189 欲望 03 (第四補佐官視点)
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「リヒト様のご希望で魔法学園創設に関わることになった」
王と宰相は大臣たちとの会議、そして第一補佐官は文官たちとの会議に出ており、上司のいない王の執務室で第二補佐官がすこし自慢げに言った。
私はリヒト様と年齢が離れているために、リヒト様が王になられるまではリヒト様の側近としてお仕えすることができないとやさぐれてカルロに八つ当たりをしていたわけだが、私がそんなよそ見をしている間に第二補佐官がリヒト様からの依頼で魔法学園創設に関わることになるなど想像もしていなかった。
私はまたしてもショックを受けることになったのだ。
現王は宰相や第一補佐官を子供の頃からの従者で固め、お妃も宰相の紹介で選んだと聞いていたためか、私はリヒト様もご自身の年齢に近く、若い頃に親しくなった者を側近にすると思っていた。
しかし、リヒト様ほどの天才になるとなされることが多岐に渡り、国家事業になり、歳の離れた大人でさえも使うようになるのだ。
こんなことならカルロで鬱憤を晴らしている間にもっと真面目に仕事に取り組んで、リヒト様のお目に留まるような活躍をしておくべきだったのだ!
そこまで考えて、あれ? と首を傾げる。
「リヒト様はどうして第二補佐官を指名したのですか? 特にこれといって目立つ活躍もしていないですよね?」
「お前、後半の言葉は心の中に留めておくべき言葉じゃないのか?」
「すみません。素直すぎるのがたまにキズなんです」
「たまにじゃない気がするわ」
第二補佐官と第三補佐官に呆れた眼差しを向けられた。
呆れながらも「あのな」と私の質問に答えてくれる第二補佐官はだいぶお人好しだと思う。
「私も、リヒト様にとっては私たちなど背景だと思っていたが、リヒト様は私たちひとりひとりのことをかなりしっかりと見てくださっているぞ」
「私の名前まで知ってくださっていたからな」とまたしても第二補佐官は自慢げだ。
つまり、リヒト様は私がカルロを揶揄っていることも知っているのだろうか?
いや、リヒト様の前ではそのような行動は控えていたから、カルロを揶揄っているところを実際に見られたことはないはずだ。
カルロも負けず嫌いだから、わざわざリヒト様に告げ口するとも思えない……告げ口されていたら、多分、私はとっくに左遷させられているはずだ。
しかし、カルロに続き、公爵家のヘンリックが従者 兼 護衛としてお側にいるようになり、私のやさぐれた気持ちはまた少し大きくなっていたから、そうした気持ちで仕事をしている姿は見られていたということだろう。
は、恥ずかしい……
「どうして、わたくしにお声がけしてくださらなかったのかしら? わたくしもリヒト様とお仕事したいのに……」
そう不満を漏らした第三補佐官に対して、第二補佐官は自慢げな様子のままリヒト様のお考えを代弁した。
「リヒト様は第三補佐官が身重でもうすぐ産休に入ることを知っておられた。きっと、第三補佐官の体を気遣ってのことだろう」
「お気遣いは嬉しいですが……第二補佐官だけずるいです!」
文句を言われているにも関わらず、第二補佐官の誇らしげな様子は変わらない。
むしろ、ドヤッとした感じが増長したような気さえする。
その様子が面白くなくて、私は思わず嫌味を言ってしまった。
「きっと、リヒト様も扱い易そうだから第二補佐官を選んだのでしょう」
そんな私の嫌味も第二補佐官は機嫌のいい笑顔で流した。
「そういえば、リヒト様は第四補佐官のことも言っていたぞ」
「え……」
私の心臓が緊張に鼓動を早める。
それは期待からなのか、恐怖からなのか、自分でもわからない。
「自由気ままな第四補佐官なら王族からの依頼でも嫌なものは嫌と断るだろうと」
……え?
「まぁ、リヒト様は本当に人のことをよく見ていますね」
第三補佐官が朗らかに笑った。
「わ、私は、そのように見られているのですか?」
それはつまり、仕事を選り好みするやつだと思われているということだろうか?
いや、その通りなのだが!
しかし、それはまずい!
「実際、上司である第一補佐官にも宰相にも、さらに王に対しても愛想悪いじゃないか?」
「そうよ。エトワール王がお人好しだからお咎めなしで済んでいるけれど、普通は即刻クビじゃないかしら?」
私は血の気が引くのを感じた。
そんな私の様子を見て、第三補佐官は呆れたようだった。
「いやだ。自覚がなかったの?」
「自覚はありました……」
王がお人好しなのを知っていて、最低限の挨拶とか報告くらいしかしてこなかった。
「でも、それをリヒト様がご存知だとは……」
自分のことなど認知されていないと思っていたから自由に振る舞ってしまっていた。
「リヒト様が私のことを認知してくださっていると知っていたなら、もっと取り繕ったのに……」
私の言葉に第二補佐官は驚いたようだった。
「第四補佐官、取り繕うとかできたのか?」
「バカにしてるんですか?」
「バカにしているつもりは……いや、すまん」
謝られて余計腹が立った。