表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
199/278

199 確信

お読みいただきありがとうございます。

少しでも楽しんでいただけますと幸いです。


いいねやブックマーク、評価や感想等もありがとうございます。

皆様の応援で元気をもらっています。


「それじゃ、手っ取り早く燃やしていくぞ!」


 私の言葉を受けてランツが炎属性の広範囲魔法を発動しようとした時、それをローナンが慌てて止めた。


「待ってください! 魔虫だけでなく、牧草の草や畑まで燃えては困ります!」


 確かに、魔虫に食い尽くされないように討伐しようとしているのに、燃やしてしまっては意味がない。

 ローナンの注意を受けて、私たちは魔虫を地道に倒すしかなくなった。




「これじゃキリがないぞ!!」


 広範囲魔法で魔虫を一掃することを禁じられたランツは炎を纏わせた剣を振るって巨大バッタを両断した。

 炎属性が得意な生徒たちはランツ同様に草木を燃やさないように注意しながら戦っている。


 風属性が得意な生徒たちは鋭い風の刃で巨大バッタを切断し、水属性が得意な生徒たちは水球に巨大バッタを閉じ込めて溺死させていた。


 水属性の魔法は本来は癒しの魔法なので攻撃魔法が苦手なのは理解できるが、ある意味一番残酷な殺し方だと思う。


 土属性が得意な生徒たちは他に使える属性で対処していた。

 土を使って攻撃できないわけではなかったのだが、土を掘り返すのもローナンに禁止されたためだ。


 闇属性のカルロは触手で巨大バッタを捕獲しては亜空間に放り込み、しばらくすると死体を取り出していた。

 おそらく、空気のない空間に放り込んでいるのだろう。


 生徒たちがそれぞれの方法で戦っている中、私はというと、魔塔主の指示により魔虫の死体から瘴気が発生しないように浄化していた。

 しかし、この浄化魔法中も魔虫は私の周囲を自由に動いており、でかいバッタの気配が迫る度に背筋に悪寒が走った。


 正直、全く浄化に集中できなかったし、浄化に集中することによって身の安全が保たれないことへの恐怖があり、変な緊張感があった。

 身の安全が保たれないというのは、別に巨大バッタが人を噛み殺すとかそういうことではない。

 顎は丈夫らしいが、好き好んで人を襲う魔物ではないと魔物図鑑には書いてあった。

 しかし、気持ち悪いので、身体的接触などされた時には発狂する気がする。

 そういう意味での身の安全だ。


 そして、とうとう、1匹の巨大バッタが他の生徒たちの攻撃から逃げて私の方へと低空飛行で向かってきた。

 さらに、まるでその巨大バッタに続くように、複数匹の巨大バッタが羽を羽ばたいてこちらに向かってきた。


 冷静に考えれば、風魔法で飛行して上空に逃げるとか、転移魔法で安全地帯に逃げるとか、他の生徒たちみたいに何かしらの攻撃魔法で各個撃破すればよかったのだと思う。

 しかし、向かってくる巨大バッタの群れを見た瞬間、私は冷静さを失った。


 そして、気づいた時にはその辺り一帯は光に包まれており、光が消えた後には死骸を含めて1匹の魔虫も残ってはいなかった……




「えっと……皆さんの学びの場を奪ってすみませんでした」


 巨大バッタが無理すぎた私は、無意識に光属性の広範囲魔法を発動して巨大バッタを消し炭にしてしまったようだ。


 生徒たちや牧草の草などは無事で、巨大バッタだけを消し去っているのは私は無意識に巨大バッタだけを対象にした魔法陣を発動させたからだろう。

 生徒たちに被害がなくて本当によかった!

 生徒たちまで消し炭にしていたら私は即極刑だっただろう。


「光魔法のあんな広範囲魔法は初めて見ました!」


 愕然としている生徒たちの中で、魔塔主だけは上機嫌だった。


「いくら研究を進めても底がなくて、本当にリヒト様はいい研究対象ですね!」


 滅多に見せることのない爽やかな笑顔で言われたが、まったく嬉しくない。


「さて、教材も綺麗さっぱり消滅したことですし、学園に戻りましょうか?」




 魔塔主の転移魔法で魔法学園の寮に戻ると、夕食前に湯浴みをして体をきれいにした。

 時間短縮だと言って私と一緒に湯浴みをしようとしたカルロはヘンリックに抑えてもらって、私は手早く湯浴みを済ませた。


「カルロから聞きました」


 私が浴室から出ると、ヘンリックはカルロを浴室に押し込むようにして入れた。


「光の広範囲魔法で魔物を消滅させたと」

「教材を消し去ってしまい、みんなに迷惑をかけてしまいました」


 魔法が落ち着いてしばらくは私を愕然とした様子で見つめていた生徒たちは、その後、私から目を逸らしていた。

 やはり怒っているのだろうか?


 もしくは、王子という立場でありながら冷静さを保てなかった私に呆れているのだろうか?

 中身50代のいいおじさんだと知られたら、きっとますます呆れられてしまうことだろう。

 バッタに怯えるおじさんとか格好悪すぎる。


「リヒト様は光の聖剣が使えることは秘密にされていましたので、秘密がバレてしまったことは残念ですが、でも、おそらく魔塔主が書かせた魔法契約書によって自国の者に話すことはできないでしょう」


 私はヘンリックの顔を凝視した。


「光の聖剣のことがバレたというのはどういうことですか? 今回、光の聖剣は使っていませんよ?」

「光属性の広範囲魔法を使われたのですよね? それも、魔物が消し炭になって死骸を残さないような威力のものを?」


 私は頷いて肯定を示した。


「光属性に浄化の広範囲魔法があるなどこれまで聞いたことはありません」


 確かに、魔法書にもそのようなことは書いていなかった。


「それだけ希少な珍しい魔法を使われたのです。おそらく、これまでの光属性の魔法使いたちには使えなかった魔法なのだと思います」


 私は思わず間抜けにも口を開きそうになって、慌てて唇を引き結んだ。


「つまり、光属性の広範囲魔法を使ったことによって、私が光の聖剣を使える可能性があることにみんな気づいてしまったということですか?」

「生徒の皆さんはリヒト様への信頼度が高いですから、きっと光の聖剣が使えると確信したでしょうね」


 そんな確信はしてくれなくてもいい!






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ