208 二人の一年生
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ランロットをテオの教育係にして数日、想定通りに一年生からアクションがあった。
「あ、あの、リヒト様にご相談があるのですが……」
そう廊下で声をかけて来たのは14歳で試験を受けた王子だ。
つまり、一年生ではあるが、私よりも彼の方が年上なのだ。
私よりも年下の者よりも年上の者の方が不満をぶつけにくるかもしれないなとは思っていたので、想定内だ。
ちなみに、彼と連れ立って来たおそらく友達だろう王子は仏頂面だ。
確か、彼も14歳だったはずだ。
年下の同級生よりもやはり同い年の方がつるみやすいのかもしれない。
生徒会室で話を聞くことを伝えて、彼ら、二人の王子を連れて生徒会室へと入った。
ソファー席を勧めて、シュライグにお茶を出してくれるようにお願いして彼らに向き直った。
「私はルーガン王国の第三王子 ヨスクです」
「ゴート王国の第一王子 フリッドです」
二人の自己紹介に私も自己紹介をした。
私の後ろではザハールハイドがメモをとっている。
生徒たちからの要望や相談内容は記録を残しておくように私がお願いをしたからだ。
「リヒト様はどうしてテオの教育係りにランロット様をつけたのですか?」
「どうしてというのは?」
「私たちの方が適任だったと思います」
最初に声をかけてきたヨスクの質問に私が質問で返せば、仏頂面のフリッドも言った。
「それこそ、どうしてですか?」
「ランロット様は、テオのことを虐げたではないですか!?」
「ちょっと落ち着いて」と、フリッドをヨスクが止めようとする。
「しかし、我々は彼のせいで退学させられそうだったのだぞ!?」
シュライグがお茶を出してくれたので、私は彼らにお茶を勧めた。
出されたお茶は好みでなくとも礼儀として口をつけるように教わっている彼らは大人しくカップを手に取った。
「ランロット様はあれは八つ当たりだったとテオに謝罪し、テオは謝罪を受け入れました。彼らはお互いの不足を理解して友達になったのです」
「それでも、テオを虐げていない我々の方が適任だと思うのですが……」
「私はそうは思わなかったからランロット様にお願いしたのです」
わざとらしくにっこりと微笑めば、ヨスクとフリッドは少し怯んだようだった。
「立場の弱い者を虐げることはもちろんやってはいけないことです。そして、同時に、困っている者に手を差し伸べることもせずに見て見ぬふりというのも権力を持つ者の矜持として行なってはいけない行為だったとは思いませんか?」
私の言葉に王子二人はその表情を曇らせた。
特に、明確に不満を表していたフリッドは唇を噛んでばつの悪そうな顔をしている。
「即座にテオを守ることができずに、申し訳ございませんでした」
「私も、その点は反省しています」
私は笑顔を維持したまま、シュライグが出してくれた焼き菓子を彼らに勧めた。
気まずそうにそれを食べ始めた彼らに私は気になっていたことを質問する。
テオは今生徒会室にはいないからちょうどいい。
「せっかく勇気を出して話しかけてくれたあなた方に私からも質問をしてもいいですか?」
私からのささやかな賄賂をもぐもぐと食べているヨスクとフリッドは戸惑った表情をしながらも了承してくれた。
「ランロット様がテオを罵倒した際に、賛同を示していた者が数名いたと聞きました。それが誰なのか教えてもらってもいいですか?」
「すみません。私はあの場の状況に驚いてしまって、周囲を見ていませんのでわかりません」
ヨスクは申し訳なさそうにそう言った。
そして、フリッドは思い出すように考えて答えた。
「確かに、そうした者たちは数名いましたが、すでに教師たちによって強制送還されています」
「そうですか……魔塔の魔法使いたちは見る目があるようですね」
「授業中に余計なことを考えていたり、不必要な会話をしている者たちはどんどん強制送還されていますので、残っている者は真面目に授業を受けている者たちばかりです」
今の二年生が一年生だった時もそうした者たちをどんどん排除した結果、まとまりのあるクラスになった。
自分たちはまとまりがない割には場を乱す王侯貴族を排除するのが上手い。
……いや、魔塔の魔法使いたちが管理をラクにするために面倒な生徒を排除したと考えれば、彼らは自分たちにとって都合のいい手段を取ったに過ぎないか。
「なるほど、わかりました。ありがとうございます」
私はヨスクとフリッドにお礼を言った。
「あの……」と、ヨスクが控えめに声を漏らした。
どうやらまだ話があるようだ。
「なんですか?」
私が聞けば、ヨスクは少し思い切ったように質問した。
「一年生が生徒会に入るにはどのような条件がありますか?」
「生徒会に興味があるのですか?」
「はい。どの学校でも生徒会に入る生徒は優秀な生徒ですよね? 王子王女という立場上、皆、優秀さを認められるために入りたいと考えていると思います」
承認欲求を満たすために生徒会に?
「なるほど、そういうものですか……しかし、正直、今の生徒会は雑用係のようなものですよ?」
まだできたばかりの学園で、さらに生徒数もそれほど多くないため、行事らしい行事もない。
生徒会だからといって華々しい活躍をする場はないのだ。
「問題ありません。リヒト様と関われること自体が貴重ですから」
「私と関われることが貴重?」
私は首を傾げたが、はたとハバルの言葉を思い出した。
私が次期魔塔主や次期皇帝になると勘違いしている者たちがいるという話があった。
そんな勘違いをしている者たちにとっては、私に取り入って情報を得ることは重要だろう。
「生徒会に入るための明確な条件は決まっていません。しかし、ヨスク様の言うとおり、この部屋にいるメンバーは全員優秀です」
私の言葉にカルロやザハールハイド、ライオスという生徒会室にいた者たちは少し背筋を伸ばした。
ヘンリックは学園の生徒ではないが、私の護衛にも関わらず、事務仕事もしてくれるという非常に優秀な騎士だ。
私は彼らに視線を向け、そして、ヨスクとフリッドに視線を戻して微笑んだ。
今度は作り笑顔ではなく、仲間たちを称えて微笑んだ。
「彼らの日々の様子をよく観察していれば、もしかすると生徒会に入る条件を見出すことができるかもしれませんね」
「リヒト様は人を誑かさずにはいられないのでしょうか?」
ヨスクとフリッドが生徒会室を出ると、カルロがそう頬を膨らませた。
「たぶらかしてないよ」
最近、カルロはなんだかずっと拗ねている気がする。
「カルロ、リヒト様は無意識にやっているのですから、それを咎めても意味はないですよ」
ライオスの言葉にカルロはますます不満顔になる。
ぷっくりと膨れる頬が可愛くて私は思わずつついてしまった。
アルファポリスのキャラ文芸大賞エントリー中。
『化け猫拾いました。』
https://www.alphapolis.co.jp/novel/135536470/153930155
ちょっとオレ様気質な化け猫 & JKうようよコンビのハートフルコメディ。
迷子イタチを探したり、稲荷神社のお狐様とお話ししたり、化け猫を拾ったうようよの不思議な日常を描いています。
切りのいいところまで書いて、ひとまず完結としてあります。
文字数も少なく、一気読みに最適です!
本日までキャラ文芸大賞の投票が行えますので、ひとまず読んでみていただけますと嬉しいです!
面白ければ、続きを書くチャンスをいただけるかもなので、投票よろしくお願いします☆