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188 欲望 02 (第四補佐官視点)

お読みいただきありがとうございます。

少しでも楽しんでいただけますと幸いです。


いいねやブックマーク、評価や感想等もありがとうございます。

皆様の応援で元気をもらっています。


 私はその日から私なりに真面目に仕事に取り組んだ。

 これまでのようにサボっていて、万が一にも左遷なんてされたら王子が王になった際にお側でお仕えすることができないのは嫌だった。


 私は絶対に王子の側近として仕事をするのだ。


 そう密かに決意していたのに、リヒト様には護衛騎士がつき、従者がつきと側近が増えていって、いつか優秀な文官が側近になって、私がお側につくのなんて無理なのでは? と不安が募っていった。


 護衛騎士はわかるけれど、従者ってなんだよ?

 急に出てきた子供が私よりも早くリヒト様のお側に侍るようになったことは結構ショックだった。




 それから数年後、どうやらリヒト様の従者のカルロがリヒト様の不興を買ったらしい。


 毎日、リヒト様は他国にお出かけになられているのに、カルロがそれにはついていかずに乳母であるヴィント侯爵から仕事を教えてもらっていた。

 それがしばらく続いたかと思うと、次に第一補佐官が王の執務室にカルロを連れてきて文官の仕事を教え始めた。


 リヒト様の従者ともなると文官になるための試験など必要なく、すでに出世コースにのっているようなものだった。

 第一補佐官は文官のトップにいる方だ。

 そのような方に直接指導してもらえるなど、非常に恵まれた立場だったが、カルロはリヒト様以外にはにこりともしない子供だった。


 私も愛想のいい方ではなく、性格が捻じ曲がっているのも自覚しているため、カルロにとやかく言える立場ではないが、今回の失敗があってもこうして大人たちがサポートして将来はリヒト様のお側に仕えることが約束されているカルロのことが羨ましくて、私は思わず余計なことを言った。


「あの大人なリヒト様を怒らせるとは、お子ちゃまなカルロ様はよほどのことをされたのでしょうね」


 その時、王と宰相が会議に出席していて執務室にはいなかったのが不幸中の幸いだろう。

 まぁ、お二人がいなかったために抑止力がなかったというのもあるが。


 第一補佐官をはじめとした他の補佐官は私を凝視した。

 そして、カルロは、その顔を真っ青にしていた。


 普段見ていたカルロは気の強そうな眼差しをしていたから、すぐに言い返してきたり、お得意の魔法で何かしてくるかと思ったが、そんなことはなかった。


 ただ、カルロは顔を真っ青にし、そして、乾いた唇を引き結んだ。


 その顔だけで、カルロがリヒト様の不興を買ってしまったことにショックを受けていることがわかった。

 もちろん、カルロがリヒト様の不興をわざと買ったとは思っていない。


 しかし、そんなに顔を真っ青にするということは、その年齢にしては利発なカルロでも不興を買うと想像できなかった出来事が起こったのだろうか?

 ある程度想像できた結果ならば、不興を買う覚悟の上で行ったことだろうから、このような表情はしないはずだ。


 第一補佐官は早々にカルロを従者の部屋に帰し、私を叱った。


 私は、第一補佐官の叱り方が苦手だった。

 それは私の両親のように声を荒らげる無様なものではなく、静かに落ち着いた声音で逃れられない正論を説くようだった。


 第一補佐官のお叱りでわかったことは、カルロはリヒト様を守るために自身を犠牲にしようとしてリヒト様の不興を買ったということだった。


 やはり、カルロはお子様だったのだ。

 そして、リヒト様は私が考えていた以上にずっとカルロのことを大切に思っているようだ。


 ……羨ましい。


 おそらく、これから多くの子供たちがカルロのことを羨むだろう。

 けれど、私は、その子供たちのことも羨ましい。

 リヒト様と同じ年代に生まれたということは、それだけでリヒト様の側近になれるチャンスがあるのだ。




 リヒト様と一緒にいる時のカルロは肌艶も良く、唇もよく手入れされてぷるぷるのツヤツヤだった。

 それが、リヒト様と離れている間に肌艶は悪くなり、唇はあっという間にガサガサだ。


 それだけリヒト様のご不興を買ったことがショックだったのだろうが、リヒト様の同情を買おうとするようなそんな姿がまた私を苛立たせた。


「自身の体を気遣うのも貴族の嗜みでは? 特に、王子の従者ともあろう者が、唇の手入れひとつもまともにできないなんて」


 私の言葉にカルロは私を睨んだ。

 私はその鋭い目つきを鼻で笑った。


「まぁ、お子ちゃまなカルロ様にはリヒト様の従者など分不相応だったということですよね?」


 その後も私はカルロを揶揄った。


「リヒト様ほどお美しければ婚約の申し込みも殺到するでしょうね」


 そんな言葉にはカルロは露骨に緊張の色をその顔に浮かべた。


「いくらリヒト様がカルロを大切にしていても、この国のために幼い頃から動かれているリヒト様ならばきっと、エトワール王国のためになる政略結婚を選ばれることでしょう」


 カルロはリヒト様が好きだ。

 それが友愛や敬愛だけではないことは、誰の目から見ても明らかだ。

 ……リヒト様だけはお気づきではないようだが。


 私の言葉に憤るカルロの表情に私は満足を覚える。

 これまで私がカルロに抱いていた感情がそこに見えたからだ。


 カルロを揶揄することで、私はリヒト様のお側にお仕えできる者たちへの嫉妬心を慰めた。


 揶揄いすぎて、カルロの触手でぐるぐる巻きにされて意識を失ったこともあった。

 人は長時間同じ姿勢でいると具合が悪くなるものらしい。






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