193 ご褒美
お読みいただきありがとうございます。
少しでも楽しんでいただけますと幸いです。
いいねやブックマーク、評価や感想等もありがとうございます。
皆様の応援で元気をもらっています。
結論から言えば、ザハールハイドの頑張りも虚しく、フェリックスは今年も不合格だった。
これはザハールハイドの教え方が下手だったとか、やはりフェリックスを勉学に集中させることができなかったということではない。
ザハールハイドは教えるのも上手かったし、ザハールハイドの教え方によってフェリックスも勉強に集中することができていた。
しかし、やはり、フェリックスが集中できる内容は飛行技術に関してのみで、ザハールハイドはその点を利用して飛行技術に関連させながら試験に必要な魔法学を教えていたのだが、フェリックスは応用ができなかったのだ。
飛行技術に関連させた魔法学は理解できても、試験では飛行技術に関連した問題が出てくるわけではなく、飛行技術以外の話になった途端、フェリックスの理解力が下がるのだ。
結果、ライオスによる満遍ない詰め込み授業を受けていた昨年よりも点数が下がっての不合格だった。
フェリックスもがっかりしていたが、それ以上にザハールハイドががっかりしていた。
その姿に、私はザハールハイドに同情した。
「ザハールハイド様は私の期待に応え、よくやってくれました」
がっかりと落とされたザハールハイドの肩にそう触れれば、ザハールハイドの瞳に涙が溜まった。
「リヒト様……フェリックス様を合格させることができずに申し訳ございません」
ザハールハイドは涙もろいのだろうか?
ダンジョン制作の時にも泣いていた。
「ザハールハイドは悪くない! 悪いのは頭の悪い俺だ!!」
昨年とは違ってフェリックスは悔しそうだ。
試験に合格できなくて悔しいという気持ちを持つことができただけでも、フェリックスは成長したように思う。
真剣に取り組まなければ、悔しいという気持ちを持つことさえもなかっただろうから。
「フェリックス様も卑下することはありません。二人ともよく頑張りました」
来年もまた受験可能な年齢制限を引き上げる必要があるだろうか?
しかし、成人してからも受験できるとなると、王侯貴族の要求がさらに高くなり、そのうち、年齢制限を撤廃すれと言い出しそうだ。
「来年こそは、フェリックス様を合格させてみせます!!」
ザハールハイドはそう意気込んでいるが、フェリックスは来年は成人だ。
できれば、成人しても受験できるという状況は避けたい。
しかし、中身50代の大人としては頑張る子供たちの背中を押してあげたい気持ちはある……
大人として、私は一体どうすればいいのかと悩んでいると、フェリックスが言った。
「いや、協力してくれたザハールハイドには悪いが、魔法学園に入学するのは諦めようと思う」
「なぜですか!?」
「年齢制限の問題もあるし、飛行技術に関連していない問題を見ても、全くわからない!」
フェリックスがやけに堂々と言った。
私と彼らのやりとりを見守っていたカルロとライオスはフェリックスに呆れたような眼差しを送る。
「しかし、ザハールハイドのおかげで飛行技術に関する魔法陣についての理解は明らかに深まった!」
「だから」と、フェリックスはザハールハイドに真剣な眼差しを向ける。
「ザハールハイドにエラーレ王国に来てもらって、俺の助手になってもらいたい!」
「それは無理です!」
ザハールハイドが即答した。
「私は将来、リヒト様にお仕えすると決めているのです! リヒト様が保護されているフェリックス様を魔法学園の試験に合格させることによって、リヒト様の側近に加えていただく足掛かりとしたかったのですが……」
「それに」とザハールハイドはしょんぼりとして、小声で言った。
「フェリックス様を試験に合格させることができたら、リヒト様からご褒美をいただきたかったのです」
「ご褒美ですか?」
「はい……私を、生徒会に入れてほしくて……」
私は想定外の要望に思わずザハールハイドを凝視した。
「そんなことでいいのですか?」
「そんなことではありません! 生徒会に入ることはみんなの憧れなのですから!」
他国の王侯貴族に仕事を任せることは気が引けて、私とカルロ、それからライオスと、ヘンリックの協力でこれまでは生徒会業務を回していた。
それが、まさか、自主的にやりたいと言ってくれる者がいるとは。
「それはこちらとしてもありがたい申し出です」
私は、人手が増えてよかったね! という気持ちでカルロやライオスを見たのだが、どういうわけか二人はすごく微妙な表情をしていた。
その表情からすれば生徒会の人員が増えることは二人にとっては喜ばしいことではないのだろうが、しかし、実際、人員は足りていないし、これから新入生が入ってきたら生徒会業務はさらに増えることになるため、人員確保はしておくべきだ。
私は二人の表情には気づかなかったことにして、そっと目を逸らした。
「それなら」とフェリックスの声がした。
「俺もずっとエトワール王国にいる!!」
フェリックスがまた無茶なことを言い出した。
フェリックスはエラーレ王国のたった一人の正当な後継者だ。
いくら統治者よりも研究者に向いているとは言ってもそんな我儘は許されないだろう。
そう思ってフェリックスの後ろで控えているハンナを見ると、ハンナは困ったように眉尻を下げた。
「今はエラーレ王国の内政が乱れていますから、落ち着くまではフェリックス様をエトワール王国にて保護してくださると助かります」
なるほど……
「では、フェリックス様、エトワール王国にいる間にライオスとザハールハイド様から学び、魔法陣の理解を深めてください。ライオスとザハールハイド様は引き続き、フェリックスの勉強を見てあげてください」
「もちろん、時間に余裕がある時に」と付け加えておく。
これから生徒会は忙しくなるため、フェリックスの魔導具制作に時間を取られては困る。
エラーレ王国が落ち着くのには数年かかるだろう。
それまでにライオスとザハールハイドの協力を得て、フェリックスの研究がどれくらい進むのか、今から楽しみだ。




