200 裏目
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その日は本当は食堂に行って、改めて今日のことをみんなに詫びようかと思っていたのだが、光の聖剣のことがバレているとなるとすこし面倒だと思い、結局はいつも通りに自室で夕食を食べた。
テオが夕食を食べていない時間ならばテオも私の部屋に招いて一緒に食事をしながら今日の様子を聞こうかとも思ったが、すでに新入生たちは夕食を摂った後だろうし、テオも疲れてもう寝ているかもしれないから呼ぶことはせずにおいた。
そして、疲れ切っていた私はその夜、光の聖剣が使えることがみんなにバレたかもしれないということをそれほど思い悩むこともなく、すぐに眠りについた。
しかし、それは体の疲れによるもので、私は夢の中で光の聖剣にまつわるこの世界のお伽話をひと通りおさらいしてしまった。
エトワール王国においての光の聖剣は、建国神話にて神が初代国王となる少年に与えた剣とされている。
そして、実のところ、光の聖剣の伝説があるのはエトワール王国だけではなく、各国にある。
それはエトワール王国同様に建国神話だったり、英雄譚や賢者の話だったりと登場人物やストーリーがすこしずつ違うけれど、その国の中枢に関わる人物の話だ。
そうした子供の頃に読んでいた話を夢の中で復習し、早朝に目が覚めた私は改めて面倒なことにならなければいいなと思った。
そんなちょっと憂鬱な気持ちを抱えたまま身支度を整えて、カルロとシュライグに朝食の準備をしてもらう。
「本日もテオ様を朝食にお招きしますか?」
シュライグの言葉に私は頷いた。
「そうですね。昨日の様子も聞きたいですし、そうしましょう」
どことなくほっとした様子のシュライグが率先してテオを呼びに行ってくれた。
シュライグと一緒に部屋を訪れたテオは、昨日の朝の様子とは違い、明らかに落ち込んでいた。
それに目の下にはクマがある。
よく眠れなかったのだろうか?
「どうしたのですか? テオ?」
テオの不安そうな瞳が揺れて、涙が浮かぶ。
「リヒト様、僕のせいで大変なことになっちゃいました。ごめんなさい」
一体何のことかわからなくて私は首を傾げる。
「テオ? 何かあったのですか?」
涙ぐむテオの顔を覗き込んでから私は気づく。
テオは新入生の中で唯一の平民だ。
しかし、他の者は誇り高き王侯貴族だからいじめのようなことはしないと思っていたが、甘かったのだろうか?
テオの瞳から今にも雫がこぼれ落ちそうだ。
「テオ、大丈夫? いじめられたりしたのですか?」
テオは否定も肯定もせずに、ただ握りしめていた拳に力を入れた。
「僕のせいで、僕とリリアネット様以外、全員強制送還されちゃったのです」
とうとうテオの瞳から大粒の涙がこぼれ落ちて、テオはぐすりと鼻を啜った。
今、なんて言った?
新入生73名中、2人以外が強制送還!?
つまり、71名もの生徒が入学した翌日には強制送還されたというのか!?
「い、一体何があったのですか!?」
テオの話によると、授業が始まる前、教室に生徒たちが集まった時点で一人の生徒から声をかけられたそうだ。
どこぞの国のその王子は平民であるテオのことを見下し、バカにし、じっと耐えていたテオのことを罵倒した。
それを見兼ねたクランディア王国の王女が水球に相手の王子を閉じ込めて黙らせたということだった。
私は昨日の巨大バッタが水球で溺死させられていた場面を思い出してゾッとした。
「えっと……王子は、生きていましたよね?」
「はい。応急処置もリリアネット様が魔法でしていました」
リリアネットは水球の中で気絶した王子を風魔法で浮遊させて逆さにするとぶんぶんと振って水を吐かせたらしい……
それを応急処置と言ってもいいのだろうか?
そんなことをしている間に教師役の魔塔の魔法使いが来たそうだ。
「ハバル先生はその状況を見て、何があったのか察してくれたみたいです」
他の魔塔の魔法使いではなく、ハバルが来てくれたことに私はホッと安堵したのだが、すぐに教師がハバルだったにも関わらずテオとリリアネット以外が強制送還になってしまったことはおかしいと気づいた。
「ハバル先生は僕やリリアネット様だけの話でなく、怖い王子様や他の王子たちやお姫様たちにも話を聞いて……」
そう。ハバルは話を聞かずして強制送還にするタイプではない。
そして、話を聞いたのならば、テオを罵倒したのがバカな王子一人だということはわかったはずなのだが?
「それで、リヒト様が庇護している僕をバカにした人たちも守らなかった人たちも学園には必要ないとおっしゃられて……」
ハバルーーー!?
思わず心の中で絶叫してしまった。
ちなみに、ハバルは光属性の魔法は使えないが、今年の魔法学園の新入生たちは入学の際に教師の判断で強制送還される可能性がある旨を同意する契約書にサインさせられており、その契約書が魔導具でもあり、その契約書を魔法使いが破いた際にサインしている者が強制送還されるようになっていた。
昨年は光属性の魔力にしか反応しない魔導具を使って強制送還されていたのだが、それだとその魔導具を使った魔導師が知っている場所にしか転移されないため、場合によっては王侯貴族を森の中や街の中に転移させてしまう恐れがあったため、今年は魔導具の契約書でサインした者の出身国の城に確実に転移するようにしておいたのだが……
安全性を考慮したつもりが、完全に裏目に出てしまった。
魔塔の魔法使いならば誰にでも転移させることができるようにしたのは失敗だったようだ。
「僕のせいで……リヒト様、ごめんなさい」
そうテオは謝ったが、どう考えてもこれはテオのせいではない。
「テオのせいじゃないよ。むしろ、テオが傷つけられる可能性をもっとしっかりと考えておくべきだった。怖い思いをさせてすまなかった」
私の謝罪にテオはぶんぶんと頭を横に振ってくれた。
しかし、やはりこれは私の責任だろう。