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197 人材確保

お読みいただきありがとうございます。

少しでも楽しんでいただけますと幸いです。


いいねやブックマーク、評価や感想等もありがとうございます。

皆様の応援で元気をもらっています。


 生徒が増えれば生徒会の仕事も増えるわけだが、当然、文官たちの仕事も増える。

 しかし、エトワール王国の内政や外交に関わっている文官たちも忙しく、易々と引き抜くことはできない。


 私の一存で引き抜くというのも気が引けて、さてどうしたものかと考えた時、私は前王の別宮に優秀そうな少年がいたことを思い出した。

 第一補佐官に現状を聞けば、彼は文官の試験に受かっているものの、元愛妾たちのことを考えて別宮から離れることなく、別宮の管理をしながら過ごしているという。


 私が彼らの元を訪れた時から彼は帳簿以外の別宮に関わる事務関係を一人でこなしているという。

 私は優秀な人材を得るために第一補佐官にニカンとの交渉をお願いした。


 魔法学園への初出勤の朝にニカンはわざわざ生徒会室まで挨拶に来てくれた。


「ニカン、別棟から連れ出してしまってすみません」

「いえ、そろそろ離れようかと思っていたのでちょうどよかったです」

「そうですか? 優秀な人材を逃さずに確保することができてよかったです」


 私に視線を向けていたはずのニカンの視線がふと、私の後ろで止まった。

 その視線の先はカルロだ。


「ニカン? カルロと知り合いでしたか?」

「知り合いではありません」


 カルロが即答した。

 やけにキッパリと答えるなと不思議には思ったが、それ以上にニカンの見せた艶かしい微笑みが気になった。

 それはきっと、別宮にいる間に身についてしまった作り笑いだろう。


 私は見本を見せるように穏やかに微笑んでみせた。


「ニカン、これからは文官としての微笑みを身につけてください」


 次の瞬間、ニカンの微笑みは消え、顔が赤く染まった。

 自分がどんな微笑みをしていたのか気づいたのだろう。


「シュライグ。ニカンに表情の作り方を教えてあげてください」

「はい。仰せつかりました」


 最近はもっぱら執事長と一緒に仕事をしていたシュライグだが、ニカン同様、魔法学園の職員増員のために連れてきたのだ。

 シュライグはルシエンテ帝国にいる間はノアールから様々なことを学んでいたからニカンの教師としても最適だろう。


「ダリアのこともこちらに呼んでいただき、ありがとうございます」


 まだすこし頬を赤くしてニカンはお礼を言った。


「生徒が増えて食堂も人員が欲しかったみたいなので、皮剥きができるダリアが来てくれて食堂の料理人たちは喜んでいましたよ」


 ダリアは12歳にしては小柄で、まだ幼さの残る少年だった。

 私より一つしか年齢は違わないはずだが、見た目からはもっと幼く見える。

 ずっと別宮で一緒にいたニカンを引き離しても大丈夫かすこし気になっていたから、ニカンの申し出を受けてすぐに第一補佐官が調理補佐として魔法学園に連れてくるように手配してくれて安心した。


「それにしても、ダリアはあの年で皮剥きができるなんてすごいですね。私はあの年にはまだ皮剥きなんてできませんでした」

「リヒト様は王子ですから、仕方のないことだと……あの年にはということは、今はできるのですか?」

「あ、いえ。やったこともないです」


 うっかり、前世でのことを話してしまった。

 前世の大人の私は当然皮剥きができた。

 しかし、王子であるリヒトが皮剥きができるのはおかしいし、実際にこの体では皮剥きなどやったことはない。


 すこし怪訝な顔をされてしまったが、私の回答を素直に受け入れてくれたらしいニカンはこくりと頷いた。


「リヒト様が野菜の皮剥きなどされるはずないですよね。言い回しが気になってしまいました。申し訳ございません」

「変な言い方をしてしまいましたね。すみません」


 とにかく、優秀な人材を確保できたことは喜ばしいことだった。




「ザハールハイドのことといい、ニカンのことといい、リヒト様は優しすぎます! どうしてそのように誰も彼もをおそばに置くのですか?」


 その夜、寮の部屋でカルロが頬を膨らませた。

 明日には入学式があるので、私は城には帰らずに寮に泊まることにした。

 今年入学する者たちは明日魔法学園に来ることになっており、昨年入学した者たちはすでに全員が寮に戻ってきていた。


「カルロ、生徒が増えるのですから生徒会の仕事も文官の仕事も忙しくなります。増員は当然の処置でしょう」


 私が答えるまでもなくヘンリックが答えてくれた。

 ヘンリックの言葉にカルロの頬はますます膨れた。


「そんなこと、僕だってわかってるよ!」

「でも、気に入らない?」


 ライオスの言葉にカルロは拗ねたようにライオスを睨んだ。


「でも、誰もが羨むリヒト様の一番近くにいるのはカルロじゃないか?」

「もうすこし寛容でもいいと思います」

「僕はただリヒト様に慰めて欲しいだけなのに、どうして二人が口出ししてくるのさ!」

「「そんなの、カルロが羨ましいからに決まってるだろ?」」


 子供たちがわちゃわちゃしているのは平和でいい。

 その光景だけを見ればとても微笑ましく、和むはずの光景なのだが、その話の内容が私のことだというのはいただけない。


 みんな、中身がおじさんの私の何がいいというのか……顔か?

 やっぱり、顔なのか?

 顔だけならリヒトが美男子というのは私も認めるところだ。


 でも、中身がおじさんなのだが……

 ヘンリックとライオスはその事実を知らないから仕方ないとして、カルロはすでに知っているのに、それでも私のことが好きだという……

 とても不思議だ。






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