模擬戦のため、参加も強制的なものではなかった。


 自国の王である父親に相談した結果、出場するように指示を受けた一年生の王子王女が大半だったが、上級貴族などは下手に自国の王族より目立たない方がいいために不参加としている生徒もいた。


 しかし、一年生の中でも真面目に座学も実技も取り組んでおり、魔法の実力を伸ばしていたヨスクは周囲からの期待もあって不参加を言い出せなかったのだ。


 ノアが空気を読んでヨスクの魔法が発動されるまで待ったとは言えど、ほんの数分で終わってしまった一回戦目に会場内は微妙な空気になった。


「相手の攻撃を計算の上で魔法を構築したのはさすがでしたね! ノア様!」


 私は会場の空気を変えるために盛大な拍手を送った。

 まずは、勝者のノアへ。

 当然の勝利でも、これまでの彼の努力は賞賛するべきだろう。


「そして、ヨスク様も上級生相手によく頑張りました」


 年齢はヨスクの方が上だが、この魔法学園においてはそんなことは関係ない。

 複数属性を扱うことができて、訓練を積み重ねてきた者の方が圧倒的に強いのだ。


 私はできるだけ会場中に響くように拍手を送り、二人を労った。

 私の拍手につられるように二年生が拍手をし、一年生がそれに続き、観客席からも拍手が聞こえるようになった。






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