206 統率者
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「強制送還した者たちを復学させるのですよね?」
生徒会室で昼食をとりながら魔塔主とハバルに一年生の復学について相談するつもりでいたのだが、席についてすぐにそう聞かれた。
「魔塔主とハバル先生の意見を聞いてからそのようにしたいと考えていましたが、予想していたのですか?」
「お優しいリヒト様ならば彼らにチャンスを与えるのではないかと思っていました」
「それならば強制送還する前に先に相談してくださればよかったのに……」
「リヒト様の庇護する者を批判し傷つけようとしたこと自体には罰が必要でしたから」
「しかし、その罰を撤回するような決断を私がすることで、魔塔の権威に傷がつくのではないですか?」
私の言葉にハバルは少し笑った。
ちなみに、魔塔主はシュライグが運んできてくれたポタージュスープをさっそく食べ始めている。
「我々は王侯貴族に舐められなければ大丈夫ですので」
「私のような子供が魔塔の魔法使いの決定を覆しては王侯貴族に舐められるのではないですか?」
「リヒト様のことをただの子供だと侮っている者はよほどの愚者でしょう。リヒト様が私の決定を覆したところで我々の立場が弱くなったと考える者は少なく、むしろこれまで以上に危険な存在になったと警戒する王侯貴族の方が多いでしょう」
たかが小国の13歳の王子に決定を覆されることにより、他国にとって魔塔がより一層危険な存在になるというのはどういうことだろう?
私は素直にハバルに聞いた。
「それは、どういうことですか?」
「リヒト様が魔塔主とオーロ皇帝に認められている人物だということはすでに知れ渡っています。おそらく、リヒト様が次期魔塔主や次期皇帝になるのではと考えている王国もあるでしょう」
「なぜ、そんな勘違いを……」
思わず私の眉間に皺が寄る。
「我々はリヒト様が責任感が強い方だと知っていますから、エトワール王国を見捨てて魔塔主になったり帝国の皇帝になることはないとわかっていますが、大抵の人間はより強大な権力を求めるものですから。そんな魔塔主と皇帝に認められている者が魔塔の魔法使い一人の意見を覆せないとは考えていないはずです。そして、リヒト様の判断で復学した者たちとその国の国王はリヒト様の権力の強大さを確認し、さらにリヒト様に従う我々に対してこれまで以上の畏怖を感じるはずです」
「……すみません。私の権力と、魔塔への畏怖がどうして関係あるのですか?」
「我々魔塔の魔法使いは魔塔主を筆頭にまとまりのない自由人の集まりだと知られています。それがリヒト様に従うということは少なからず統率されているということがわかるはずです」
そこでハバルはわざとらしくにこりと微笑んだ。
「一匹狼と、群れている狼、どちらが怖いですか?」
なるほど……
魔塔の魔法使いとは元々一人でも恐れられている存在だった。
しかし、魔塔の全魔法使いが同じ行動を取ることはこれまでなかった。
魔法使いは個々が自由であり、魔塔主も彼らを統率しようということはしてこなかった。
それならば、自国が気をつけて魔塔の魔法使いの気に障るようなことを避けていれば基本的には安全だった。
しかし、魔法学園ができ、他者に従わないはずの魔塔の魔法使いが雇われて教師をしているという奇妙な事態が起こっている。
一つの学園に魔塔全体が協力するなど、これまでならばあり得ないことだった。
さらに今回のことで魔塔の魔法使いが私の意見を受け入れるということは、自由気ままで研究以外では協力的な動きはしないと思われていた魔法使いが他者の意見に耳を傾けて動くということになり、今後、統率のとれた動きをする可能性が出てきたのだ。
魔塔の魔法使いは一人でも一国を半壊するくらいのことはできる。
魔塔主ならば帝国全土を吹き飛ばすことさえもできるだろうと考えられている。
そんな彼らが一人の意思により統率のとれた動きをする可能性があるとなると、それは脅威以外の何ものでもないだろう。
統率のとれた動きをする可能性を見せるだけで、それを帝国内の王国も、帝国外の国々も恐れるだろうとハバルは言っているのだ。
「それならば、ハバル先生の決定を私が覆しても、魔塔としては問題はないということですね?」
「はい」
魔塔主はポタージュスープの後に黙々とスイーツを食べている。
ハバルとの話に一切口を挟んでこなかったということは興味がないのだろう。
「では、強制送還された生徒たちに復学許可の伝達を行います」
魔塔の魔法使いを統率できる子供だと思われるのは面倒だったが、魔法学園を作った者としては子供たちの学び舎を正常な場に整える責任はあるだろう。
アルファポリスのキャラ文芸大賞エントリー中。
『化け猫拾いました。』
https://www.alphapolis.co.jp/novel/135536470/153930155
ちょっとオレ様気質な化け猫 & JKうようよコンビのハートフルコメディ。
迷子イタチを探したり、稲荷神社のお狐様とお話ししたり、化け猫を拾ったうようよの不思議な日常を描いています。
切りのいいところまで書いて、ひとまず完結としてあります。
文字数も少なく、一気読みに最適です!
一月末までキャラ文芸大賞の投票が行えますので、ひとまず読んでみていただけますと嬉しいです!
面白ければ、続きを書くチャンスをいただけるかもなので、投票よろしくお願いします☆