192 入学試験準備
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オーロ皇帝との面会から戻り、私はライオスと第二補佐官と一緒に魔法学園の入学試験の準備を始めた。
それまでの間に我が国を訪れていた生徒たちの大半は帰った。
彼らは2学年に進級するわけだが、また半年ほど寮生活となるため、その準備と両親に顔を見せるための帰国である。
数名の生徒は帰るのは面倒だからと、私とライオスが魔法学園で仕事を始めるのに合わせて寮に移った者もいる。
ザハールハイドは国に帰らずに入学試験の準備を手伝ってくれている。
私も入学試験の準備のために魔法学園の生徒会室で作業するようになったので、寮で寝泊まりをするつもりだったのだが、また半年間も会えなくなるのにと両親に泣かれたので、転移魔法でちょくちょくと帰っている。
私の両親はいつになったら子離れするのだろうか?
若き両親が健全に子離れできるのかすこし心配だ。
忙しくしていたある日、ライオスがフェリックスを連れてきた。
フェリックスは部屋に入るなり、私に頭を深く下げた。
「どうしたのですか? フェリックス?」
「お願いだ! 俺に、もう一度、入学試験を受けさせてくれ!」
昨年だけ特別に試験枠を用意していたのだが、実のところ、昨年よりも今年の方が試験を受けたいという声は多い。
様子見をしていた国の者たちが動き出したようだ。
「フェリックスに試験を受けさせてあげたいのは山々なのですが、今、エラーレ王国には統治者がおらず、その候補としてフェリックスの名前が上がっています」
「それはハンナがなんとかしてくれるはずだ!」
フェリックスの後ろについてきていた乳母のハンナを見ると、ハンナは深く頭を下げた。
「わたくしの実家にオーロ皇帝より使者が参りまして、我が家の爵位を復活させてくださるそうです」
「それは良かったですね」
「以前のように公爵領も任せていただけるようですし、王家に逆らって捕らえられた領民も解放してくださるということで、オーロ皇帝には感謝しかありません」
「……ハンナさんのご実家は公爵だったのですか?」
「はい」とハンナは頷いた。
フェリックスの後ろ盾をなくすためとは言え、前エラーレ王は公爵家の爵位を剥奪していたとは、横暴が過ぎるのではないだろうか?
ハンナの話を聞けば、ハンナの実家の公爵家がフェリックスの代理として政務をこなしてくれるため、フェリックスが魔法学園に通っても問題はないという。
「では、試験に合格することができれば、フェリックスの入学を許可しましょう。他の国からも受験者の年齢制限を引き上げてほしいという要望が多数届いており、オーロ皇帝からもそのようなお話がありましたから」
それも魔塔が拒否すれば通らない希望なのだが、魔塔が興味があるのは生徒の年齢ではなく才能だ。
「合格、か……」
私の言葉にフェリックスは不安そうな表情を見せた。
試験に合格できる自信ができたから魔法学園を受験したいと言ったのではないのだろうか?
私がライオスに視線を向けると、ライオスは首を横に振った。
次に、ハンナに視線を向ければ穏やかに微笑まれたが、心なしかその微笑みは苦い。
「……ヘンリック」
私はそばで控えていたヘンリックに声をかけた。
「はい」とヘンリックが返事をしてくれる。
「フェリックスの勉強を見てやってはくれないだろうか?」
「私はリヒト様の護衛騎士です。リヒト様のおそばを離れる指示には従えません」
ゲームではヘンリックがフェリックスの面倒を見ていたから、もしかしたら協力してくれるだろうかと思ったが、今はヘンリックとフェリックスの関わりはほとんどないため、この返答も納得だ。
ハンナは魔法学には詳しくなく教えることはできないというし、そもそも、フェリックスの問題は椅子にじっと座って勉強をすることが苦手で、さらに飛行技術に関連したこと以外には興味がなくて勉学に集中できない点だ。
「……フェリックス、どうして、魔法学園に入学したいと思ったのですか?」
「やっぱり人を飛ばすには人力だけでは難しそうだから、魔導具を作りたいんだ!」
魔導具を作るためには単純に魔法を使うよりもずっと深く魔法陣を理解する必要がある。
「あの、リヒト様……」
ずっと私たちのやりとりを静かに見守っていたザハールハイドがおずおずと声をかけてきた。
「なんですか?」
「私が勉強を見ましょうか?」
確かに、ザハールハイドならば適任だ。
教科書にできそうなくらいわかりやすいノートをとっているザハールハイドは当然、魔法学や魔法陣学などをよく理解している。
さらに、ザハールハイドの国は知性の国と呼ばれるクランディアで、幼い頃から勉強するのが当たり前のお国柄だ。
もしかすると、小さな子供でも集中させる秘策を持っているのかもしれない。
「よろしいのですか?」
私がそう確認すれば、ザハールハイドの表情が明るくなった。
「リヒト様のお役に立てるのなら喜んでやります!」
正直、フェリックスが合格することと私にはあまり関係がないのだが、子供たちがやる気になっているのだから見守ることにしょう。