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【BL】 不憫な推しキャラを救おうとしただけなのに【幼児ブロマンス期→BL期 成長物語】  作者: はぴねこ
帝国編

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19 帝国からの招き

お読みいただきありがとうございます。

徐々に読みに来てくださる方が増え、ブックマークしてくださる方が増え、とても励みになっています!

ありがとうございます!!

少しでも楽しんでいただけますと幸いです。


金髪白皙碧眼の美幼児であるリヒトには前世の記憶がある。

前世、52歳で亡くなるまでの記憶があるリヒトは中身が”おじさん”であることを隠しながら、前世の推しであるカルロを不憫な未来から守るべく国の改革を目指す!


しばらくBL要素はなく、ブロマンス要素の方が強いと思いますが、徐々にBL要素が強めになる予定です。


 執務室には顔色の悪い王をはじめとして、同じく顔色の悪い宰相と第一補佐官、第二、第三補佐官がいた。

 彼らの話によると、魔塔主の話は相談ではなく、魔塔を王宮の横に移動させるからよろしくねという一方的な報告だったそうだ。


「父上、魔塔主を止められず申し訳ございません」

「リヒトのせいではない」


 父王が青い顔のままぎこちなく笑った。


「そうですよ。我々も誰も何もできませんでしたから」


 第一補佐官も安心させるように優しく微笑んでくれた。


「即刻、ルシエンテ帝国への対処を考えましょう!」


 宰相の「王妃様を呼んでください!」という声に補佐官の中で唯一女性である第三補佐官が王妃を呼びに行った。


「しばらくは忙しくなるぞ」


 王の言葉に皆気を引き締めて慌ただしく動き出した。

 父王は私に先ほどよりもマシな笑顔を見せた。

 息子に余裕な姿が見せたかったのかもしれないが、その顔色は悪いままだった。


「お前たちはこの後も授業があるだろう? この国の未来のためにしっかり学んでおいで」

「……私が王になる頃には魔塔が他のところに移動してくれていることを願います」


 そう呟いた私を王は珍しいものでも見るようにしばし凝視した。


「リヒトにも苦手な人間がいるのだな」


 父王はひどい親バカなせいか私を買い被っているところがある。


「当然です……というか、魔塔主が苦手じゃない人がいるのなら会って、対応の秘訣を聞きたいです」

「確かにそうだな」


 私の言葉に父王も宰相や補佐官たちも声を出して笑った。

 少しは心の余裕ができただろうか?

 私は挨拶をして王の執務室を後にした。




 王はその日のディナーには顔を見せなかった。

 どうやら、いつもの時間に食事をとる暇さえもないほどに忙しくしているようだ。

 王妃は「きっとお父様が何とかしてくださいますから大丈夫ですよ」と微笑んでいたが、翌日の朝食にも父王の姿はなかった。


 それから数日後には王妃も食事の席に現れなくなった。

 もうすぐ6歳になる子供の見た目だが、私の中身は52歳のおじさんだ。

 それでも、いつもの食事風景と違い、大きな食堂に一人だけ座っていると少し寂しさを感じた。


 前世では、一人暮らしのマンションでいつも一人で食事をしていたのに、この国に生まれてからの6年間、多忙なはずの両親は私に孤独を感じさせないように朝の食事だけは一緒にとるように努力してくれていた。

 時に王が公務でいないことはあったが、王妃が席にいない時は、王妃が風邪で寝込んだ時くらいのものだろうか?


 王妃がいない時には、私に甘い父王がいつもよりも私に近い場所に座って、寂しさを埋める工夫をしてくれていた。

 私の中身は52歳なのだから全然平気だったのに……


 前世の記憶を持って生まれてきたために、王のことも王妃のことも両親としてちゃんと見たことがなかった。

 彼らはゲームの攻略対象の両親だが、ゲームには全く姿を見せないモブで、よく知らない人物たちだった。

『父上』『母上』と呼ぶようにと教育されていたからそう呼んでいたが、正直、自分とはあまり関係のない存在のように感じていた。


 しかし、私はこの6年間ですっかり絆されていたのかもしれない。

 二人がいない食事は少し味気なかった。


「リヒト様、今日はカルロが一緒にお食事をしてもよろしいですか?」


 いつも礼儀に厳しい乳母がそう提案してくれた。

 私の気持ちを見抜いたのかもしれない。

 私がカルロが一緒に食事をすることを許可するとカルロは嬉しそうに私の隣に座った。

 誕生日の時と同じ席だ。


「そういえば、もうすぐ6歳の誕生日だね。カルロは何か欲しいものはあるかい?」

「またリヒト様と一緒に寝たいです」


 カルロはおずおずとそんな願いを口にした。

 なんて控えめな願いなのだろう。


「そんなことでいいの? 遠慮しなくてもいいんだよ?」

「それじゃ……リヒト様にぎゅーもしてほしいです」


 謙虚すぎる願いをその頬をほのかに染めて小声で言うカルロの頭を私は思わず撫でた。


「カルロは本当に謙虚だね。そういうのじゃなくて、欲しいものとか食べたいものとかないの?」

「リヒト様とずっと一緒にいられれば僕は幸せです」

「カルロはまだ子供なのだからもっとわがままでもいいのに……」


 欲しいものを言わないというか、わからないというのは、あのネグレクトな元両親のせいだろうか?

 こんなに可愛いカルロを蔑ろにした罪は万死に値する!


「リヒト様、あまりカルロを甘やかさないでください」


 乳母にはそう言われたが、結局カルロは遠慮して欲しいものを口にしてはくれなかった。

 こんなに謙虚なのだから甘やかすくらいがちょうどいいと思う。




「父上と母上はちゃんとお食事を摂られているのでしょうか?」


 カルロと談笑しながらの食事を終えて私は乳母に尋ねた。


「お仕事の合間に摂られていますから大丈夫ですよ」

「執務室で食べているのですか?」


「はい」と乳母は頷いた。


「ルシエンテ帝国が動く前にこちらから先に魔塔主の発言についての書状を送り、移動は魔塔主の身勝手な決断であることを表明したり、エトワール王国内の全ての貴族たちにも状況を説明しなければいけませんから。大臣たちも城に詰めていますし、他の貴族たちも城に来ることが多くなりますので、リヒト様はこれまで以上に城内での移動の際はお気をつけください」


 ルシエンテ帝国が魔塔の移動を知り、こちらに問いただす前に先手でルシエンテ帝国に事情を知らせる書状を送ったり、国内の貴族との話し合いを進めておかなければいけないとなると確かに忙しいだろう。


 全ての貴族たちが父の味方ではない。

 政務に熱心ではない前王の頃に力を持っていた貴族たちはいまだに前王を支持し、隙あらば現王を追い落として前王に再び実権を持たせようと考えているらしい。

 そうした者たちがルシエンテ帝国という大帝国が敵対するかもしれないという今回の問題を大人しく傍観するはずがない。


 魔塔主が引き起こした問題は外交問題だけではないのだ。

 改めて、なんてことをしてくれたんだとは思ったが、最悪、魔塔主に会議に出てもらって、ごちゃごちゃ言う貴族の屋敷も領地も全て魔法で更地にするとでも言って貰えばいいだろうか?


「父上と母上のお夕食は私が持っていってもいいですか?」


 魔塔主のせいで多忙になってしまった二人を労いたいと思いそう申し出た。

 乳母も「それはいい考えですね」と賛同してくれた。




 夕食の乗ったカートを押すと前世の子供の頃の給食係みたいだと、内心で少し笑ってしまった。

 私が父上の執務室の前まで来ると見張り番の騎士が中に声をかけるために少しだけ執務室の扉を開いた。

 その隙間から中での話し声が聞こえてきた。


「リヒトを帝国に行かせるわけにはいかない」

「どうにかしてオーロ皇帝に納得していただかなければいけませんね」


 そんな話し声に、私は騎士の許可を待たずに扉を押し開いた。


「ルシエンテ帝国の皇帝から書状が届いたのですか!?」

「リヒト!?」

「すみません。勝手にお話を聞いてしまいました」


 私は騎士に扉を押さえておいてもらうようにお願いして、食事が乗ったカートを押して執務室に入った。


「父上、母上、お食事をお持ちしました。宰相や補佐官の皆さんの食事もすぐにきますのでお待ちください」

「あ、ああ、ありがとう……」


 私はてきぱきとローテーブルに食事を並べていく。

 呆然としている父上と母上をソファーに座らせて食事を勧める。


「リヒト、今の話は……」


 私は母上の話を遮った。


「まずはお食事をお摂りください」


 疲れ切った脳にまずは栄養を与え、冷静な判断力を取り戻してもらわなければならない。


 食事の後の紅茶にはミルクと砂糖を多めに入れる。

 父上はいつもミルクと砂糖は使わないが、私は強制的に紅茶を甘めのミルクティーにして二人の前に置いた。

 二人は私の顔色を伺うようにしながらそれを口にした。


「それでは、脳に栄養を補充したところで、お話をお聞かせください。ルシエンテ帝国から私の身柄を差し出すように求められているのでしょうか?」

「身柄を差し出すとか、そういうことではない。オーロ皇帝がリヒトと話してみたいと言ってきたのだ」

「今のところ、温和な申し出ということですね」

「表向きはそうですが、実際にリヒト様が行った際にどのような処遇を受けるかはわかりません」


 宰相が言った。


「それでも、私は私が行くべきだと思います」

「リヒト、あなたに危険なことはさせられません」


 母上はいつもの王妃の顔ではなく、母親の顔になっている。

 だからこそ、私はこの国の王子の顔を取り繕う。


「この国を戦場にしないための最善の道を選ぶべきです」


 私の言葉に父上は深いため息をついた。


「息子が賢すぎるというのも、悩ましいものだな」


 父上が父親の顔から王の顔になった。


「王子よ、我が国のためにルシエンテ帝国に行ってくれるか?」

「はい。お任せください」

「それなら、わたくしも参ります!」


 母上の言葉に私は首を横に振った。

 私に万が一のことがあれば、母上には次期王を産むという役目ができるだろう。

 父上は母上を深く愛していて、側室は一人もいない。

 この国にとって母上はたった一人の国母なのだ。


「母上、魔塔主は私のことをとても気に入ってくれていますから、私に危険が迫れば必ず助けてくれるでしょう。ですからご心配には及びません。それに、私もいざとなったら転移魔法を使えます」


 私がずっと秘密にしてきたことを両親に告げると、二人は非常に驚いたようだった。


「リヒトに魔法の才があることは知っていたが……」

「転移魔法は光の聖剣と同じくらい修得が難しい魔法ではないですか……」

「あ、ちなみに、光の聖剣も使えます」


 私の告白に王も王妃も、宰相も第一補佐官も愕然としている。


「リヒト様はまるでエトワール王国を建国した初代王の生まれ変わりのようですね」


 宰相の言葉に私は首を横に振った。


「私はちょっと魔法が得意なただの子供にすぎません」

「光の聖剣と転移魔法が使えることをちょっとと言ってしまえるところが偉大なのですが……」


 第一補佐官が苦笑した。


「とにかく、私はちょっと魔法が得意なので、いざとなったら逃げることができます」

「ですが……」


 息子が思っていた以上に魔法が得意だとわかっても、母上は不安そうだった。


「母上は優秀な息子を信じてはくださらないのですか?」

「……リヒト、無茶をしてはいけませんよ。あなたを失えば、小国とはいえど、我々だって黙ってはいられません。どのみち戦争になるのならば、あなたが戦力としてこの国にいてくれる方がずっといいです。ですから、危険があれば、国のことなど考えずにすぐに逃げてきてください」

「わかりました」

「……6歳の誕生日はいつもよりも盛大に祝おう」


 父上が寂しそうな眼差しでそう言った。


「急いでルシエンテ帝国に行かなければいけないのではないですか?」

「オーロ皇帝もそれほどまでに狭量ではないはずだ」


 父上はすぐにルシエンテ帝国のオーロ皇帝宛に返事を書いた。

 オーロ皇帝の希望通り、私がルシエンテ帝国を訪問すること。

 しかし、誕生日が近いため、6歳の誕生日を終えてから出発することをしたためた。

 オーロ皇帝からはそれで構わないという返事が届いた。

 父上の言う通り、それほど狭量な人物ではなさそうだ。


 ちなみに、書簡は小型の魔導具でやり取りされている。

 そのような魔導具は我が国にはなかったそうなのだが、オーロ皇帝から提供されたという。

 その魔導具を持ってきたのは当然、魔塔主である。

 魔塔主がオーロ皇帝にエトワール王国に魔塔を移動させると報告した際に、オーロ皇帝から魔導具をエトワール王国に届けるようにと指示されたのだとか。


 さすがは魔塔主と長年付き合っていただけあって、オーロ皇帝は魔塔主の扱いに長けているようだ。

 つまり、私が魔塔主の対応の秘訣を聞く相手はオーロ皇帝ということだろうか?


 


 私はルシエンテ帝国へと出発する前にルシエンテ帝国の歴史を学ぶことにした。

 ルシエンテ帝国はいくつもの国を傘下に収めているが、その国々を一つにまとめて一つの政治体制を作っているのではなく、国の自治権を認めつつも、それらを束ねているのが帝国という連邦国家の体制をとっていることは知っていた。

 しかし、改めて歴史を学んでみると、オーロ皇帝が非常に優秀な人物であることが窺えた。


 オーロ皇帝は一代で周辺国を傘下におさめ、ルシエンテ帝国を作り上げていた。

 ルシエンテ帝国はまだ歴史が浅く、五十年ほどしか経っていなかったのだ。

 周辺国家をルシエンテ帝国の前身であるルシエンテ王国の傘下に下す時も、ほとんどが交渉のみで血の流れる戦争を起こしてはいなかった。


 オーロ皇帝が周辺国をおさめるために動き出した頃の周辺国の状況は、国によってはひどい干魃で農作物ができずに餓死者が出るほどの飢餓で、国によっては雨が降りすぎて水害が多発していた。

 その状況の中、ルシエンテ王国は魔塔の力によって最悪の状況になるのを食い止めていた。

 本来は国王が国にいて国民を鼓舞して災害対策を行うべき時に、オーロ皇帝は周辺国に使者を向かわせて、このような天災に備えて国が集まり共同体を作ろうと声をかけたそうだ。


 最初は自分たちの国を取り込むつもりかと警戒した各国の王族たちだったが、オーロ皇帝が説得を試みたのはそうした王族ではなく、飢餓や水害などで非常事態だった国内の国民たちに働きかけたのだ。

 そうして、多くの平民を味方につけた。

 オーロ皇帝は貴族や王族に決断を迫り、無血開城させてルシエンテ帝国の下に降ることを調印させた。

 もちろん、血を流さざるを得なかった国もいくつかはあったが、それはほんのわずかだ。


 そうして大きな帝国を作り上げたオーロ皇帝は各国に適した産業を発展させ、作物や製品、特産品を帝国内で流通させて各国がバラバラだった頃に比べると飛躍的に経済を発展させた。






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