185 ダンジョン制作 04
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私は慌ててザハールハイドの頭を撫でて慰める。
ザハールハイドは背が高いから、立ってる状態の彼の頭を撫でるにはちょっと背伸びをしなければいけない。
「違います! 二人を仲間外れにしたのではありません! ただ、第一王子であるランツ様と大国の王子であるザハールハイド様を巻き込むわけにはいかないと考えただけです!」
ランツが顔をあげ、ザハールハイドはその目を瞬いた。
「……つまり、ご不興は……」
「買っていません! むしろ、私はザハールハイド様の能力を高く買っています」
ザハールハイドの表情が明るくなり、涙が止まった。
私はほっと息をつく。
「ランツ様も立ってください」
ランツに手を伸ばすと、私の手にランツがそっと手を置いた。
私はその手を掴んで立たせた。
「二人とも、私たちはあなた方を仲間外れにしたのではなく、魔塔主の魔の手からあなた方二人を守っただけです。他の男子生徒たちは魔法契約で縛られて決して今夜のことを話すことができませんので、責めてはいけませんよ?」
「「わかりました」」と二人は頷いてくれた。
さて、問題は片付いたかと私は息をついたのだが、二人はこの状況を見守っていた魔塔主に視線を向けて思わぬことを言った。
「「魔塔主!! 我々にも契約書をください!!」」
二人の言葉の意味をすぐに理解できなくて呆然としている間に「いいですよ」と気軽に返事をした魔塔主に二人は契約書を出してもらってささっとサインした。
「な、何をしているのですか!?」
「明日はこの二人も連れて実験に行きましょう」
「素材が増えたね〜!」
慌てる私とは対照的に魔塔主は呑気に、ラズリはご機嫌に言った。
「二人とも一体何をしているのですか……」
私は脱力し、頭を抱えた。
「リヒト様、やはり身分の違いで仲間外れにするのは良くありません」
ランツが真剣な眼差しでそんなことを言ってくる。
身分や立場を考えると間違ったことをしているのは彼らの方だと思うのに、道徳的には正しいことを言われているような気もして、なんとも微妙な気持ちにさせられた。
翌日、ランツとザハールハイドも含めてダンジョン制作実験を行った。
カルロが闇魔法で亜空間を作り出し、魔塔主と私もそこに闇属性の魔力を注いでいく。
その様子を見ていたザハールハイドが意外なことを言った。
「あの、リヒト様、私も闇属性の魔力を流しましょうか?」
私はザハールハイドの顔を見つめ、小首を傾げた。
「ザハールハイド様の属性は土と水ではなかったですか?」
「そうだったのですが、先日、カルロの触手に触れて魔力を感じ、自分の中にも似たような魔力を感じたのでその魔力を集めるイメージで集中していたら、使えるようになりました!」
「それはすごいですね!」
カルロの魔力にザハールハイドの中の闇属性の部分が刺激を受けて、自分の中に闇属性の魔力があることに気づいたというような感じだろうか?
「それなら……」
私はランツに視線を向けた。
「ランツ様、手を出してください」
不思議そうな表情をしながらもランツは私に手を差し出した。
私は剣の稽古で皮が硬くなったランツの手を握った。
途端に何故かランツの顔が赤くなる。
「リヒト様!?」
「集中して? 私の魔力を感じてください」
「え? 魔力!?」とランツが動揺し、周囲の王子たちもざわついた瞬間、「リヒト様!!」とカルロの鋭い声が響いて、次の瞬間には強い力で後ろに引っ張られてランツから手が離れた。
驚いて後ろを見ると、魔塔主が私を後ろから抱きしめるようにしていて、カルロは私とランツの間に立ち、真っ黒な剣をランツの首元に当てていた。
「カルロ!?」
私はカルロに駆け寄ろうとしたが、私の体にはしっかりと魔塔主の腕が巻き付いていて動けない。
「魔塔主! 離してください!」
「今のはリヒト様が悪いです」
私が悪い?
「なんのことですか?」
「リヒト様は忘れておられるようですが、魔力を与えるのは夫婦間だけです」
……確かに、数年前にそんな注意を乳母にされたような気がする。
「婚約者である従者君が怒るのは無理もないでしょう」
確かに!!
でも、どうしてランツに剣を向けているのだろう?
怒られるべきは私だ。
「カルロ! ごめん!! 私が迂闊だった!! 悪いのは私だから、ランツ様に剣を向けるのはやめてくれないか?」
「リヒト様は悪くありません」
カルロの口から意外な言葉が出た。
私は悪くないとは、どういうことだろう?
どう考えても、私が悪いように思えるのだが?
「悪いのは、美しいリヒト様の手を取ったランツ様です」
カルロの声がものすごく低い。
こちらからはカルロの背中しか見えないからカルロがどんな表情をしているのかわからないが、その声はこの場を凍らせてしまうのではないかと思うほど冷たく低かった。
「僕のリヒト様の手に触れて、あわよくば魔力をいただければと思いましたよね?」
「い、いや、そのようなことは……」
ランツの目が泳ぐ。
「そのような欲望を抱いたこと自体が罪なのです」




