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210 決闘!?

お読みいただきありがとうございます。


「「リヒト様、おはようございます!」」


 寮から学園の校舎へと向かっているとそのように声をかけられた。

 声から相手を予測しながらそちらを見れば、予想通りにヨスクとフリッドだった。


 二人は生徒会室でランロットへの不満を言っていたが、その後、一年生たちに私の考えをしっかりと伝えてくれたようだ。

 そして、二人は率先してランロットと関わってくれるようになったとランロットからも聞いている。


「リヒト様、教科書のこの部分がすこしわかりにくくて……」


 歩きながらもヨスクが教科書を開いて指をさす。

 私も歩きながらそこに目を通して、解説する。


 ヨスクもフリッドも魔法の学習をよく頑張っている。

 二年生の魔法の腕にはまだまだ遠く及ばないものの、一年生たちの中では成長が著しいとハバルも言っていた。


「今日もお昼をご一緒してもいいですか?」


 フリッドの言葉にカルロは眉間に皺を寄せたが、私はカルロのその眉間の皺を指のひらでさすってやりながらフリッドに了承を返す。


 一年生の様子を教室まで見にいくわけにはいかないため、今年は昼食をできるだけ食堂で摂り、一年生の様子を見るようにしている。

 ヨスクとフリッドに食堂で出会った時に声をかけて、食事をしながら一年生たちの授業の進捗や問題がないかと聞いたことがあったのだが、それ以降、私を食堂で見つけると二人は同席するようになった。


 ランロットとテオもよく一緒に昼食を摂るが、ランロットはテオに食事のマナーを教えながら、テオはランロットから貴族の振る舞いを習いながらの食事となる。

 二人とも頑張っていて偉い。


 彼らとの昼食は肩肘張ることもなく気軽なものだったが、他の一年生から求められる同席の許可には注意しなければいけなかった。


 食堂のテーブルは6人席で私とカルロ、ライオスとザハールハイドが座ると、残り2席。

 その2席にランロットとテオが座るか、ヨスクとフリッドが座るかという感じだった。

 ちなみに、ヘンリックは私の護衛騎士なので、私たちが午後の授業を受けている間にシュライグと共に昼食を取っているらしい。


 この2席にまだ誰も座っていない時に、他の一年生が来たりするのだが、彼らは私に婚約の打診をしたり、自身との婚約の有用性を語り出したりするのだ。

 おそらく、アイレーク王国の第一王子が私に婚約打診をしたことによって他の者たちも動き出したのだろう。


 当然、私はそれらの話を全て断り、作り笑顔で流した。

 しかし、私以上に私のクラスメイトたちは一年生のそうした行動に敏感に反応していた。


 二年生のクラスメイトたちが一年生たちの邪魔を積極的にしてくれていたのだが、二年生たちの苛立ちが募り、我慢の限界に達する方が私が苛立ちを感じるのよりもずっと早かった。

 やはり中身の若さの違いだろうか?


 そして、カルロから睨まれたり、他の二年生の冷たい視線を浴びたり、時には皮肉や嫌味を言われた一年生たちの大半はそれ以上無闇に私に近づいたりはしないのだが、一年生でありながらも年上の者たちは違う。

 特に、アイレーク王国の第一王子はなかなか私の婚約者という立場を諦めてはくれないようだった。


「リヒト様、ごきげんよう」


 昼食中、すでに席が埋まっている状態でも彼は話しかけてくるのだ。


「こんにちは、王子」

「リヒト様はなかなか私の名前を呼んで下さらないですね。気軽にクリスティアンとお呼びください」

「王子は初めてお会いした時に名乗りませんでしたから、名前を知らなかったのです」

「……私は自己紹介をしていませんでしたか?」


 はて、そうだっただろうか? とでも言いたげなクリスティアンに私はにこりと微笑んだ。


 もちろん、私は彼の名前を知っていた。

 彼はこの学校の生徒なのだから。

 しかし、名乗らない者の名前をわざわざ呼ぶ必要はないだろう。


 幼い子供ならば名乗らずとも名乗るということを教えるところから手を貸してもいいだろうが、クリスティアンは来年は成人の年齢だ。

 彼の教育を私がする必要はないと思っている。




「お兄様、いい加減にしてくださいまし!」


 その後も繰り返し私にアプローチをかけていたクリスティアンに妹のユーティアが怒った。

 座学の教室から訓練場へ移動する途中にクリスティアンと廊下で出会ったのだが、親しげに手を振って私に近づいてくる兄の姿に苛立ったようだった。


「この学園は魔法を学ぶための場所です。意中の相手に自身をアピールするための婚約者探しのパーティー会場ではございません!」


 一年生もよく通る廊下だ。

 そんなところで兄妹喧嘩をするのはよくないだろうと私は止めようとしたのだが、私よりも早くナタリアが動いた。


 皇帝の孫娘のナタリアならばこの場をうまく収めてくれるだろうと私はナタリアに任せることにしたのだが、話は私の予想外の方向へと向かった。


「今年の一年生たちはどうにもこの学園での過ごし方を間違っているようですわね。この学園は他の多くの国にある貴族専用の学園とは違います。魔法学園と名のつく通り、魔法を真剣に学ぶための場所です」


 ナタリアがなんとも迫力のある笑顔で微笑んだ。


「そのような健全たる場を結婚相手を探す場だと勘違いしている方々たちにこの学園にいる資格はありませんわ。その勘違いを叩き直して差し上げますから、わたくしたち二年生と決闘してくださいまし」


『決闘』という言葉に私は驚いた。

 勘違いを正す必要はあるが、その手法が決闘である必要はないはずだ。


「リヒト様はお優しいため、退学にするお考えはないようですが、不純な考えを持っている者たちは叩き直します!」


 ナタリアのその宣言に拍手を送った者がいた。


「それはいいですね」


 ちょうどその場を通りかかったハバルだ。

 他の魔法使いたちも一緒だ。


「面白そうですね」

「勝敗の判定はどちらかが倒れるまででいいですか?」

「敗者には罰則として魔塔に魔力を提供してもらうというのはどうですか?」

「それならいい魔導具があります」


 通りかかった教師役の魔法使いたちの賛同の声もあり、どういうわけか魔法学園学年対抗の模擬戦を行うことになってしまった。






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